2024-04-17 22:43:49
1386文字
Public 龍如
 

寒がりになった君へ(ハンイチ)

※8後時空。寒がりになった🌸の話。何でも許せる人向け。

「へっくしっ!」
地面に向けてくしゃみをした春日はぐすぐすと鼻を啜った。肩を竦めて自分自身を抱き締めながら身体を震わせる。時折吹き抜ける風が肌を刺すように冷たい。店で食事をしていた時は暖房のお陰で暑ささえ感じたというのに。
春日さん、大丈夫ですか?」
震える春日とは対照的に、寒がる素振りなど一切見せずにハンは恋人を気遣う。ハワイから帰国して約一週間。常夏の島と真冬の日本による寒暖差の所為か、春日はくしゃみをする事が増えた。以前までは何ともなかった筈の寒さが身に染みる。厚手だと思っていたワインレッド色の一張羅が薄く感じる。まだ昼間だというのに曇っている所為か気温は低いままだった。
「ああ大丈、っくしゅッ!」
とても大丈夫そうには見えませんよ」
並んで歩いていたハンは少しでも恋人を温めてやろうと、春日の肩を抱いた。
「寒ぃっ!」
だが、外気を浴びた耐水性のコートでは逆効果だったらしい。スーツ越しでもひんやりとした感覚が伝わってきて、春日は思わず大声を上げて恋人の腕を振り払った。通りすがりの人々が声に驚いて、何事かとこちらに注目する。しかし、それも一瞬の事で周囲の人たちは直ぐに視線を戻して目的地への道を急ぐ。不満げな目線で春日を見詰めているのは恋人だけだった。
わ、悪ぃ。つい振り払っちまった」
弁明する春日に、ハンは口角を上げる。笑顔、というには目が笑っていない。どうやら意図せず恋人を傷付けてしまったらしい。
「ご、ごめんな?」
……いえ、私も軽率でした」
「えーとハン・ジュンギ、さん?」
狼狽える春日の手をいきなり掴むと、ハンは恋人を引っ張るように大股で歩き出す。
「どっどこ行くんだ?」
尋ねる声が震えるのは既に寒さの所為だけでは無かった。力の差があるので、この手も振り払おうと思えば出来るのだが、そんな事をして許される雰囲気では無い。質問には答えず、ハンは春日の求める答えとは少しズレた返答を返す。
「表面だけ温めても意味がありませんよね」
「え、な、何が?」
飲食店が立ち並ぶ道から逸れていき、徐々にホテルばかりが目に付く通りになっていく。確かに今日は明確にデートコースを決めていた訳では無い。それにもう何度も同衾した仲だ。今からホテルに行っても問題はない──と、思ってから春日は自分の考えを打ち消すように首を左右に振った。今はまだ昼だ。いくら何でも事に及ぶには早すぎる。通り過ぎてくれという春日の願いも虚しく、ハンは空室があるホテルの前で足を止めた。
いや待て待て待て何でだよ。まだ早いって。今日のデートここで終わらせる気かよ」
「たまには良いでしょう?」
せめて休憩だけだと言ってくれるのを期待したが、このまま一泊するつもりらしい。となれば何時間ホテルで過ごす事になるのだろう。頭が回らなくて計算が出来ない。
「春日さん」
「ひっ」
寒いと言いつつ大きく開いていた胸元に、冷えたハンの指先が伝う。今度は振り払わずに耐え切れたが、情けない声が漏れた。
「時間はたっぷりありますから身体の奥深くまで念入りに温めて差し上げますね」
色気を含んだ声で囁かれ、春日の心臓が早鐘を打つ。全身の血液が沸騰したように身体が熱い。もう充分温まったと言って恋人から何とか逃れようとする春日を連れて、ハンはホテルに足を踏み入れた。