俺は今日センチネルの裏切りを知った。だから今日、奴を殺す。その宣言通り、俺はアイアコンへと戻り、裏切り者を追い詰め、その顔に砲台を向けた。
「やめろ! D! もう終わったんだ」
「何も終わってない! アイツはまだ生きてる」
制止するオライオンの腕を振りほどこうと振り向き、逃げ良いとするセンチネルから視線を外したその瞬間。視界の端に光るものが見えた。
「D! 伏せろ!」
センチネルが放った砲撃が、オライオンの機体を抉る。その一撃で、オライオンの肩から腕にかけてが跡形もなく吹き飛び、トランスフォームコグは剥き出しになった。どう見ても手の施しようがない致命傷だった。
「――っ! なんで庇った! あれくらいの攻撃避けられたのに……なんで!」
「……D、やめるんだ」
そう言い残して、オライオンのオプスティックから光が消えた。俺はただ、その胸に宿るスパークが無に帰すのを見ていることしかできなかった。まるで半身を失ってしまったような感覚に、視界から全ての色が消えていく。動かなくなったオライオンの機体を抱きかかえて、呆然としていたその隙に、逃げようと足掻くセンチネルの姿をアイセンサーが捉えた。そのとき、喪失感は激しい怒りで上書きされ、ブレインが焼き焦げるほどの殺意が機体を突き動かした。
――そこから先は、あまり覚えていない。
奴の断末魔も、復讐の快楽も、何もかもが遠かった。ただそこには、怒りと悲しみしかなく、全てが終わったあとには虚しさだけが残った。
「俺はお前を守るから、お前も俺を守ってくれ」
いつの日か、オライオンと交わした約束。その記憶の眩しさと現実の差があまりにもひどく、乾いた笑いがこぼれた。
ディセプティコンの司令室に鎮座された玉座、その傍らに置かれた壊れた機体が"オライオンだったもの"であることは、信じがたかった。空っぽのオプティックをいくら見つめても、そこに蒼の光が宿ることは二度とない。それがわかっていても、この機体を手放すことはできそうになかった。
俺はあの裏切り者が作り上げたもの全てを破壊した。タワーも彫像も、奴の軍隊も、何もかも。センチネルが作った"コグなし労働者"という支配構造もなくした。しかし、現状は変わらなかった。階級制度を廃止しても、階級差は一向になくならず、エネルゴンは枯渇したまま。これでは、サイバトロン星が滅びるのも時間の問題だった。
「じゃあ、どうすればいいんだ。エネルゴンを採掘しろと命令しなければいけないのか? 今度はこの俺が、アイツのように?」
……いいや、俺はアイツとは違う。俺なら、もっと別の方法を見つけられるはずだ。それにそれだけエネルゴンを採掘したところで、エネルギー問題の根本的解決にはならない。リーダーのマトリクスがない限り、エネルゴンはいつか尽きる。それならば、代替エネルギーの開発を急いだ方がいいのではないか。何か、エネルゴンの代わりとなるものがあるはずだ。大きな力を秘めた何かが……それこそ、スパークのような生体エネルギーをエネルゴンに変換することができれば、この星は生き長らえることができるかもしれない。
そこまで考えると、ふと恐ろしい考えが頭を過ぎり、物言わぬオライオンのオプスティックが俺を責めているように感じられた。
「センチネルと同じだ」
オライオンの放ったその言葉が頭の中で何度も再生され、目の前がチカチカとする。
「――っ、違う! 俺はこの星を救おうとしているんだ!」
自分の口から発されたその言葉が、あのセンチネルと重なって、怒りとも悲しみともつかないような感情が呻き声として口から漏れ出た。
「ちがう、やめろ。そんな目で俺を見るな、オライオン……」
▽
「メガトロン様」
「……スタースクリームか」
補給用のエネルゴンを片手に、報告へ来たスタースクリームを司令室に通す。ここ数サイクルでのクインテッサ星人の動きやアイアコンの情勢、サウンドウェーブが作成したであろう資料にはそれらのことが事細かに記されていた。状況は依然として芳しくない。この星はゆっくりと死の道を辿っている。
「そろそろ次の一手を考えるべきだな」
「それには俺も同意しますね」
「他の者の意見も聞きたい。近々会合を開く準備をしておけ」
それだけ言ってエネルゴンを一口齧ると、もう下がっていいとスタースクリームに目配せをした。
「仰せのままに、メガトロン様。……それから、"それ"いつバラすんです? アンタ、そのうち処分するって言ってましたよね」
「……オライオンのことを言ってるのか?」
玉座の傍らに置かれた機体を指差しながら、不躾にそう口にしたスタースクリームを睨みつける。それでもスタースクリームは怯むことなく、薄笑いを保ったまま、呆れたように口を開いた。
「それはもうただのガラクタですよ、メガトロン様。資源は有効活用が基本でしょう。そんなスクラップに執着するほど、あのガキが恋しいんですか? ディセプティコンのリーダーともあろう人が嘆かわしい。いや、今はD-16と呼んだ方がいいかな?」
「……口を慎め、愚か者。俺が情けをかけることはもうないと言ったのを忘れたのか?」
激情のままに、初めて会ったときのようにスタースクリームの発声回路を壊す勢いで握りしめ、砲台を顔に向ける。それでもスタースクリームは挑発的な笑みを浮かべながら、いつもの調子で喋り続けた。
「……はっ、そうだよ。アンタはそれでいい、メガトロン様。俺が忠誠を誓ったのはそういうアンタだ。この世は強いやつが支配する。だからこそ、アンタは支配者に相応しい。せいぜい俺の期待を裏切らないでくださいよ、メガトロン様」
スタースクリームのオプティックは愉快そうに弧を描き、ギラギラと凶暴なまでに光を放っていた。その眼差しが、闘争本能と怒りを呼び覚ます。
スタースクリームはその傲慢な態度とは裏腹に、リーダーの何たるかをよくわかっていた。ディセプティコンのリーダーに、生ぬるい感傷は不要だった。今はただ、この機体を突き動かす怒りさえあればいい。そして、壊れた労働者の機体などもまた、"メガトロン"には不要だった。
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