
「全力で負けたオレに なにかアドバイスをくれ」
2人だけのステージが幕引きを迎えた後で敬一君はそんなことを言った。
アドリブだらけのエチュードみたいな戯曲は、観客にそこそこの娯楽を与えたんじゃないだろうか。ストーリーは成長著しい若きギャンブラーが立ちはだかるワルモノの試練を乗り越え活躍する目覚しい成長譚、だけじゃ終わらないまさかのエンディング。観ているVIPが前のめりでかぶりつくような、ジャイアントキリングからの更なるどんでん返しの展開はなかなかのものだろう。
オレが手掛けて仕掛けたこのシナリオが成功するかどうかは賭けだった。色んな意味で。
敬一君は一緒にステージに立つ演者兼演出家のオレすらも魅せてくれたけど、エンディング後の幕裏でまでこんな風に魅せてくれるんだから。まったく。
本当、そういうトコ好きだよ。
そういうトコも、本当好きだよ。
絶対に只では転ばない。転んだ先でも掴むべきものを見極め手を伸ばす。転んだ時には空だった手で、塵芥のような砂金でも掴めたらそれはプラスだから。そんな敬一君にオレから金言を授けてあげる。ケチな砂粒みたいなのじゃなくて、デッカイ金塊みたいなのを。
「自分くらいは思ってやれよ オレ最高ってな」
今の敬一君ならちゃんとしっかり握り締めて、立ち上がれるだろう?
これから待ち受けるだろう楽しみや成長の喜びなんかの存在をようやく現実的にイメージできるようになったのか。敬一君はあの瞬間の勝利のため、それらを賭して一か八かの泥仕合を挑むことはなかった。
別に共倒れも吝かでは無いのは事実だけど、オレもどうせ心中するなら未来の価値にようやく気付き始めた今の敬一君よりも、よりたくさんの失いたくない価値あるキラキラしたものを手一杯抱えてる未来の敬一君のほうがもっと良い。
腕の中から溢れるくらいのキラキラをチップ代わりに思いっきりオレに叩きつけて挑んでくれる日がきたりしたら、それはそれで堪んないけど。まあ、でも、少なくとも今はその時じゃないし、そんな未来が来る可能性の方が圧倒的に低い。だから、そうなったらいいかもね、ってくらいの願望にも満たないオネガイゴトみたいなものだ。
それに今はどっちかっていうと心中よりもまず先にもっと欲しい未来があるしね。
あー、なんかちょっと目が霞んできた。これ行動不能も考えると思ったよりもギリギリの賭けだったのかもしれない。時間が無いのはオレもだったみたいだね。敬一君を見つめすぎちゃった。目が離せなくて。楽しかったな。楽しかったね。
目の前の敬一君はなんでだかピンピンしてる。これがフィジカルの差ってやつなんだろうか。大怪我をしないうちに椅子に腰を下ろしておく。霞む視界で、オレの異変を訝しんだ敬一君が境のガラスぎりぎりまできて様子を伺ってる。オレのことちゃんと見てるね。偉い偉い。
偉いついでに、オレが敬一くんにしてほしいこと、気づいてくれないか?
そんなことをちょっとだけ期待して、目を閉じた。
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