ソファの背もたれに背を預け、春日は棒付きアイスに齧り付く。古いアパートに備え付けてあるエアコンは昨日から調子が悪く、かなり設定温度を低くしているというのになかなか室温が下がらない。いっそ窓を開けた方が涼しいのでは、と思ったが、陽が落ちきらない所為か外から時折吹き込んでくる風は温い。却って具合が悪くなりそうで結局窓を閉めた。
「暑っちぃ〜…」
春日は気温への愚痴を零しながら首をのけ反らせる。アイスのお陰で口内は冷えているが、身体はまだまだ熱い。額に滲む汗を手の甲で拭って春日は隣に座る恋人へ目を向けた。テレビゲームに勤しんでいるハンは涼し気な表情を保っている。上着を脱いで薄着になっているとはいえ、暑さを感じていないように見えた。この差は何だろうか。タンクトップと下着という最低限の衣服しか身に付けていない自分は暑くて仕方無いというのに。
「どうしました?」
探るような、妬むような視線が喧しかったのか、ハンはゲーム画面から目を逸らさずに問い掛けてくる。
「あんた、暑くねぇの?」
「暑いですよ」
恋人の視線を追うように、春日もゲーム画面に目を向ける。的確な操作で補助役の味方キャラが攻撃役に能力向上の魔法を掛けていた。
「嘘つけ。平気そうな顔してる癖に」
一瞬、カーソルの動きが止まる。が、直ぐに動き出し、攻撃役の強烈な一撃が炸裂した。
「……平気ではありませんよ」
大きなため息の後、絞り出すようにハンが言う。
「そ、そうか。何か悪ぃ…」
ただ単に暑さを意識しないようにしていただけかもしれない。悪い事をした気がして春日は謝罪すると、少し放っておいた間に溶けかけたアイスに舌を這わせた。
──平気では無い。全くもって平気では無い。言葉を交わしながら、つい春日の方を見てしまったハンは後悔しながらそう思った。常日頃から色気と可愛いさを兼ね備えている恋人が薄着で、汗ばんだ肌を見せ付けながら、無防備に寛いでいるのだ。本当は手を出したくて仕方無い。ゲームでもして気を紛らわせなければ襲ってしまいそうだった。我ながらよく堪えているものだと思う。
気温差ですっかり汗をかいたグラスを手に取り、ハンは半分程残っていた冷たい麦茶を飲み干す。ついでに欲に浮かされた頭が冷える事を期待したが、そうはならなかった。見ないようにしても視界の端に春日が映る。棒付きアイスから垂れかけた雫を舌で受け止めて、ねっとりと舐める姿が、最早こちらを煽っているとしか思えない。
「〜〜〜っ!!」
もう限界だ。ハンは手で顔を覆い、声にならない唸り声を上げるとゲームのメニュー画面を開く。ただでさえ今日は暑さを理由に恋人とまともなスキンシップを取れていないのだから限界も来る。
「あれ、止めんのか?」
「ええ」
セーブをしてゲーム機本体の電源を落とすハンに、悩みの元凶である春日は不思議そうに首を傾げる。ハンはテレビの電源も切ると恋人に向き直った。
「春日さん」
「ん?」
「エアコンの調子も悪いようですし…今日は外で食事しませんか?」
店内の方が涼しいですよ、と付け加えると春日も納得した様子で頷く。
「…そうだな!この暑さじゃ外に居るのと変わらねぇし!」
舐めていたアイスに歯を立てて食べ終えると、春日は勢いを付けて立ち上がる。いくら暑くてもタンクトップと下着で外に出る訳にはいかない。アイスの棒をゴミ箱に投げ捨て、クローゼットに入れていたシャツを取り出した。
「ハン・ジュンギはどっか行きたい所あるのか?」
「ええ。春日さんさえ良ければ、ですが」
「良いぜ。あんたに任せる」
空になったグラスを片付けながら、ハンは脳内でデートプランを組み立てる。今日はもうアパートに戻る事は無いだろう、と思いながらモッズコートに袖を通した。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.