背中に自分以外の体温を感じて、眠っていた春日の意識は浮上した。ゆっくり目を開くと目線の先にはホテルの広いベッドの端が見える。後ろの熱源はもぞもぞと動いたかと思えばリップ音を立て始める。どうやら背中にキスをしているらしい。春日が身を捩って振り向くと、柔らかな唇の感触が離れていった。
「おはようございます。春日さん」
「…おう、おはよう」
すっきりとした表情をしている恋人へ、春日は寝ぼけ眼と掠れた声で返事する。くあ、と大口を開けて欠伸をしながら伸びをすると少しずつ目が覚めてきた。先程、春日の背中に口付けていたハンは、今は慈しむように龍魚を撫でている。その手の感触が心地良い。
「…相変わらず立派な刺青ですね」
「へへっ、ありがとな。俺も気に入ってる」
背を撫でていたハンの手が春日の腹部に回る。背後から恋人を抱き締めながらハンが呟いた。
「…実は私の名前にも"龍"という漢字が使われているんです」
「んぇ?そうなのか?」
興味を唆られたのか春日が寝返りをうってハンに向き直る。恋人が腕の中から離れてしまった事に対するほんの少しの寂しさと、自分に関心を持ってくれる事への喜びがハンの心に入り交じる。
「えぇ。ヨンスという字は──」
サイドボードに置いていた自分のスマホを手に取ると、ハンはメモアプリに文字を入力した。
「龍という字、そしてさんずいに朱色の朱という字で"龍洙"と書きます」
「へぇ、これでヨンスって読むのか…すげぇ格好良いな!」
スマホの画面を覗き込み、身体に情事の痕を残しながら春日は無邪気な少年のように笑う。電源ボタンを押したハンはサイドボードにスマホを戻すと身体を恋人に寄せた。
「こうして改めて見ると、私が春日さんに惹かれたのは必然だったように思えます」
「へ?」
名前に使われている漢字の事から、随分と話が飛んだ気がして春日は聞き返す。恋人に向けて微笑むとハンは話を続けた。
「さんずいは川や水に関する漢字です。朱色は貴方のスーツの色とは少し違いますが…オレンジ色が混ざったような赤色です」
「んー…神社の鳥居とかの色か?」
「そうですね。そんな色です」
再びハンが春日の背を撫で始めた。
「…滝を登り切る事で龍となり、赤を纏う貴方の事を言っているような…そんな名前だと思いませんか?」
宥めるような優しい手つきが色気を孕んだ動きに変わる。まだ何も身に付けていない腰や尻を愛撫され、春日は小さく喘いだ。
「春日さん」
「んッ…な、何だ?」
「名前、呼んで下さい」
「……ヨ…龍洙…?」
字を教わってから名を呼ぶ事に恥ずかしさが込み上げてきて、春日は枕に顔を埋めた。昨夜は散々縋り付きながら呼んでいたというのに。恋人の反応が堪らなく愛おしくて、ハンは春日の肩を抱きながら耳元へ口を寄せる。
「はい、春日さん。…貴方の龍洙です」
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