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はな
2024-11-05 19:43:54
1685文字
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家に猫が待っている
デプウル。
ペットシッターのガンビットとお酒を嗜む大きな猫ちゃんの話。
「一杯やっていかないのか」
「ああ、家に猫が待ってるから」
馴染みのバーテンダーからの問いかけに、ポーカーで稼いだ金を懐にしまいながらガンビットは答えた。
いつもなら祝杯をあげるし、本音を言えば一杯傾けながら美しい女性に声をかけたいところだが、何せ家には猫が待って──いや、俺の帰りは待っていないか。出かけるときにちらと見た猫の様子を思い返して肩をすくめる。
「猫? あんた猫なんて飼ってたのか」
「いや、友達の猫だ。一週間ばかり預かることになった。早く帰らないと酒瓶が全部転がってるかも」
「酒瓶なんて猫には重いだろ」
「でかい猫だからな。酒瓶を転がす程度、簡単だ」
「そりゃあ大変だ」
じゃあこれ、そのでかい猫ちゃんに。ご機嫌とってやんな。
そう言って渡されたツナ缶を曖昧な笑顔で受け取り、ガンビットはいつもより歩幅を広げて店を出た。
◇
がん、と硬い何かがドアにぶつかった。次いでゴロゴロゴロ、と景気よく転がる音。ガンビットはドアノブを掴んだまま小さく息を吐いた。ドアの先に転がった秘蔵のコニャックの空き瓶を拾い上げて、自室に足を踏み入れる。
空き瓶が一本、二本、三本。まるでヘンゼルとグレーテルがちぎり落としたパンくずのように点々と転がっている。拾い上げることはしない。明日、猫に片付けさせねばならないからだ。爪先で瓶を転がして、ゴールへと辿り着く。
果たして猫は、ガンビットのベッドにいた。くるる、くるる、と規則正しい寝息を立てている。家主の酒を漁り、家主のベッドに無断で横たわる、態度もでかければ図体もでかい猫。
「ローガン」
名前を呼ぶ。返事はない。転がる空き瓶は合計五本、ぐっすりである。
うちの寂しがり屋の猫ちゃんにゴハン作ったげてよ、モナミ──ウェイドが猫を連れてきたのは五日前。長期の仕事で一緒にいられないだとかでガンビットの家にやって来たのだ。寂しがり屋というのはよくわからなかったが、ガンビットは彼の願いを突っぱねることなく、構わない、と二つ返事で承諾した。誰かと食事をとるのも、誰かのために食事を作るのも好きだからだ。
猫と囲む食卓は存外楽しいものだった。初めて食べるというケイジャン料理を猫よろしくスンスンと匂いを嗅ぎ、おそるおそる口に運べばなんだこれ辛いだの、でもこれは酒が進むなだの、想像よりも賑やかな食卓は料理の腕を振るう甲斐があった。猫もまた、ガンビットが料理しているときは興味深そうに近寄ってきては味見をして楽しんでいる様子だったのだが、夜になると猫の様子は途端に変わった。とにかく酒を飲むのだ。
ガンビットは持っていた空き瓶を足元に置いて、ベッドの端に腰を下ろした。
猫の酒量は、初日は一本、二日目は二本、三日目は三本と空ける瓶の数が日に日に増えていった。今日は五日目だから五本、非常にわかりやすい。わかりやすすぎて失笑する。
初日の別れ際、猫はウェイドに「一週間寂しいだろうけど我慢してね」「お酒飲み過ぎちゃダメよ、ウルヴィーちゃん」と抱きすくめられ、「飲まねえよ」「そもそも俺はひとりで大丈夫だってのに」などとたいへん不貞腐れていたが、赤いスーツの男がじゃあねと消えたあと、しばらくドアをじっと見つめていた。今だってそうだ。誰が帰ってきたかわかるように、ドアのほうを向いて眠っている。なんてわかりやすい男なのか。
酒量が増えるのも、ドアを向いて眠るのも。
「早く帰ってくるといいな」
くるるる、という猫の寝息と、猫の手がガンビットのコートに当たりコツリと音を立てた。はて何だったかとポケットを探れば、ツナ缶がごろりと出てきて苦笑する。これで少しは気分が上向くだろうか。明日の朝、バゲットに塗って焼いてやろう。
「アボカドも載せたいところだが、やめとくよ」
だって恋人を思い出して寂しくなるだろう、モナミ?
◇
「ローたんいい子にしてた?」
「してた。今度ケイジャンにツナとアボカド載せてパン焼いてもらう」
「はあ?」
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