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jirunobunsin
2015-04-16 11:59:23
2716文字
Public
とうらぶ
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就活生たぬむつ
「どうだった?」
「こないだのは2次までじゃ。今日は3次のグループ。正国は」
「あー、さっきの面接はどうかわかんねぇ。前のは書類落ち。もうダメだぁ」
机に多いかぶさるように倒れ込むと、短くはねた髪を潰すように吉行が頭を撫でた。お互い着られている感じのスーツで、落ち合ったのはついさっき。頭を上げると、吉行は水滴の溜まった紙コップを持ち上げた。もうなにを頼んだかもよく覚えていないから、参っているのは確かだ。ストローを口に運び、それを吸い上げるのまで見ていたら、吉行が変な声をあげた。炭酸だったらしい。どうやら吉行も上の空のまま適当に注文したようだ。相当参っている。こわごわ口をつけると、俺のは甘いジュースだった。ほんとに、参っている。
お互い何がいけないのか、就活の終りが全く見えてこないのだ。早々に内定をもらったどっかの色男にまたバカにされるだろうが、もうそんなことどうでもいい。もう、とにかく、内定が欲しい。
「やっぱ顔か
…
?」
変な意味ではなく、自分の顔には大きな傷跡があった。小さい頃、近所にあったよくしなる木の枝が、友達と遊んでいたときムチのようにその猛威をふるい、顔にくっきりと切ったような傷を残してしまったのだ。思ったより傷がひどかったのか血がダバダバ出て、あの時の話をすると母親は今でも青ざめる。そのせいで、生まれつきの目つきの悪さもあいまり、顔で落とされている気がしていた。
「そりゃー馬鹿な話じゃ、おんしは成績優秀者じゃろ」
お前もな、と返すと吉行は困った顔で返した。そう、成績だけなら優秀だ。SPIだって自信はある。でも、なんだか知らないが、決まらないのだ。もうお悔やみメールはいいから、どこがダメだったか教えて欲しい。やっぱり顔か。顔なのか。でも目の前にいる吉行が決まらない理由はさっぱり思いつかなかった。成績優秀で、人懐っこくて、機転がきいて、どんどん新しいアイディアだして
…
。勉強熱心で、話もうまい。面接で落とされるとか嘘じゃないかと思えてくるが、なんでだか決まらない。
「これじゃー賭けにならねぇな」
誰にいうでもなくつぶやくと、今度は吉行がうなだれた。この間学校で久々に一緒にいたとき、教授にまで首を傾げられたほど理由らしい理由が見つからないんだ、当然か。実は面接苦手なのかと思ったが、練習の時まったく物怖じする様子はなく、そんなこと想像するだけ無駄だと打ち切ったのはいつだっただろう。
「焼肉食べたいぜよ」
いつだったか、就活が解禁される前に賭けをした。先に内定が決まった方が焼肉をおごる、というものだ。おごりたくはないが、内定は欲しい。それはもう切実に。いま焼肉おごれば内定くれると言われたら、バイト代はたいておごってやったっていい。
「あー、明後日なら夕方空いてるけど」
「おごり?」
「馬鹿いうな、割り勘だ割り勘」
ケチ、と言いながら吉行は手帳を開いて予定を確認し始めた。じゃあ約束と言いながら、さらさらと『正国と焼肉』と書き込んだ。俺と違い、綺麗な字だ。吉行のノートは見やすいと評判で、教授もコピーを頼みに来る。そんな吉行に名前を書かれると、なんだかくすぐったい気持ちになった。なんとなく自慢してやりたくなる。こんなすごいやつが俺の友達だって。
「正国、忘れたら怒るぜよ」
「わかってるって、俺も書くよ」
自分の手帳を取り出すが、なんとも無骨で汚い字が並んでいた。お悔やみメールが来たところは恨みがましく二重線を引いて消してあって、手帳自体もよれている。なにもかも、吉行のそれとは違う。
「なんであんた、決まんないんだろうなぁ」
「まーだそがなことゆうちゅうか」
「だってさ、やっぱおかしいだろ。俺ならまだしも」
だから早く焼肉おごれよ、と笑いながら手帳に「吉行と焼肉」と吉行にならって書き込む。丁寧に書いたつもりだが、やっぱり普段の字とあまり代わり映えしなかった。やっぱダメだなぁなんて思いつつ手帳を閉じて、そこでようやく気がついた。吉行が喋らない。
「おい、どうしたよ」
吉行は難しい顔をしていた。もしかして俺の方が落ちてる回数が多いとか思って深刻に考えているんだろうか。声をかけても反応しないから、顔の前で手を振ってやると、ようやく口を開いた。
「つぎそれ言ったら、おこる」
「え」
それ、ってのはどれのことだ。そう聞いても、吉行はストローをかじったまま返事をしようとしなかった。怒るとすぐこうだ。ひどいことを言いたくないから喋らない、だそうだが、俺からしたらそれも全部ぶつけて欲しい。
「なあ、なんのことだよ」
強情なのは知ってる。長い付き合いだ。それこそ、入学してからずっとつるんでいる。けれど今回ばっかりは絶対に言わないという意思を感じた。けど、それってちょっと薄情じゃねぇか。
「なーに怒ってんだよ」
吉行のポテトを拾い上げ、間髪入れずに口に放り込む。あ、と小さく声をあげたのもつかの間、今度は頬をふくらませた。
「ほら、言わねーと全部食っちまうぞ」
「じゃあ、言う。けんど、ひとつ約束しい」
「なんだよ」
口を開くとなにか喋っちまう、と自分でも言っているくらいおしゃべりな吉行が黙り込むにはそれこそ口を閉じていればいい。だがそれだと食べることもままならない。値上がりしたばっかのポテトを平げられてはかなわないと、吉行もポテトを一本持ち上げた。
「自分の事、悪く言うのはやめとうせ」
「はあ?」
「俺なんかとか、顔のせいとか、正国の口から聞きとうない」
それだけ言うと、そっぽを向いてポテトをもりもり食べだした。ああ、もう、馬鹿だな。
「悪かった、ちょっと気が滅入ってたんだよ」
「
…
わしも、すまん。八つ当たりじゃ」
お前のそれは八つ当たりじゃないだろ、と言ってやりたいが、そんなことを言えばまた拗ねるんだろう。ああ、ほんとに会ってよかった。明日も社説と面接を控えてる。きっとヤケクソのまま行ったら結果は散々だっただろう。なんだ、吉行ってマイナスイオンでも出てんのか。
「いいよ、お互い様だろ」
「おん」
こうなったら真っ先に内定とった和泉守におごってもらうしかない。色男だとか言って持ち上げて、内定が取れないと恨みがましくいえば簡単に落ちそうだ。自分で自分をかっこいいなんて言うが、実は結構純情でほだされやすいのを知っている。それがあいつのいいところだ。その案を出すと、吉行はそれはいいと笑った。
「けんど、まずは2人で焼肉じゃ」
忘れたら怒るぜよ、ともう一度言うと、吉行は嬉しそうにポテトをかじった。
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