通り雨を凌ぐ為に、春日は近くにある自分のアパートにナンバを招き入れた。所持しているタオルの中でも比較的、新しい物を渡して湿った髪を拭かせる。どこか座るように声を掛けると、春日はヤカンに水を入れて火にかけた。
「うわ」
親友の冷めた声に春日は洗いカゴのマグカップから視線を上げる。ナンバの目線は荒川親子の仏壇から、少し左に置いている写真立てに注がれていた。あれは四年前に仲間の皆で撮ったものだ。狭い画面に仲間たちを収めるのに四苦八苦したが、春日としては皆が写った良い画が撮れたと気に入っている。
ずっと置いてあるのでナンバも何度も見ている筈だ。それが今更どうしたのかと気に掛かって春日は声を掛けた。
「いい写真だよな、それ」
「はぁっ!?」
改めてマグカップを二つ取り出し、インスタントコーヒーの粉末を一匙ずつ入れた瞬間、ナンバが素っ頓狂な声を上げた。予想外の反応に、春日は驚いて再びナンバに目を向ける。
「お前っ…!これが!?この写真がか!?」
大事な写真を否定された気分になり、不貞腐れている春日に、ナンバは思わず写真立てを持って見せた。遠目からでも集合写真では無い事が分かる。妙に肌の色が多い。嫌な予感がして春日は親友に駆け寄り、写真立てを受け取った。
「な…なんだこりゃああ!?」
写っていたのは春日とその恋人のハンだ。何処ぞにデートへ行った時の写真だったら、確かに少し気恥ずかしいがここまで叫ぶ事は無かった。
額縁の中の春日はベッドと見られる場所で熟睡しており、ハンはその隣で得意げに口角を上げている。写っている範囲での話だが、二人とも衣服は何も纏っていない。更に春日の身体には何ヶ所も鬱血痕が残っている。どう見ても事後です、と言わんばかりの写真に春日は血の気が引いていくのを感じた。
「…まぁ、あれだ。どうせハン・ジュンギが撮って置いたんだろ。気にすんなよ、見なかった事にするから」
固まっている春日の様子を見て、親友が破廉恥な写真を自ら置いたのでは無いと理解したナンバは、却って安心した様子で気遣いの言葉を掛ける。家に招かれるほど親しい者たちへ向けた牽制だろう。春日を奪う気など毛頭無いのだから仲間相手に嫉妬しないで欲しい、とナンバは常々思っている。写真立てから中身を取り出すと、春日は握り潰してからゴミ箱に放り込んだ。
「…多分、何日か経ったら元通りになってんだろうな」
どうせデータは残っているのだろう。仮に無くても、ハンなら新たに撮り直しそうだ。
ナンバの呟きはヤカンの湯が沸いた笛のような音にかき消されて、春日には届かなかった。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.