2018-11-17 07:44:43
1375文字
Public 岩男X
 

スパックス

※レプリロイド用のカフェに行く話。スパイダーは本物の方という設定です。何でも許せる人向け。

夕暮れ時のカフェの店内は、自分たちの他にはカウンター席に客が一人いるだけだった。路地裏にあるこのカフェは元々賑わっている方ではないが、だからこそ俺は気に入っていた。余り褒められたものじゃない職業をしている自分にとっては人が少ない方が都合がいい。
注文したコーヒーとソフトクリームを持ってくると、店員は先程からいた客と話を再開した。
テーブル席に向かい合うように座ったエックスは、ソフトクリームを持ったまま戸惑ったような視線をこちらに向ける。
「どうした?食っていいんだぞ?」
「いや、何かその」
俺もコーヒーにすれば良かったかな、と頬を赤く染めていた。この静かな雰囲気のせいで妙な気を遣わせてしまったようだ。
「別に、食いたいもの食えばいいだろ」
何ならコーヒーを再注文すると言うと、エックスはそれを断り、漸くソフトクリームに口をつけた。
「あ美味しい」
「そうか、良かったな」
こちらも自分のコーヒーを啜る。コーヒー、と言っても実際は人間の物とは違う。エネルギー源に味付けして再現しただけの物だ。はっきり言ってしまえば味など付ける必要は無い。だが、とある研究者が『出来る限りレプリロイドと飲食を共にしたい』と作り出したそれらは今でも受け入れられていた。
キリッとした苦味と程よい酸味を自身の味覚センサーが伝える。初めて経口摂取した時は、味よりも自身に味覚センサーが搭載されている事に驚いた。
自身を造った研究所は、より強力なフォースメタルに適合し、優秀な戦闘能力を兼ね備えたレプリロイドを造りたいだけのろくでもない場所だった。実験に耐えきれずに大破し、容赦なく処分された仲間も大勢いた。そんな奴らが味覚センサーという真っ先に切り捨てそうなものを搭載するなんて。
スパイダー?」
考え事に浸っていた俺を不審に思ったのだろう。エックスに名前を呼ばれてハッとする。
「ん?どうした?」
「いや何か考え込んでるみたいだったから」
「あぁ、少しコーヒーが熱かっただけさ」
下らない考え事に咄嗟に嘘を吐く。見え透いた嘘だっただろうか、と警戒しつつエックスを見るとクスクスと笑っていた。気付かれてはいないようだが、これはこれで子供扱いされているようで気に入らない。
「じゃあ、これ食べるかい?」
少しムッとした俺を気遣ったのか、冗談なのか。エックスは食べかけのソフトクリームを俺の前に差し出した。
その手を取って、椅子から軽く腰をあげる。空いた方の手でエックスの顎を掴むと強引に唇を重ねた。
「ん!? ふっ!」
驚いたエックスの薄く開いた唇を抉じ開けて舌を潜り込ませる。舌同士が触れあうと彼の熱とほんのりとした甘さが伝わってくる。
唇を離したときには、溶けかけのソフトクリームが互いの手を濡らしていた。
「おまっ! 何を!?」
「デートにキスは付き物だろ?」
「デっ!?」
デートに誘われた、という自覚すら無かったのだろう。思わず出た自身の大きい声に、エックスは咄嗟に手で口を抑えると店員たちの方を確認する。声に驚いたのか客の方が一瞬不思議そうにこちらを見たが、直ぐに店員の方に向き直っていた。
「そんなに怒るなよ。もう一個買ってやるから」
「そういう問題じゃない!」
顔を真っ赤にしたまま口元を抑えるエックスを横目に俺は店員を呼んだ。