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吾妻
2024-11-06 23:08:20
3974文字
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アークナイツ
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PILLOW or ME?
ステ博♀ちゃん。付き合ってる。
抱き枕にやきもちを焼くステインレスくん概念。
TKさんお誕生日おめでとうございます😘
久しぶりに訪れた恋人の私室でステインレスを出迎えたのは、ベッドの上に悠然と寝そべる巨大な猫のぬいぐるみだった。
「
……
」
つぶらな瞳と見つめ合う。室内を沈黙が流れる。
ドクターのベッドを占領しているそれは、世間一般でいうところの〝抱き枕〟というやつだ。前回訪問したときにはこんなものはなかったので、ここ最近導入されたのだろう。
ドクターは多忙を理由にとにかく睡眠時間を削りがちであるため、寝床を快適にしようとする試みには賛同したい。ドクターの睡眠を案じる部下たちから、アイマスクやアロマ等のグッズを山程プレゼントされているのも知っている。おそらくこの抱き枕も、それらの贈り物の中のひとつに違いない。
ステインレスも至って普通の成人男性だ。人並みに嫉妬もすれば独占欲もある。だが、ドクターほどの人が他者に好かれないはずがないのだから、彼女が周囲から甲斐甲斐しく世話を焼かれているのは心の底から微笑ましいと思っている。
――
いる、はずなのだが。
我が物顔で恋人のベッドを独占しているぬいぐるみを見ていると、奇妙な苛立ちが込み上げてくるのはなぜだろう?
猫だからだろうか。しかも三毛猫。自意識過剰かもしれないが、このチョイスには自分の存在が何かしら関係しているように思えてならない。
複雑な心境を持て余しつつ抱き枕と向き合っていると、背後で扉が開く音がした。
「フェイスト。もう着いてたのか。おかえり」
続けて、部屋の主の声。その声はこころなしか弾んで聞こえ、〝おかえり〟と迎えられたことも嬉しく、ステインレスは『このぬいぐるみ、なに?』などと野暮な質問をするのはやめにした。そんなことよりも恋人との再会を喜ぶほうが大事だ。
尻尾をご機嫌に揺らしながら振り返り、幾度も夢に見た最愛の人の姿を捉える。
「ただいま、ドクター!」
両腕を広げて抱きつけば、腕の中でうわっと声が上がる。少々勢いが良すぎたかもしれないが、お行儀よく紳士的に振る舞う余裕もなかった。そのうえ、驚きを仕舞い込んだドクターがなだめるように抱き返してくれたので、余計に嬉しくなってしまった。
「んん?」
それでも、腕の内側に抱き込んだ体が記憶よりも薄い気がして、ステインレスは首を傾げる。背中を撫で下ろし、腕を腰に回して、更にぎゅうっと体を密着させた。
「こ、こら、フェイスト
……
」
結果的にきつく抱きしめられる形になり、ドクターがもぞもぞと身を捩る。だが、そんな弱々しい抵抗では日々肉体労働で鍛えられた青年の腕から逃げることなど叶わず、妙にやる気を出した男にによって、より強く抱きすくめられることとなった。
「
……
フェイスト、急にどうしたんだ」
抵抗を諦めたのか、ドクターはステインレスの腕に身を委ねる。大人しくなった恋人の体を幾度か撫でたあと、ステインレスは。
「痩せた?」
至極真面目に問いかけた。
「
……
そんなことないと思うけど」
「いーや、そんなことあるね。このへん、前はもうちょっと柔らかか
――
痛っ!」
背中をたどり、腰の下へと手をすべらせてゆくと、ドクターの手がぎゅっとステインレスの腕をつねる。大して痛くもないのにステインレスは大袈裟に声を上げ、その後にどちらともなく吹き出した。
「俺、マジで心配してんだけど?」
「わかってる、ありがとう」
「今度ロンディニウムに来たときは、絶対俺のおすすめの店に連れてくかんな」
「期待してるよ」
他愛のない会話の合間に、ステインレスはドクターのフードを下ろし、慣れた手つきでフェイスマスクを外していく。ドクターも特に咎めもしないので、許されていると見ていいだろう。邪魔なものは全て取っ払って、早くキスをしたかった
――
のだが。
「
……
うわ」
あらわになった顔があんまりにも疲れ切っていたので、思わず声が出た。
「人の顔を見てその反応は失礼じゃないのか」
ドクターが唇を尖らせてむくれる。確かに彼女の言う通り、失礼な反応には違いない。が、目の下にくっきりと刻まれた隈を見れば、驚きの声も出るし、同時に心配にもなる。
だが、ドクターも自身の状態に自覚があるのか、小さく溜息を零してそれ以上むくれるのはやめた。
「この週末をしっかり休むために頑張ったんだ。少しは大目に見てくれるかな」
背伸びをしたドクターが、ステインレスの唇に触れるばかりのくちづけを寄越す。
ステインレスはぱちぱちと数度まばたきをした。あまりにも都合が良すぎる展開でびっくりしてしまった。ドクターからキスしてくれたことも、ステインレスの来艦に合わせて予定を明けてくれたことも。もしかしたら自分はまだベッドの中にいて、とびきりのいい夢を見ているのではないのか?
ぼんやりとステインレスが自分の頬を引っ張っている間に、ドクターは仕事着であるコートを脱ぎ落としている。細い指を覆うグローブも外し、ベッドへと歩み寄っていく。
「でも、さすがに限界だから、これからちょっと仮眠を取りたいんだ。君はこれからエンジニア部に顔を出すんだろう? クロージャたちも君が来るのを首を長くして待ってたから」
「ああ、うん
……
」
確かにクロージャからは、新しいプラットフォームに関する意見が聞きたいという旨のメールが届いていた。ドクターに挨拶をしたらエンジニア部に顔を出すつもりだった。
だが、白衣姿でベッドに潜り込むドクターが、さも当然のように例の抱き枕を腕に抱え込んだのを見て、気が変わった。
「
……
? フェイスト?」
ベッドに片膝を乗せて上から覆い被されば、ドクターが目を丸くする。もうかなり眠いのか、随分と無防備な表情でとても可愛い。が、ドクターが身を守るように抱き枕を更に強く抱き締めたので、余計に面白くなくなってしまった。
「なぁ、ドクター? さっきから気になってたんだけどさ。〝それ〟、どうしたの?」
「こ、これは
……
スタッフがオーダーメイドの抱き枕をプレゼントしてくれるっていうから
……
」
「オーダーメイド? そのデザインが?」
「そうだよ」
てっきり、既製品をプレゼントされたとばかり思っていた。では、もしかして、もしかすると。
「そのデザイン、ドクターが決めたの?」
淡い期待を込めて問いかければ、ドクターは少々気まずそうに視線を泳がせてから、か細い声で、
「
……
そうだよ」
と、答えた。
再び「うわ」と声が出るところだった。やっぱり都合のいい夢を見ているかもしれない。だって、〝三毛猫〟の抱き枕なんて。どう考えても、自分の影響があるとしか思えない。それをドクターが自ら要望したとなれば尚のこと。体は正直に喜んで、口元が自然と緩んでしまう。
なるほどなるほど。ドクターは三毛猫を抱いて寝たかったわけだ? そんな素振りまったく見せてくれないくせに?
ステインレスは、恋人のそういった一面を健気で愛おしいと思う。けれど同時に、もっと甘えてくれてもいいのにと、もどかしく思いもする。互いの間を距離が隔てることがあるとしても。彼女にとって、頼りがいのある男でありたいのだ。ただでさえ一人で抱え込みがちな人なのだから、傍にいるときくらいは頼ってほしい。
「でもさ、今日はこれ、要らなくない?」
ドクターが盾のように抱いているぬいぐるみを掴んで、引っ張る。ドクターは反射的に身構え、更に強くそれを抱き締める。
「
……
最近は、これを抱いて寝ると寝付きがいいんだ。悪い夢もあまり見ないし」
「俺にしといたら? こいつはあんたのこと抱き返せないけど、俺ならできるよ? 話し相手にもなれるし、うなされてたら起こしてやれる。どう? オススメなんだけど?」
「う
……
ぐ
……
」
枕を抱き込む腕から徐々に力が抜けていく。もう一押しといったところか。
勝利の気配を感じ取って、ステインレスはぐっと身を屈めてドクターの顔を間近から覗き込んだ。
「
……
なぁ、俺と寝よ?」
耳の傍でわざと声を低めて囁けば、ドクターが抱き枕をぽすんとステインレスに押し付け、降伏の意を示してきた。
「あとでクロージャに文句を言われても、私は取り合わないからな」
「だいじょーぶ。あとでちゃんと顔出すって。どうせ夜中までやってんだろうし。ドクターだって仮眠だろ?」
「
……
抱き枕なんだから、大人しく抱かれててくれるの?」
「もち。いたずらとかしないって。
――
今日は」
緩んだ腕から抱き枕を奪い取り、ベッドの隅に追いやる。布団を捲り上げて、もう何度も共に眠った寝台に滑り込む。慣れた様子で、ドクターがひとりぶんの隙間を空けてくれた。
〝今日は〟という部分にドクターが身構えた気がするが、構わず腕に中に抱き込む。隙間がなくなるくらい抱き締めると、強張っていた体から徐々に力が抜けていくのがわかった。
「あの抱き枕
……
」
ステインレスの胸元に顔を埋めたドクターが、既に眠りに落ちかけている声をむにゃむにゃと絞り出す。
「やわらかくて、温かくて、とても抱き心地がいいんだ
……
」
「へぇ?」
この後に及んでまだ抱き枕の話をするわけ? ステインレスは、少々
――
いや、だいぶ面白くない気持ちで相槌を打つ。だが、腕の中で心地よさそうに目を閉じているドクターが、自分を抱き込む恋人の背に腕を回し、
「
……
でも、やっぱりきみがいちばんだな」
と、心の底から嬉しそうに笑うので。
「ドクター専用だから当然じゃん?」
応えるように、華奢な体を強く抱き返した。
「傍にいるときは俺のこと頼ってよ? なぁ
――
■■?」
頬を擦り寄せ、耳元にそっとキスを落とす。
返ってきたのは、既に眠りに落ちた恋人の「うん」とも「ああ」ともつかない吐息ばかりだった。
【おわり】
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