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桐子
2024-11-07 07:15:11
1647文字
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嘘でもいいからそばにいて④(父水♀️)
ゲゲ郎と顔を合わせづらくて、いつもなら断る飲み会にも「行く」と即答した。
だが、そこで始まったのは全く興味のないコスメやブランド品、おしゃれなカフェや彼氏、旦那の話ばかり。少し前なら適当に相槌をうってやりすごせただろうが、今はとにかく早く帰りたくて仕方なかった。
(あっちの男ばっかりのテーブルに行きてぇな)
男の中でなら話も合うし、気楽だ。だが、一度そうしたら「媚びている」と陰口を叩かれてしまったので、それからは我慢して女性ばかりのテーブルについている。
嬉しそうに、バッグを買ってもらっただの、旅行へ行っただの、さりげない自慢話をしてくる女たち。水木は愛想笑いをしながら、心底、早くこの時間が終わってほしいと思っていた。
「水木さん、聞いてますか?」
隣の後輩が話しかけてきた。「悪い」と返すと、彼女はもったいぶって細い手首に巻いた華奢な時計を見せてきた。
「彼氏が誕生日に腕時計をくれたんです。水木さんにも見せてあげようと思って」
シルバーの時計は居酒屋の安っぽい照明の下でもキラキラ輝いている。
「似合ってるよ」
「水木さんも、彼氏に買ってもらえばいいじゃないですか。あ、でも水木さんはどっちかというとイエベって感じだからシルバーは似合わないかな」
「なるほどな
……
」
言っていることがさっぱりわからなかったが、とりあえず頷いておいた。その後もしばらく彼氏の自慢話に付き合わされた。
「水木さんも彼氏できたんだし、服とかもっと気を遣ったらどうですか?」
「興味ないんでね」
「水木さんは美人なんだからもったいないですよ。あ、そうだ! 今度一緒に買い物に行きましょうよ」
「いやいや、こんなおばさんと一緒だと浮くだろ」
出た、と水木は思った。この手の女はよく親切顔をしてこちらを見下し、優越感に浸っているのだ。
「そんなことないですよ。ほら、こういうゆったりしたシャツじゃなく、もっとぴたっとしたトップスとかに変えて、スカートにしてぇ」
「
……
」
「あ、それに水木さんってさ、化粧もほとんどしてないじゃない。プチプラのコスメでも水木さんなら絶対似合うと思うんだけどな」
にこにこ笑っているのに、腹の奥の悪意が透けて見えるような気がして気分が悪くなってきた。いつもならばこんな、気遣うふりをしながらマウントをとられたって平気で聞き流せた。
それなのに今夜はだめだった。まともに悪意を浴びてしまい、ひどく息苦しい。
ゲゲ郎に拒まれた。女としての魅力に欠ける水木ではそれも当然だろう。しかし、このままでは相棒でも家族でもいられなくなってしまうかもしれない。もし、前世と同じように鬼太郎を連れて出ていかれたら、水木はまた一人になってしまう。その上後輩たちの無神経な言葉の数々にストレスが溜まりきっていた。
ーーーもう限界だ。
そう思ったところで、幹事が「そろそろお開きにしましょう」と声をかけてくれた。水木は心からほっとして締めの挨拶を聞いていた。
居酒屋を出ると、火照った頬に秋の冷たい夜風が心地よかった。
「じゃあ、これで」
二次会に誘われる前にさっさと帰ろうと、幹事に声をかけた。
「え、水木さん帰っちゃうの。今日全然話してないからカラオケ行こうよ」
幹事の藤田にそう引き留められ、水木は内心舌打ちした。藤田は独身で背が高くなかなかのイケメンで、女子社員から人気がある。同期だからとよく話しかけられるのだが、それもまた女子社員から嫌われる一つの要因になっている。
「また今度な」
手を振って踵をかえす。しかし藤田はしつこく食い下がってくる。
「じゃあ、家まで送るよ。方向一緒でしょ」
「
……
いや、いい」
女子社員の視線が痛い。やんわりと断っている水木の耳に、ふと聞きなれた音が届いた。
カラン、コロン。
水木は驚いて目をみはった。喧騒の最中からこちらに近づいてくるのは、ゲゲ郎だった。
「水木、迎えにきたぞ」
彼はいつものやわらかい口調で、にっこりと微笑んだ。
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