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ナスカ
2024-11-06 18:55:22
8447文字
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千寿菊に誓う⑦
前回の続きです。
デート。二人で一緒に出かけて食事や買物をしたり、好きなこと、興味のあることについて語らうこと。いつまででも続けて良いもの。
それは私の人生で、一度も縁がなかったものだ。
それが、今日この日、あと数分で始まる。
リンクさんとの見合いの後、私達は互いをもっとよく知るために外出の約束をした。所謂、『デート』の約束である。両者の休日を何とか合わせ、それまでに時間をかけて丁寧に準備をした。宮廷に出入りしていた元近衛なので、所作や女性のエスコートにはある程度自信がある。だが流行りの服装には疎いし、リンクさんを前にして『教官』以外の自分を見せることが少しばかり怖い。
けれど、あの子を幻滅させてしまう『私』は嫌だ。
服装については、若者である生徒たちを参考にするのが一番だ。直接訊ねる事に少々抵抗感があったものの、リンクさんに相応しい自分になるために男子生徒に色々と質問した。彼らは私の質問内容に驚きながらも「先生イケオジなんだから、上手いことやれますよ!」と言ってくれた。服の色合いや、無地と柄の配分、季節感、デートに行く場所の雰囲気に合わせること
……
等など。リンクさんも同室の方々に色々と聞かれたらしいが、こんな感じだったのだろうかと思った。
休日の賑やかな城下町は人でいっぱいだ。走り回る子どもたち、遊びに繰り出した若者のグループ、上品なマダムたちの一行。そんな人々を相手に商売をしている露店や出店、その軒先で声を張り上げる仕事人たち。至って平和な町、その中央広場にある噴水で私はリンクさんを待っていた。
この見た目で良いのだろうかと、私はどうしても自分の服装をチラチラと確認したくなる。だがあまり見すぎるのも格好悪い。私はリンクさんに会った時、何を話そうかということを考えた。
まずは会えて嬉しいことを伝える。容姿を褒める。どこに行きたいか訊ねる。会って最初はこんなところだろうか。
「アルバート様!」
私の名を呼ぶ声がした。リンクさんだ。私はその声が聞こえる方を向き、彼女の名を呼ぼうと
……
した。
「! リンクさ
……
」
「すみません、遅れてしまいました」
息を上げて肩を上下させているリンクさんは、私が見たことのない服を着ていた。見合いの時は非常にフォーマルなドレスだったが、今の彼女はどちらかと言うとカジュアルな装いだ。道行く同じ年頃の女性と似たような服であることから考えるに、これが今の流行りというものなのだろう。
しかし、それが膝よりやや上の丈のスカートとは。
リンクさんは素のままでも果てしなく可憐で愛らしく美しいが、おそらく同室のルームメイトに施してもらったであろう化粧の甲斐あってか更に輝きが増していた。そのまばゆさ故に、不埒な輩の目に留まらないかということがどうしても気になる。私の薄手のロングコートで隠せないだろうか。
「リ、リンクさん
……
」
「わあ、アルバート様の私服、こういうのなんですね!」
「リンクさんも
……
その、とても可愛らしいですよ」
「ありがとうございます。でもちょっと慣れてなくて
……
」
恥ずかしそうに照れながらリンクさんが浮かべる笑顔は、やはり太陽のようだ。その笑顔に私の心が照らされていく。会う約束をして良かった。私は今、とても幸せだ。
「早速ですが、何処か行きたいところはありますか?」
「アルバート様はいつもどちらへお出かけなさるんですか? 私、とても興味があります」
リンクさんはニコニコと笑いながらそう問いかけてきた。本当ならば私が彼女の好みを訊ねてそこに向かうべきなのだろうが、せっかくリンクさんが言ってくれたことを無碍にはできない。
「わかりました。ではご案内します、行きましょう」
「はい」
私とリンクさんは隣り合って歩き出した。
端から見れば、私とリンクさんは親子のようなのだろう。しかし今の私達は『結婚を前提に付き合っている』という間柄だ。国王陛下が選びだしたとは言え、私のお相手としてリンクさんは若すぎる気がする。私は四十代半ば、彼女は十七だ。
……
いや、こんな時にそんなことを考えていてはリンクさんに失礼。彼女と過ごす時間を大切にしなくては。
「どちらへ向かうのですか?」
「楽器店です。最近は音楽ショップ、とでも言うのでしょうか
……
」
私がそう言うとリンクさんは目を丸くした。
「きょ
……
、アルバート様、楽器を演奏されるんですか?!」
「いやいや、違いますよ。レコードを買いに行ってるんです」
私が眉を下げながら首を横に振ると、リンクさんは意外そうに私を見た。
「アルバート様、音楽がお好きなんですね。全く知りませんでした」
「私を無趣味だと思っている方が多いですからねぇ」
冗談交じりに笑いながら、大通りから少し一本奥の道へ入る。大勢の人で賑わう広場とは対照的に、落ち着いた雰囲気の静かな道だ。人は私たち以外に誰もいない。リンクさんは初めて来るらしく、キョロキョロと周りを見ている。少し不安なのだろうか。その挙動は道に迷った仔猫のようで、可愛らしく感じてしまう。
「大丈夫ですよ、ここは私の勝手知ったる場所ですから。
……
ほら、あそこです」
私は手のひらで空気を掬うように、目的地を示した。木造の、年季の入った外観だが手入れされた店先。僅かに開いた入口の扉から聞こえるくぐもった音楽。いつもならば、ここに来れば肩の力が抜ける。だが今日はリンクさんが一緒だ。まだ私の身体は力が入ったまま、気さくさに欠けている。
「あっ、可愛い!」
リンクさんは店先に置かれた小さなからくりに駆け寄った。子どもたちから長く人気を獲得している、丸っこい形のガーディアン
……
の形をした蓄音機だ。
リンクさんは夢中になって眺めている。青い瞳を輝かせ、笛に似た音を出す見慣れないからくりをジッと見つめている。その音に合わせて、身体が揺れる。私はそんなリンクさんの姿を眺めた。騎士学校時代、リンクさんのこんな顔はほとんど見たことがない。私はその笑顔を貴重に思いながら、口角を上げた。
しばらくして、リンクさんはスッと一歩後ずさる。彼女の顔は赤い。
「どうかしましたか?」
「
……
なんか、子供っぽいかなって思ったら、急に恥ずかしくなってしまって
……
」
「いえ、そんなことはありませんよ。貴女の良い顔が見られましたので」
「へ!?」
「そろそろ入りますか?」
リンクさんが驚いたのに気づきながらも私は敢えてそれをスルーしつつ微笑みかけた。からかう気は毛頭無い。リンクさんの豊かな表情を見れて嬉しかったのは本当だ。けれどベタな事を言えるほど、まだ深い繋がりにあるわけではない。この対応が一番だろう。
「
……
はい」
「では。
……
お邪魔します」
ドアノブを回し、店内に入る。
店内はやはりいつものように薄暗く、蓄音機から流れる穏やかな音楽を子守唄に楽器たちは眠りについていた。弦楽器、金管楽器、木管楽器、打楽器
……
と種類別に並んだ光景が珍しいようで、リンクさんはまた辺りを見回している。
「おや、可愛らしいお嬢さんだこと」
「わっ!」
声をかけられてリンクさんは驚き仰け反る。大きなコントラバスの陰から現れたのは店主の老婆だった。どうやらこのコントラバスの手入れをしている最中だったらしい。
「こ、こんにちは! お邪魔しております」
「はいこんにちは。
……
あれまあ、アルバートちゃんと一緒かい」
老婆はリンクさんの後ろに控えた私に気づくとやんわり驚いた。リンクさんは振り返り、私と店主を交互に見る。
「お二人は知り合いなのですか?」
「えぇ」
「もちろんよ」
私と店主は同時に答えていた。思わず『息ぴったり』になってしまったことで、私は少々ヒヤリとする。『親しい女性がいる』と思われるのは勘弁だ。一応私と店主は、私とリンクさん以上に歳が離れてはいるのだが。
「随分と長い仲よ。アルバートちゃんのことは、近衛になりたての頃から知っているわ」
「すごく長い縁ですね! その頃からお店を?」
「そうよ。元々私はハイリア聖歌隊の一人だったんだけどね、楽器にも興味が出てきて気がついたらこんなことになってたの」
楽しそうに話し込む二人の様子に私は安堵する。ギスギスした雰囲気になることは無さそうだ。
「それにしても、あのアルバートちゃんがこんな可愛いお嬢さんと一緒に来るなんてねぇ」
突然私の方に話題が振られたので、思わず「えっ、」とトーンの狂った声が出てしまった。リンクさんとの関係は、あまり他人に言えたものではない。四十半ばの男が、若い女性と結婚を前提に付き合っている、など
……
。
「アルバート様は、私の恩師です」
リンクさんが大変真っ当な回答をしてくれた。それを聞いた店主は「まあ!」と大きく開いた口に手を当てる。
「じゃあお嬢さん、貴女近衛騎士なの?」
「はい。まだ配属さればかりですが」
「あらあらあら、とっても勇敢なのねぇ。素敵よぉ」
私は完全に置いてけぼりにされた。けれど、リンクさんが微笑みながら誰かと会話をしているのは見ていてとても幸せな気持ちになる。
「ごめんなさいねぇ、せっかく大事な先生と遊びに来てくれたのに私とばっかり喋らせちゃって」
「いえ、久しぶりに同僚以外の方とお話できて楽しかったです」
「ゆっくりしてってね」
「はい」
店主はようやっとリンクさんを解放してくれた。私はひとつため息を吐き、リンクさんにそっと近寄る。すると彼女は振り向きながら「素敵な方ですね」とニコリと笑っていた。
「店主さんと気が合ったようで何よりです」
「アルバート様にあんなお知り合いがいたなんて知りませんでした」
「貴女とはそういう話を一切していませんでしたからね」
そう言いながらなんだか申し訳なくなってしまった。せっかくリンクさんと仲を深めるべく一緒に出かけているというのに。
「
……
リンクさん」
「あっ、あれがレコードですね!」
私が謝ろうとすると、気遣いなのか無邪気なのか、リンクさんはレコード売り場に目と足を向けた。私はそれを追って後ろから付いていく。
「本当にたくさんあるんですね
……
アルバート様がお好きなのはどういう曲ですか?」
「私がよく聴くのはラグタイムでしょうか。私が若い頃に随分流行って、音楽が好きになるきっかけでした」
「らぐたいむ
……
」
リンクさんはあまりピンときていないようだった。自分が生まれる前に流行した音楽ジャンルなど知らなくても仕方がないだろう。私は試し聴き用のレコードを数枚見つけ、その中にあるラグタイムの円盤を取り出した。柔らかな音楽を流す蓄音機を止め、レコードを入れ替える。それをジッと観察しているリンクさんの方を向き、私は訊ねた。
「回してみますか?」
「えっ!? いいんですか?」
「せっかくですし、どうぞ」
リンクさんはおそるおそる回し手に触れると、それを握り、くるりくるりと回し始めた。すると小さなノイズのあとに、小気味良く明るい軽快なリズムとメロディーが流れ出す。リンクさんは「これが!」と青い瞳を見開き、納得したとばかりに頷いた。
「何となく聞いたことはあります! これ、ラグタイムっていう種類の曲なんですね」
リンクさんの頭が音楽に合わせて左右に揺れている。おくれ毛がふわふわと浮かんでいるのが微笑ましい。鼻歌まで歌っている。楽しんでくれているようで何よりだ。
私は暫く、そんなリンクさんの後ろ姿を見つめた。
✽✽
混み合う前に小さなカフェに入って昼食を済ませ、私達は喧騒のあるまちなかを離れて大聖堂へ向かった。入る人も少なければ出る人も少ない。礼拝堂に足を踏み入れればクワイヤによる厳かな祈りの聖歌が聞こえた。冬の夜に似た静粛さに合わせ、人々の口は二枚貝のように閉ざされている。
長椅子は音楽ショップに並べられた楽器たちの如く訪れる人を待ち、正面には祈る者総てに祝福を授ける女神ハイリアの像が穏やかな笑みを浮かべていた。その背後にある巨大な円形のステンドグラスは太陽光を取り込み、女神像を輝かせる。
この御威光がいつまでも続けばと、そう思う。
それをお支えするためとはいえ、私はリンクさんと番うことになるのだろうか。強い信念を持った気高き近衛を、弟を大切に思う優しい姉を、私が
……
。
そこまで考えて私はハッとした。女神様の領域で、なんと不埒なことを。思考そのものを恥ずべきだ。
一方リンクさんは私の隣で目を閉じ手を組んで祈りを捧げている。いつになく彼女の眉に力が入っており、私はリンクさんの祈りの内容が気になった。訊ねるのは憚られる。せめて、彼女の祈りが女神様に届くことを祈ろうではないか。
途端、背後から複数名の悲鳴が耳に飛び込んできた。私は目を見開き、大聖堂の扉の方を見る。リンクさんも同じ行動を取っていた。聖堂内の美しい静けさはざわめきに涜されていく。
「リンクさん」
「はい、教官」
私の呼び名とその目つきから、考えることが同じだと察する。私たちはなりふり構わず大聖堂から飛び出した。
「イーガ団だ!」
どこかの誰かの叫び声に私は眉間に皺を寄せた。イーガ団。王家に仇成し、道行く一般人にまで破壊と恐怖をもたらす叛徒共で構成された暴力集団だ。そんな連中が大聖堂前で暴れまわっている。数にして、構成員が四人、幹部が一人。もしこの中に入られでもされたら、それは奴らを増長させることになるだろう。
「神聖なこの場所で! 何という恥知らず!」
年嵩のある修道女が私の隣で威厳ある声を張り上げた。だが構成員は「うるせぇクソババア!」と言いながらクナイを飛ばしてきた。
「危ない!」
リンクさんが咄嗟に修道女を庇う。二人は地面に倒れ伏して動けない。私は内ポケットに隠していた短剣を取り出し、クナイを弾き返した。それは民家の屋根に立つ構成員の仮面のど真ん中に突き刺さり、周囲にどよめきが広がる。
「マザー、皆さんで民を聖堂内に避難させてください」
「お二人は、一体
……
?」
戸惑う修道女に微笑みかけ、リンクさんは立ち上がるとここら一帯に響くように叫んだ。
「私はハイラル王国近衛騎士のリンクだ! そして隣にいるは我が師であり元近衛騎士のアルバート•ダギアニス! 人々よ、王国が誇る騎士がここにいる! だからどうか安心して、大聖堂の方々の誘導に従ってほしい!」
リンクさんの名乗りで、怯えていた人々の間に希望が広がる。戸惑っていた修道女もリンクさんの言葉に合点がいったとばかりにシスターたちを集め、「皆さん! こちらです!」と避難誘導を始めた。
「すみません教官。勝手を言ってしまって
……
」
「いいえ、素晴らしい判断でした。さあ、本番はここからですよ」
「はい!」
リンクさんは掃除中のシスターが放棄した木のモップを拾い上げ、槍代わりと言わんばかりに構えた。私は変わらず短剣を手にし、リンクさんと背中を合わせる。
「近衛だろうが、たかが小娘と初老だ! 恐れることはない!」
怖気づいた部下を幹部が奮い立てる。残った三人の構成員は覇気を取戻し、こちらに襲いかかってきた。
全く、せっかくのデートが台無しだ。
イーガ団の構成員が使うのは、主に首刈り刀。名前通り、頭と胴体を分断するための形をしている恐ろしい代物だ。ならば彼らをこちらに寄せ付けなければいい。
「そんなみじけぇ剣でどうするつもりだ!?」
短いのは剣だけだ。そのことにまだ彼らは気づいていない。
首刈り刀を手にして横に広がる腕。私はそれを掴むと捻りを加えながら頭上に持ち上げ、石で舗装された道に叩きつけた。さすがに私も歳だ。筋肉が震え、骨が軋んでいる。汗が吹き出てきた。だが休むわけにもいかない。得物を持つ手の首を踏みつけ、動きを封じた。
「こいつマジでおっさんなのかよ!?」
「慌てるな、女の方に行くぞ!」
私を相手取るのは分が悪いと思ったのか、狙いをリンクさんに変えてきた。だがリンクさんは私と異なり現役。はっきり言って私よりも強い。私は着ていたコートを脱ぎ、地面に叩きつけた構成員を拘束した。
リンクさんは木のモップを流麗に扱い、二人分の攻撃を受け流している。ダンサーがバトンを回しているように優雅でありながらも力強い、剣舞を思わせる体術だ。
「っ、この女
……
強いぞ!」
「なんだこいつ!」
構成員二人がごちゃごちゃ話す束の間、リンクさんは一瞬その場に留まってモップ部分を仮面の真ん中に叩きつけた。ひとり、そしてもうひとりと後頭部から倒れていく。リンクさんの顔に、してやったという気持ちが表面化した。
その背中に風の刃が迫っていた。幹部の刀が生み出したものだ。私は短剣でそれを切り裂いたが無効化しきれず、髪が千切れるプチプチという音が聞こえた。
「教官!?」
「大丈夫です。幹部を狙いなさい」
リンクさんは大きく振りかぶると木のモップを幹部に向けて投げつけた。投擲槍の如く回転し速度を上げるモップは、惜しくも幹部の髷を掠って終わった。
自分とリンクさんの呼吸音だけが鼓膜に響く中、幹部との睨み合いが続く。
「ハイラル軍だ! イーガ団よ、観念しろ!」
誰かが通報してくれたらしく、銀色の板金鎧を纏った兵士たちが駆けつけてきた。私服を着た私たちは一般人に見えたようで、兵士たちは驚いている。
「まさか、貴方がたが
……
?」
「お疲れさまです。ハイラル王国近衛師団所属のリンクです」
リンクさんは兵士の一隊にビッと敬礼をした。その規律ある姿勢に兵士たちはリンクさんが間違いなく近衛だと直感し「非番中にお疲れさまでございます!」と答えた。
「リンク殿、一体何があったのでしょうか?」
「発端は私にもわからないのです。私たちが大聖堂にいた折、悲鳴が上がったので外に出たらイーガ団が暴れておりました」
「そうでございましたか。被害のほどは?」
リンクさんが受け答えをしてくれている間に、私は地面でへばっている構成員たちを兵士たちと共に捕縛した。
✽✽
「とんだ災難になってしまいましたね」
天頂に至った太陽が傾き、私達の影が本人よりも長くなり始めていた。駆けつけた兵士たちが事後処理は請け負うと言ってくれたが、私とリンクさんは残ってそれに協力した。気がつけば日暮れである。
互いのためにも、集合と解散は噴水広場と決めていた。町の中心は、まだまだ賑やかさを保っている。
「いえ、アルバート様とこんなに長い時間一緒に居られて楽しかったです。ありがとうございました」
言われてはじめて気がついた。これほどの長時間を、二人だけで過ごしたのは初めてのこと。
「それで
……
次はどうしましょうか?」
「次、と言いますと?」
「次はいつお会いしましょうか?」
オレンジ色の夕焼けに照らされたリンクさんの笑顔は眩しくて、私は彼女に相応しいのかどうか疑問に思えてしまう。果たして私は、リンクさんを幸せにすることができるのだろうか。
「そうですね。互いに休みが取れて、もし
……
」
「もし?」
「
……
貴女がまだ、私に興味をお持ちなのであれば」
そう言った瞬間、顔が熱くなる。気恥ずかしくて、妙に胸が高鳴っていた。
「アルバート様」
リンクさんの両手が、やんわりと私の手を包み込む。彼女の表情を見ようとしたが、逆光になってしまってわからない。
「私、貴方でなければ見合い話なんて受けませんでしたよ」
その言葉のあと、リンクさんの感触と温度が空気に融けて消えていく。彼女の両手が離れていた。それがひどく惜しくて、私は咄嗟にリンクさんの手を掴む。
「リンクさんッ!」
「ッ
……
!」
私の影が太陽光を遮断し、リンクさんの姿を鮮明にする。己の手でリンクさんのほっそりした手首を掴んでいるという行為がくっきりと目の前に映り、私は今更自分のしたことに緊張してしまった。そのくせ、リンクさんから手を離すことがとても惜しい。
「アルバート様
……
その
……
」
リンクさんは頬を赤らめ、視線を逸らしていた。私のことを何度もまっすぐ見つめてきた瞳が、つま先で僅かに蹴られたボールのように端に追いやられている。
その目を見つめていると、心の底が沸々としてくる。これを今告げずして、いつ告げるべきか。
「
……
どうやら、私は自分で思っている以上に貴女のことを想っているようです」
「ぇ
……
」
「私は、
……
もっと貴女といたい」
これが、『恋』ということなのだろうか。共にいたいと、離れがたいと、側にいてほしいと。
「勿論、今日はこれでお開きです。けれど私は
……
貴女と居たいと願っています」
私は指を一本ずつリンクさんから離した。リンクさんの瞳がそれを追うように左右に動いているのを見て、堪らない気持ちになる。
「是非また、私とお会いしてください」
それが、今の私が伝えられる精一杯の『大好きです』だった。
続く
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