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いさき
2020-08-29 21:58:39
1796文字
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「Hiro」という少年の話 5
続き、スコベルスコ(わからん)
「Hiro」という少年の話 5
服が肌に貼りつく不快感に目が覚めた。見たことのない天井。ゆっくり部屋の中を見渡すと、ベッドサイドに寄りかかるように長いブロンドヘアが光っていた。着替えか汗を拭けるもの探して体を起こすと、そばに畳んだタオルや水の入った袋を見つけた。袋の周りが水で濡れていることから、あれはおそらく氷が入っていたんだろう。つまり、看病されていたのか?
気付けば手を包み込むように握られていた。力の入らない手を辿ると見覚えのある金髪がもぞりと動いた。揺れて流れる髪の隙間から真っ赤な口紅と、上がらない瞼の奥で鈍く光る翠色が俺を捕らえる。
「
……
起きたの、?」
目尻を擦りながら、まだぼんやりした声音でそう呟いた彼女は、なんだか自分の中の印象とは違って少し戸惑ってしまった。
「ベル、モット
……
?」
尋ねるように名を呼ぶと、彼女は開きかけていた瞳を大きく開けて、そしてよく知る顔で微笑んだ。
「私の顔を覚えているなら上々ね」
綺麗な顔を狐のように歪ませて微笑むその姿は、まさに俺の知るベルモットその人だった。さっきのような無防備な姿を見たことはなかったが、気丈な彼女も組織がなくなったことで弱気になっているのかもしれない。
「あなた、自分のことはわかる? どこまで覚えているか話してちょうだい」
肩にかかった髪を後ろへ流しながらベルモットが問いかける。
「
……
俺は、スコッチ」
「そうね」
「でももう組織はない、だろう
……
?」
「ええ」
「貴女とふたりで、逃げた」
「そう、それで?」
ベルモットは捲し立てるように相槌を打つ。
「逃げて、どのくらい経つかわかる?」
何かの尋問のようで恐ろしい。貼りつく服もそのままに、重ねて冷や汗をかいてしまいそうだ。空気まで、べっとりと体に付き纏うような不快感に包まれる。
「
……
まだ、一年も
……
経っていないだろ
……
?」
彼女の質問の意図はなんなのか。恐る恐る彼女の様子を見ながら答えると、鋭い瞳が少し揺らいだ気がした。
「
……
そう」
彼女がスマホを取り出して何やら操作し始めたので、どこかへ報告するのかと身構える。すると彼女はスマホをこちらへ向けてカチャリとシャッター音を鳴らすので、やはり何者かへの報告に使われるのか。
「おい待て、何を撮って
———
」
「見なさい」
報告を阻止しようとスマホへ伸ばした俺の手を避けながら、彼女はスマホの画面をこちらへ向けた。自然と目を向けたそこには今さっき撮ったばかりの俺の姿が写っている、はずだ。
「聞く限り、今のあなたの記憶と外見にはズレがあるわ」
ベルモットが向けた画面に写るのは、決して髭面の自分の姿ではなかった。
「
……
なんだよ、これ」
「まあ、まだ未成年ってところかしら」
骨格や肌の質感、目の輝きや髪の艶。そこには、かつて見慣れていたはずの、遠い記憶の自分が写っていた。
「待って、なに
……
」
顔に触れようとした自分の手を見ると、記憶よりひと回り小さい。色は白く、手の皺も少ない、ハリのある、見るからに若い手をしていた。
訳がわからない。俺は今三十にもなるおっさんなはずだ。体が若返るなんて、そんなおかしなこと、ある訳が。
「薬よ」
混乱した頭にベルモットの声がストンと落ちてくる。
「あなたが自分の胸を撃ち抜いて死んだ時に飲ませた薬、アレの代償がやっと来たってとこね」
薬、確かに死んだはずの俺が生き返ったのは組織の試薬の効果だと言っていたが、それが? 今になって?
「詳しいことはわからないわ、結局あの薬を投与された人間はあなたしかいないもの」
理解が追いつかない。しかしこんなわけのわからないことを、きっとどんな説明をされても納得できないだろう。
とりあえず受け入れておくしかないと、情報を整理しながら深呼吸する。ベルモットはそんな俺を見て目を細めた。
「付け加えておくと、あなた、三十年より長く生きてるわよ。覚えていないようだけど」
「
……
は?」
酒とタバコはお預けね、とベルモットが鼻で笑うような、嫌な笑顔を向ける。彼女は混乱している俺に向かってタオルを放って寄越すと、シャワールームの場所を伝えて部屋を出て行った。
彼女の後ろ姿を見送って、自分の手を見つめる。白く小さくなった違和感よりも、ずっと柔らかな熱に包まれていた感触がまだ残っているような気がして、心が落ち着かなかった。
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