mado-ga-las1
2024-11-06 20:59:37
3165文字
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はるながのセ部屋の導入

ジジイの乳首責めを目前にしてきっかけがつかめず止まったのの導入

なんの変哲もない白い壁に向かい、ステテコシャツの白い背中が再び構えを取る。それを見ながら、晴信は煙を肺まで吸い込んだ。広い背に隆起した筋肉の凹凸が影を作り、大上段に掲げられた仕込み杖の鋒が照明を反射する。もはや聞き慣れた気迫の声、とても斬撃とは思えない衝突音と爆発音。爆ぜ散る火花の、煙草と似て非なる匂いが鼻を掠めていく。火の粉は晴信の腰掛けるベッドまで届いたが、真っ白のシーツにもベッドカバーにも焦げた跡は見当たらなかった。新八の目の前の壁も、傷ひとつ付かないまま変わらずそこにあった。
これまでの試行の結果として、この部屋に据え付けてあるものはすべて破壊はおろか傷をつけることさえ不可能だと考えられた。新八は今部屋の壁に攻撃しているが、それが無意味な行為でしかないことを晴信はとうに確信していた。部屋の中の物品だけでなく、この空間を構成している四方の壁も、おそらく壊すことはできない。そして部屋に出入り口の類いは見当たらなかった。
つまり、閉じ込められている。部屋の中には晴信と新八と、かなりの大きさのベッド。その横に小さな引き出しのついた棚。天井はあまり高くなく、新宿へのレイシフトの際に泊まったビジネスホテルの一室を思い出させる空間だった。
「さて、新八よ」
気は済んだか、と声を掛けたが返事はない。あの子供泣かせの形相をさらに顰め、壁を睨んでいるに違いなかった。ややあって、新八はゆっくりと納刀し、晴信を振り返る。呼吸が乱れた様子はまったくない。先ほどまで真剣を何度も振り下ろしていた老人とは思えない。
晴信は咥え煙草のまま、左手で携帯灰皿とまとめて持っていた一枚の紙を右手で抜き取った。見せつけるように、新八にその表面を差し出す。既に読んだはずの文字列を、新八は苦虫を噛み潰したような顔でもう一度読んだ。
紙は一見ポストカードのようにも見えるが、写真もイラストも宛名欄も無い。片面にただ一行、『セックスしないと出られない部屋』とだけ印刷されていた。

この空間の存在自体は、与太話としてぼんやり聞き齧っただけだが知っていた。意識が覚醒してすぐに簡易な魔術を用いてスキャンを行い、空間が完全に“閉じている”ことが分かると、晴信はいつか聞いた馬鹿話が現実にまかり通っていると受け入れねばならなかった。おそらく魔術で構築された空間で、部屋内に提示された脱出条件を満たさねば出られない。そういうシステムなのだそうだ。なんでそんなものが存在しているのかは晴信にも分からないが。
例の紙は馬鹿に大きいベッドの、二つ並んだ枕の上に置かれていた。紙を見、文字を読んだ新八は「せ」とだけ声を発して処理落ちしたが、一分ほどで回復した。
「なんの冗談だこりゃ」
「さあな。誰の仕業かは分からんが、面白半分で仕込んだ術式に引っかかったか何かだろう」
……罠じゃねえのか」
「お前はそう思うのか?」
水を向けてやれば、新八は口を閉じて考え込んだ。
……いや、違えな、なんて言やあいいんだ、悪ふざけにしちゃやり過ぎだが敵意が無ェ。それと……効率が悪過ぎる」
考え考え、新八は見解を述べた。柔軟で適応力もあることを、晴信はよく知っている。加えて、もともと隊を一つ預かっていた男だ。考えるのは苦手だと言うが、頭を戦さ場に持って行ってしまえば、荒々しさの裏に潜む思慮深さが顔を覗かせる。
「戦力を分断するにしたって、二人ぽっちで満足してるんなら話にならねえ阿呆だな。こんな小細工でどうにかできるようなところじゃあねえぞ、カルデアってのは」
晴信がそう仕向けたのもあるが、新八の声音は冷静そのものだった。回答を聞き終えると晴信は満足げに鼻を鳴らした。
「要するに、急ぐ必要はないって訳だ」
分かるな、と流し目を向ける。その意味が分からない新八ではなかった。何のことはない、いつもするように交われば出られるのである。羞恥から来る抵抗がまったく無いわけではないらしいが、性行為をするより他に方法がないので、新八の心もすぐに決まったらしい。そろそろとそばへ寄ってきて、晴信の横へと腰を降ろす。そして目を閉じ、数秒。
……大将」
「どうした」
「霊基が変わんねえんだが」
「そうか。おそらくだが、この空間のせいだな」
新八は無言で立ち上がった。壁に向き直り、仕込み杖を抜いた。
「前にも言わなかったか?俺はお前のその姿にも勃つし抱けるしずっとそうしたかったぞ」
聞こえないはずがないのだが、答えはなかった。動かない壁を相手にするには少々過剰な気迫を乗せて、新八は刀を振り下ろした。


そして冒頭に戻る。
人ひとり殺せそうな視線が紙を貫いている。つまんだ指先で紙を弾くようにしてぽいと放ると、その視線は自然こちらを貫いた。晴信は平然とそれを受け止めた。
はたから見れば怨敵同士の睨み合いにさえ見えただろう。ややあって、新八がぎりぎりと噛み締めた唇をゆっくり開き、絞り出すように言った。
「すまねえ大将。覚悟、決めたぜ」
「腰か」
「応。だが、腹ァ括んなきゃ始まんねえ」
皺を重ねて垂れ気味になった眦がキッと吊り上がる。その奥の、若かりし頃と変わらぬ輝きを宿すまなこで、新八は意を決したように晴信を見、その腰掛けるベッドを見た。
次の瞬間、ぼん、と音がして、晴信の尻が上に数センチ浮き上がった。
「大丈夫だ大将、ひと思いにやってくれ!」
ひと跳びでベッドに上がり、大の字になった新八が喚く。晴信が「うん、新八、落ち着け」と宥めるが、まるで聞こえていない。
「てめえの腰の都合で大将を一生ここに閉じ込めるなんざ、マスターにも越後の姐さんにも申し訳が立たねえ。この爺の尻でいいならいくらでも貸してやらア!」
見れば新八の顔は真っ赤である。おそらく羞恥のキャパシティを超えたのだろう。実のところ、若い方より爺の方が、艶話それ自体には耐性があるらしいのだ。しかし年嵩の男としてのプライドがそうさせるのか、対象が自分自身となると途端に羞恥が勝つようだった。おかげで晴信は、この姿の新八とは今のところ口吸い止まりである。
落ち着けと言ったところで落ち着かないだろうと考えた晴信は、一旦口を閉じることにした。これまでに何度も繰り返したのと変わらぬ仕草で最後の一口を味わい、煙を吐いた。煙草を携帯灰皿に押し込んで消す。その頃には新八も静かになっていた。振り向くと、彼は上体を起こして晴信を見ている。口に出したことは一度としてないが、晴信が煙草を消すと「もうそろそろ」だと、新八はよく知っている。
ベッドに膝を乗せ、体を乗り上げる。ぎしりとベッドが鳴り、新八は思わずといった様子で縮こまった。その姿に、ぽろりと言葉がこぼれる。
「生娘みたいだな」
「目ェ腐ってんのか……
溜息を吐いた新八は、しかし緊張が多少解けたようだった。再びベッドにぼすん、と寝転ぶが、投げ出された手足にさっきまでのこわばりは無い。
「それでいい。あまり緊張されると入るものも入らん」
うう、と新八が唸った。首元まで赤いまま、腕を目の上に乗せる。その下で、照れた声音だったが、はっきりと言った。
「お手柔らかに頼むぜ」
「それなんだが、新八。こういうのはどうだ」
その時にはもう、晴信はコートを肩から落としていた。赤い生地はするすると衣擦れの音を残して滑り、床へと流れてわだかまる。天井照明を背に受けて、己の落とす影の中に新八を収めてしまう。そうすれば収まってしまう事実に、舌舐めずりをしている自分がいる。
「お前が挿れてほしいと言うまで俺は挿れない。いいな?」
は、と眼下で声が上がる。理解が追いついていない時の発声だった。腕がずれ、見開いた瞳の青が影の中に浮き上がる。答える暇は与えなかった。