waka_me
2024-11-06 16:28:17
2848文字
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休暇と錆色亭の話

ウィスティルスタル君のやっている錆色亭をひさびさに開けてもろもろ話するだけ。
練習用のあれやそれなので随時更新

錆色亭、ミストヴィレッジにその店はある。冒険者ウィスティルスタルの個人宅兼バーとなっており、稀に開いたときは親しい仲間が静かな時間と対話を求めてやってくる。
ここはもともとウィスティルスタルの作業場だった。作業に没頭しているときに、ふと寂寥にかられて「クラフトをするなり、休憩するなりご自由に」とオープンした。今では作業場として使うことはまれになっているが、仕事が無い、ぽっかりと空いた休みの日に戸を開ける。

大きな遠征の依頼を受けていたウィスティルスタルは、帰路のチョコボキャリッジのなか、うつらうつらとしながら久々にまとまった休日をとることに決めていた。もう誰も俺に仕事を依頼してくれるな。俺は遊んで暮らすのだ。そんなことまで思っていた。
同じ依頼を共に受けていたワカは、別のチョコボキャリッジで戻っているとリンクシェルで聞いた。久々に聞いたミコッテの声はかすれており、普段から無い覇気がきれいさっぱりまったく失われていた。前線部隊ではなく後衛の治療班に組み込まれていたはずだが、そちらもなかなか過酷な日々であったらしい。
「帰って、風呂入って、寝る」とだけ言われて一方的にぶつっと切られたので、ウィスティルスタルは察してそれ以上聞くのをやめた。

二人は時間差でフリーカンパニーのハウスに着くと、家を守っていたララフェルの男、教授に「くさい」とまず言われた。そのまま家に入ってくれるなと制止され、ララフェルの体と同じ大きさの桶に入った水を乱暴にかけられた。豪快である。
ずぶぬれになった二人はよぼよぼと地下の風呂に行き、のったりとしたグゥーブーのごとし動きで服を脱いで風呂に入った。二人の間に会話はなく、ただただ「ああ~」とか「う~~~」とかそういう唸り声だけが浴室に響いた。
教授はフリーカンパニーでクラフト全般を担っている男である。基本的に家にいて、地下工房にこもって一人で潜水艦だの飛空艇だの作っている。家の外装も彼がひとりで仕上げた逸品だ。もろもろ商売をしてるとは聞くが販路が広すぎて誰も把握していない。
教授はあまりしゃべらない。だが、気が回る人でもある。洗面所にふかふかのタオルが用意してあったのを見て、二人はしんみりと感謝した。お礼を言おうかと思ったが、地下工房に鍵がかかっていたので書置きだけのこした。
そうして久方ぶりに人間らしい姿に戻った二人は、泥人のような歩みでそれぞれの個室に向かった。
「ウィス」
「ん?」
会話らしい会話が無かったウィスティルスタルとワカだったが、ワカが個室のドアノブに手をかけて声をかけた。
「俺は当分なーんもしません」
「奇遇だな、俺もだ」
そう言って二人は個室に入り、ひさびさのふかふかのベッドで眠った。

当分なんもしない。
ということで二人は泥のように眠り、目覚めたのは次の日の昼間だった。ウィスティルスタルがぐん、と伸びをすると、ぐうと腹の虫が鳴いた。そういや何も食べてなかったなと思い出す。
外に食いに行こうか、いやもう何もしたくないな。ウルダハに行ってまた仕事の話をされるのもごめんだ。
とはいえ長期の依頼の前にあらかた食料は食べつくしてしまっていて、あるのは調味料くらいなものだった。誰かに恵んでもらうか、リテイナーの二人に任せるか悩む。
そしてぼんやりと思い出したのが自分の店である錆色亭なのであった。
錆色亭は友人のためにバーとして開けることもあるため、地下倉庫に長期保存できるチーズなどの食料があったはずだ。
ウィスティルスタルはのろのろと腰を上げ、気楽な服装に着替えると、ハウステレポで久々の錆色亭へ飛んだ。
まず、戸を開け、窓を開ける。久々に風通しする家はまるで生き返ったように見える。
ウィスティルスタルはふう、と一息つくと、倉庫に潜り込んで干し肉やチーズを取り出した。火を使って暖かいスープを作ろうかと思案したが、面倒くささが上回り、行儀悪く立ったまま干し肉を齧って倉庫を出る。
酒も欲しいなと思っていたら、ちょうどあけていないワインが残っていた。僥倖である。カウンターにどさりと食べ物を置いて、迷いなくコルクを抜いた。グラスに注ぐのも面倒で、そのままラッパ飲みをする。果実とタンニンの香りが鼻をくすぐる。そこにすかさず干し肉にかじりつけば、ぎゅっと引き締まった塩気が口の中でまじりあって絶妙である。
ウィスティルスタルが久々の酒と肉に感涙していると、がた、と入口から音がした。そういえば窓も戸も開けていた。一応店の体裁をしているので誰かが間違って入ってきたのかもしれない。
「すまない、今日は営業してないんだが──」
「来ちゃった」
「来んな」
「そんなこと言っていいのかな? こちらには今朝教授が焼いたピカピカのパンと、先ほどビスマルクで調達したワインとオイル漬けの魚があるんだけど」
「まあ座れ」
よっしゃ、と言ってカウンターにワカは座る。「腹ペコだろうと思って飯に誘いに行ったらいないんだもん」と言いながらどさどさとワインやらパンやらつまみを置く。
「ハウスで教授がどえらい量のパンを焼いてたのに」
「教授の依頼されたモンなんじゃねえのそれって。もらってきてよかったのか?」
「いや、なんか気分でずっと作ってただけらしい。おなかすいたから頂戴って言ったらいくらでも持ってってって」
教授は時々狂ったようにインゴットやらナゲットやらを作るが、今日はちょうどパンの日だったらしい。
「たぶんどっかに卸すだろうから倉庫がパンでぎっしりとはならないと思うよ」
ワカはパンにかじりつきながらもがもがと言った。行儀が悪いなと思うが、自分も片手にワイン瓶を握っている。さすがに独り占めは悪いかとグラスを二つ取り出して注いだ。
「さすがウィス! 気が利くねえ」
……で、なんで来たんだよ」
「いや、一人ではらぺこで倒れてないかなって思って」
ウィスはさ~、面倒くさがって食べないときあるじゃん。とワカがワインを煽りながら笑う。
「まあ俺も一人だったら面倒だから食べないとか、角砂糖ぼりぼり食って数日過ごしてぶっ倒れるとかしてたけどね」
「ふーん」
「俺も今日さあ、お腹空いたな~って起きてさ、めんどくさいな~、水がぶ飲みして寝るかなって思ってたんだけど、あ、ウィスも腹減ってるよな~と気づいたわけです」
チーズを薄くスライスしてパンに載せながらワカは言う。ウィスティルスタルはふむ、と少し難しそうな顔をしながらワインを飲んだ。
「だから一緒にメシ食べに行こ~って呼びに行ったの」
まだ体に残る疲労と回るアルコールで、いつも以上にへらへらとしながらワカは言う。ウィスティルスタルはまだ暖かいパンを手に取り、むーんと唸りながらかじりついた。
「まとまった休み取るならさ、またここ開けてよ。俺好きなんだよね 静かだし」
……そうだなあ」
どちらとも取れない返事に、ワカは「いいじゃん」とへらへら笑いながら酒を煽った。