米田
2024-11-03 23:46:55
3526文字
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歌会ロキシーの読み

2024年11月3日に開催された歌会ロキシーの、詠草への読みです。

①あとすこし。きみは瞼をあけていて。帰り道では猫だけを見て。 (なつこさん)

賢者が元の世界に帰る時のムルの言葉かな?と思いました。
。がこれまでとこれからの物語を感じさせていいですね。
賢者の帰り道、どんな感じなんだろうなと思って少し切なくなりました。その頃にはまほやくの物語も大団円になっているんだろうかとか、諸々の問題は解決したんだろうかとか、賢者は元の世界に戻ったらどうなるんだろうかとか、ムルはどうなっているんだろうとか。
そういうことを思わされます。



②湖のない世界でも瞳の中に飛び込んでいく星の不時着 (メリさん)

ミスラさんの歌かな、と思いました。
「星の不時着」という言葉が本当に良くて……しかも瞳の中に飛び込んでいくんですよ……素敵だ……
「湖のない世界でも」というのは、この場合は大きな意味での世界というよりは地域とか場所のことを言っているのかなと思いました。
湖のない場所でも星は瞳の中に飛び込んでくる。
ない世界でも、とあるので、湖のあるところでならなおさら、瞳の主体はその目の中に星が飛び込んできたことがある。
それは、時に寿命の短い人間だったり、何か動物だったり、魔法生物だったりしたかもしれない。
でも瞳の主体と星は、湖のない場所で出会うわけですね。
ミスラさんにとっての賢者のことを言っているのかなと思いました。
湖、ミスラさんにとってのマナエリア、ひいては魔法のない世界からやってきて、北ではないところで出会った賢者のこと。
不時着、というずっとではない、一時の表現をされているのが切なくて、でも美しい歌だと思います。
私、歌の中に否定形が入っているものが好きなので、この歌もすごく好きです。



③きみと私融けあう「 劇」の終幕に腹中より愛をこめて (カヌレさん)

最初愛憎の歌かなと思ったのですが、腹中より、というところで、あ、これムルと欠片のムルの歌かもしれない、と思いました。
「融けあう」に融合の漢字が使われているのも、ムルが欠片のムルを飲み込んでひとつになることを言う時にぴったりだなと思います。
「 劇」の部分は、そこに当てはまるものとしてあらゆるものが想定されているよ、どれでも間違いではないよ、と言われているような気がします。
旧ムルって、自分という存在がなくなってしまうような時でも「愛」を囁ける人であると思っていて、それが彼の危うさでもあり魅力でもあるなあと思うんですけど、それがこの歌によく表されていて、すごくすごく好きだなあと思います。
最後、字足らずじゃないですか。あ、そこでもう彼の人生は終わったのかな、と思わされて、ゾクっとする終わり方になっていて、そこもすごく好きです。



④左手で割る無精卵 まねごとはいつ真似事でなくなっただろう (波澄さん)

「左手で割る」という部分は、主体の卒のなさというか、器用なところが見られる表現で、それで、割っているのが「無精卵」である、というところ。
初句二句のスリリングさが、そのあとの句にも続いていくようで、ぞくりとしながら読んだのですが、ひらがなの「まねごと」が、文字通り真似事でなくなるのが漢字になった「真似事」で表されているなと思います。
ネロの歌だと思うのですが、この歌で言われている通り、いつのことだというのがはっきりと言えない作りになっていると思います。
魔法舎で料理をしている時なのか、東の国でお店を持っていた時なのか。
個人的には、光と影のコントラストがはっきりするので、魔法舎の明るい朝日の中で思っていてほしい気持ちはありますが……
料理をしながら、無精卵を割りながら、昔の、自分が盗賊団に入った頃なのか、それからしばらく経った頃なのか、のことを思い出している。
命のやり取りをするということは、食べ物を食べるための準備にもつきもので、ネロはそのことをよくわかっていると思います。
彼が、料理をする人であるということに、深い意味がある、と思わされる歌でした。



⑤明るみにはるばる響く声を聴くガス検知器としてのカナリア (米田)

自作でした。
レノックスの歌です。
ガス検知器としてのカナリアが、明るい場所で鳴いている。
それは、本来の役割とは別のところに今はいるということでもある。
カナリアを今のレノックスに重ねて読めるようにしようと思いました。
レノックスは革命の時から400年経った今でもファウストの従者でありたがっているけれど、それは革命軍の時からの思いを引きずっているだけなのか、それとも今のファウストにも心から仕えたいと思っているのか。
きっと後者なのですけれど、多分ファウストは従者としての人生よりも自分の幸せを追いかけてほしいと思っている。
それを、レノックスはどう捉えているか。
革命が終わってもう随分と経って、ファウストも昔のファウストのままではいられなくて。
レノックスも変わったんだろうと思うんですが、それにしても彼は一本気だなあと思って。
レノックスのことを考えるのは難しいと思っているので、彼のことを考えたくて作った歌でした。



⑥人でなしであればだりあ嗅いでいるひみつはなぜかたいていほんと (谷さん)

一読して今ムルの歌かな、と思いました。
彼のことを「人でなし」と表現するの、すごくすごくいいなあ!と思います。
ムルって人でなしだけど、そこが魅力ですよね、と思うので。
「ひみつはなぜかたいていほんと」という、全てひらがなの下の句もすごくムルっぽくて好きです。
彼は、きっと色んな秘密を暴いてきていますよね。色んな秘密を秘密ではなくした、暴露した上で、「なんでかなあ、たいてい秘密ってほんとなんだよね」と悪気なく笑って言っているところを思い浮かべました。
暴露した本人は何の悪気もなく今はもう関心を失ってダリアを嗅いでいるわけですよ。
それがすごい、秘密を持っていた側からするとむかつくだろうなと思って、そういうところもすごくムルだなと思ってかなりおもしろい歌だと思います。



⑦たらればに抱えた願い 背伸びをし 綺麗な石ころ君にあげたい (モルノ助さん)

背伸びをし、というところで、若い魔法使いの歌かな、と思いました。ミチルとかリケとかかな。
「綺麗な石ころ君にあげたい」という部分も子供らしいと言いますか、純粋さが滲んだ表現だなと思います。
ミチルがリケにあげる石ころをお土産に持っていきたい、と言っているところを思い浮かべました。
「たらればに抱えた願い」はあるけれど、それはそれとして、今は子供らしく石ころをあげたい人のことを思っている。
優しさが光るような、明るい歌だと思いました。



⑧柔らかな口の動きで記憶した あらゆるものを灼く雷も (あいださん)

オズ様のことを思っているアーサーの歌だと思いました。
オズ様って、喋りがすごくゆったりじゃないですか。それが、アーサーにとっては何かを教えられる時にすごく役立ったのかな、とか、それがアーサーにとっては嬉しかったり誇らしかったりしたのかな、とか思います。
アーサーを通して見る時のオズ様ってすごく優しく映るので、それがすごく好きです。
「あらゆるものを灼く雷も」、かっこいいな!と純粋に思いました。
アーサーにとってオズ様はヒーローで、かっこいい存在で、怖さよりも勇敢さ、柔らかさの方が立って伝わってきて、彼にとってのオズ様の存在の大きさというものに惚れ惚れとしてしまいます。
オズ様も、アーサーを育てている間は大きな物事に対してではなく、日常のささやかなことに呪文を使っていたであろうと思って、そんな、些細なことにそっと呟かれる「ヴォクスノク」を聴いてアーサーは育ったんだよな、と思いました。



⑨まだ浅くまなうらでひかり跳ね 果てることなき水を湛えてねむる (トラネさん)

「果てることなき水」から湖を連想したのと、「ねむる」からミスラさんの歌かなと思いました。
日中の、光の中での出来事が、夜になっても瞼の裏で跳ねている。「ひかり」が「跳ねる」という表現がすごくいいなと思いました。
彼の中で、浅くてもひかりが跳ねている、というのがもうすごく素敵だなと思って。
それが眠りを妨げるものとしてではなくて、優しい夜の導入として描かれているような気がして、すごく好きです。
夜なかなか寝付けない時、彼の瞼の裏では昼の光の中であった出来事がひかりのように跳ねているのかもしれない、と思うと、グッとくる歌だなと思います。


素敵な歌会と詠草をありがとうございました!