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しらかば
2024-11-07 21:42:03
4204文字
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光闇
宮代御鶴・朝霧凍磨。6周年記念短編もどき。
一応時系列としては第二部後。
本編未読でも読める
……
と思います。多分。雰囲気で。
御鶴視点、凍磨と模擬戦をする話。
泡沫夢幻6周年記念短編「光闇」
それは夢。
天啓ではなく、夢だと思う。
僕は光の元へと「堕ちて」いく。
人から離れ、いわゆる人ではない存在に招かれ堕ちていく。
それでもいいと思った。
「 」
落ちる僕の目の前には漆黒の闇。そこから這い出る無数の黒い手は僕に手をのばす。まるで僕に行くなと言うように。
思わず僕は手を伸ばす。
そこにいるのはーー誰だ?
ただ、教えられた術を展開すれば幼子ながらにすぐに発動する。それも、大人の放つ威力を遙かに超えて。大人たちは神童だ、歴代最強になりうると持て囃した。
宮代御鶴
みやしろみづる
という存在にはそれが当たり前の日常だった。
故に、彼は飢えていた。
模擬戦の相手となる大人たちを次第に打ち負かしていく。
密かに期待していた魔物すら、たやすく葬る。皆は英雄だと讃えた。だから笑ってそれを受け入れる。
ああ、本当につまらない。
後輩が自分の為に怒った時、「或いはこの男なら僕を満たすかもしれない」と期待した。
期待して期待して、その時の為に禁忌に手を付けた。
「お前は本当に最高だよ、凍磨」
自身を阻んだその男は期待通りだった。まだ発展途上でありながら自身を止め、殺さないで欲しいと懇願した。他ならぬ御鶴の為に。
本当にお人好しで、本当に
……
彼が成長すれば必ず自分を打ち負かす壁になるだろう。自分を満たすだろう。
彼が望むその道を見届けたいのかもしれない。自分を満たす強者となるその時を待ち望んでいるのかもしれない。
「まあ
……
その時に僕はーー」
●●で居られるのだろうか。
時折、そんなことを思うようになった。
「
……
ふう」
これはいつもと変わらぬ、宮代御鶴の定められた光景。
朝起きて瞑想をし、いつものように軽く身体を動かし鍛錬を行う。
「さてと、今日はどうするかな」
今日は約束がある。しばしの休憩をしていると尋ね人は予想通りの時間にやってきた。
「御鶴さん、お邪魔します。今日も宜しくお願いします」
「うん、じゃあ早速だけど始めようか。凍磨」
朝霧凍磨
あさぎりとうま
。
御鶴の後輩であり今は弟子でもある、親友のような相棒のような存在。そしていつか自分を満たすであろうという期待を込めた、まだまだ発展途上の能力者。今日は修業をつけて欲しいと頼まれていつものように鍛錬をする約束だった。
「さっきまで和希さんと組み手してたんですぐにでも動けると思います」
凍磨は自身の武器の剣を取ると身体を軽く動かした。
和希と呼んだその存在は騎士団において最強と謳われる雷能力者。雷霆の二つ名で騎士団の最高戦力に君臨するあの男には対人で敵う者などいないだろう。まあ自分なら負けないだろうが。
ああ、ならばたまには僕も対人で戦いたいな。組み手、それもいいな。御鶴は彼の名を聞いた瞬間に小さく笑いながらその提案を思いついた。
「じゃあ、今日は模擬戦をしようよ。僕と」
「え?御鶴さんと、ですか?」
「うん、制限時間は5分で。ここには防護結界を同時に展開するから
……
」
ああ、これならひりつく戦いが出来るだろう。凍磨の実力を見るにもふさわしいかもしれない。御鶴は札を取り出し祝詞を唱えると目を閉じ、ゆっくりと開いてその言葉を告げる。辺りには暖かな光が空間を覆っていた。
「僕は四神を使わない。言いたいこと、分かるよね?」
凍磨は目を見開いた。
「
……
俺には全力を出せ、御鶴さんは縛りありで戦う。そういう事ですよね?」
わざわざ5分にした理由。それこそが凍磨の闇属性能力の上位とも言える超越状態ーー漆黒幽冥を凍磨が暴走なく使える時間だから。
「待ってください、俺の漆黒幽冥と生身の御鶴さんが仮想空間でもなく現実で?そんなのーー」
危険すぎる。
そう言おうとして凍磨ははっとした顔でこちらを見ている。
「うん、そういう事だよ。僕を楽しませてくれよ?黒騎士、朝霧凍磨」
諦めたように凍磨はため息を付き、剣を抜きそれを地に突き刺す。
「わかりました。でも、どうなっても俺は知りませんよ」
そして彼の茶色の瞳が漆黒に染まる。そのあまりに重い気配は辺りの地を削るように漆黒を纏い、闇は辺りを削っていく。
「例えばーーあんたが死んでも」
ニイ、と笑う凍磨は先程までとは別人のように殺意に満ちた瞳を見せた。
「ああ、ちゃんと僕を殺す気で来いよ?」
挑発するよう御鶴はその目を合わせニヤリと笑う。
「ーー行きます」
凍磨の得意間合いは近距離。ならば相手の得意間合いに入らず距離を取るのが定石。漆黒幽冥と御鶴自身が名付けたその能力の超越状態の大きな特徴は物理攻撃以外を呑み込み己のものとして返す最強のカウンター技。敢えて呑み込ませ、こちらの優位に進めるのもありだろう。
「桜花よ」
素早く踏み込み接近する彼を近寄らせぬよう桜が舞う。
「甘ぇよ、俺が近距離しかやれないと思われたらな!」
御鶴の背後から漆黒の龍は襲いかかる。
「風刃」
それを焦ることも無く風の刃で断ち切れば辺りには闇が散り散りに視界を遮る。
「それで目くらましのつもりかい?」
御鶴を中心としその周囲を暴風が舞う。そしてフッと笑い赤く染まる札を自身の起こした風へと投げた。
「ーー燃やし尽くせ」
その瞬間、暴風は炎をはらみ巨大な火柱を立ち上らせ、手を凍磨めがけ突き出すと炎は一直線に放たれる。
「さあお前の闇で呑み込んでみろよ、凍磨!」
「上等だ!」
凍磨の足元から天高く伸びる闇はその炎を食らいつくように呑み込む。
ああ、お前の性格なら挑発すれば乗ると思ったよ。
小さく笑い、新たな札を2枚取り出すと印を切り炎を即座に消す。
「お前に見覚えのある戦い方をしてやるよ。さあ、お前はどう戦う?」
凍磨のすぐ目の前に接近、その属性はーー
「
……
雷!?まさかーー」
バチバチと帯電する札を突き出し、一直線に凍磨の身体を貫くのは稲妻。
「ーー穿て、雷槍。なんてね?」
凍磨に自身を能力と一体にする技はない。
技は和希のそれと近いものにした。
御鶴はただこの戦いを楽しんでいた。お前なら当然、避けるだろうと読みながら。
「ハッ、その攻撃は嫌というほど見慣れてんだよ!」
剣から溢れた闇は雷を吸収する。
間合いは近距離、つまり形勢逆転。
「じゃ、俺からのお返しっすね」
足元にある闇は漆黒の雷を迸らせ、御鶴の身体を僅かに止める。
「ーー燃やし尽くせ」
漆黒と化した炎を纏う剣は御鶴めがけ振るわれるかに思われた。
「ーーッ!?」
確かに御鶴を切り裂いたはずの凍磨の剣は空を切り、辺りは霧に包まれた。
「簡単な話さ。お前は必ず漆黒で飲み込んだ僕の技を返す。なら炎を冷やせば蜃気楼が生まれる。これを利用しない手はないよね?」
まだまだこんなものじゃないだろう?
凍磨の過敏になった神経を逆なでするようにわざと挑発し、その死角から気配を消し確実に一撃を入れる為に集中する。
時間はまもなく3分。そろそろ凍磨は全力を出して己を倒しに来る。
「
……
」
凍磨の動きが止まる。気配が洗練され、索敵をする為に集中しているのが分かる。
今までの彼ならありえない。これも彼の新たな、もう一人の師匠のおかげだろうか。
間もなく霧も晴れる。その瞬間、一気に駆け出し御鶴は凍磨の背後に接近した。
「そこか!」
凍磨の剣は御鶴の握る刀ーー否、氷で作られた刃に阻まれる。
「敢えて俺の得意間合いに来た理由は?」
「お前を評価しているから、だよ?」
刹那、凍磨の足元にある土から蔦が生えその足をつかもうと絡みつく。
「漆黒よ」
御鶴の背後から蠢くように闇は放たれる。
剣戟を緩めれば凍磨の一閃を浴びる。
このままでは闇の一撃。
「ならば!」
桜が舞う。それは闇を振り払うように舞い踊る。
「これで終わりだ!」
凍磨の闇を纏う一閃が放たれる。
簡単な話。背後の闇を振り払い、相手の足を取れば相手は剣技による近接で止めを刺すしかない。時間はもうないのだからここでどうにかしようと考える。
土壇場のこの状況、最も自信のある慣れた戦い方をするなら彼の場合はーー横一閃の、闇を纏うなぎ払い。
「終わるのはお前だーーカウンター技に能力なんて必要無いんだよ?」
読みは的中。
一歩下がり、位置をずらしながらくるりと背後を取ると御鶴は凍磨の身体に札を当てる。
「勝負あったね、凍磨?」
「
……
参りました」
結界が晴れるのと同時に彼の身体から闇が消え、地に座り込んだ。
「最後の、いけたと思ったんすけどね
……
まさか意図的に俺の得意な状況に導かれていたとか。流石っす、御鶴さん」
「人間、どうしても土壇場には癖が出るからね。もっと戦い方のバリエーションを覚えないとね」
御鶴は凍磨に手を差し伸べる。
「せめて四神を出させてやろうと思ったんすけど、まだまだです。また立ち回りの事覚え直します」
彼はその手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
「次は絶対勝ちますから」
「ふふっ、楽しみにしてるよ」
そしてふわり、と風が凪いだ。
あの夢を呼び起こすかのような静寂が訪れた。
「
……
そっか。お前だったんだね、凍磨」
「え?御鶴、さん?」
凍磨が不思議そうにこちらを見ていた。
「ううん、なんでもないよ?少し休もうか、凍磨」
「はい!また宜しくお願いします!」
ああ、幸せだ。
この幸せが、ずっと続くといい。
「 御鶴さん 」
ああ、あの夢はお前だったのか。
「 あんたは人間だ。だから俺はーーあんたを絶対に見放さない 」
落ちる僕に手を伸ばすのは、優しい闇。
それはただの夢だけど。
お前の行く末を見届けたい。
大きくなった末にお前と戦いたい。
そんな夢は僕が人間でありたいと思うには十分だった。
「
……
お前が僕に手を伸ばすなら、僕もお前に手を伸ばすんだろうね。それはきっと、人間である証明なのかな」
親愛なる後輩の大きな後ろ姿を見ながら、御鶴は掌を翳し笑ってみせた。
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