Hizuki
2024-11-03 22:27:34
3925文字
Public あんスタ[零薫他]
 

一日違いであるが故に

【あんスタ】零薫。ES2年目軸、誕生日に零とお酒を飲みながら年齢について考える薫の話。考えても仕方はないけれど。


「薫くんや、そろそろこの間の返事が欲しいんじゃけど」

時は10月の下旬、二人揃ってのラジオ収録を終えて楽屋に戻ってきたのが少し前の話。一息ついて帰り支度をしながら、零くんがそう問いかける。この間の返事、と言われれば、思い当たるものはひとつしかない。

「あ~ごめん、それね」

1週間ほど前に零くんから『誕生日に何が欲しいか』と聞かれていた。その時は少しバタバタしていて、すぐに返事ができずにいた。動かしている手を止めると、零くんの方を振り返る。元々そう荷物を持ち歩かない零くんは、もう支度を済ませてソファで寛いでいた。

「零くんとお酒が飲みたい」
「え?」

俺の答えに零くんはきょとんとしてこちらを見る。予想外だとでも言うように目を瞬かせるその様子に、思わず小さく笑ってしまった。あの場で返せなかっただけで、元々答えは決まっていた。

「ほら、去年言ってくれたじゃん」

来年、薫くんがお酒を飲めるようになったら一緒に飲みたいのう

それは、去年の誕生日に零くんが口にした願い事だった。学年は一緒だけれど、年齢はひとつ上。当然お酒の解禁だって零くんの方が早くなる。とはいえ、そう言ってくれたことが素直に嬉しかったし、俺自身も最初に飲むのなら零くんと一緒がいいと思っていた。これなら零くんの願いも叶えられて、一石二鳥というもの。

「そんなことでいいのかえ?というか、それは我輩が言ったことじゃろう?」
「プレゼントは物だけが全てじゃないよ?だから俺はこれがいいの」
「ふむ薫くんがいいと言うのなら、我輩は構わぬけれども」

形のあるものはもちろん嬉しい。それを見れば何の時に誰からもらったものだと思い出せる。でも、誰と過ごすかだって同じくらいに大事なことだった。節目の年になる特別な日ならなおさら。

「で、零くんは?」
「ん?」
「誕生日プレゼント。何が欲しい?」

同じ質問を零くんにも返す。自分に誕生日プレゼントを、というのだから、もちろん俺だってお返しをする。と言うものの、実際の誕生日は零くんの方が1日早い。だからお返し、というのはまた少し違うような気もするのだけれど。

「そうじゃのう

考えるように手を口元に添えて、小さく唸る。すぐには返答がなさそうなその様子に、帰り支度を進める。俺に聞いてきたのだから、自身にだって同じ質問が返ることは予想していたはず。もしかしたら本当はもう答えは決まっていて、俺の準備が整うまで待っているつもりなのかもしれない。実際どうなのかは分からないけれど、鞄に荷物を詰めて、ハンガーにかけていた上着を羽織った。忘れ物がないことを確認してこれで出られる、ともう一度後ろのソファを視界に入れる。

では、薫くんの10代最後の時を我輩に貰えるじゃろうか」

どうやら読みは当たっていたらしかった。俺が零くんに視線を向けるのと同時にするりとそれを告げた。『俺の10代最後の時』という言い方を砕けば、それは『11月2日』という意味になる。今年の誕生日はバースデーチェキ撮影の仕事が入っている。つまり、零くんのお望みは『11月2日の自分の仕事が終わった後の時間を一緒に過ごしてほしい』ということ。

「俺の20代最初の時も一緒に欲しいんでしょ?分かってるんだから」
「まぁ、自然とそうなるかの」

そして、『そのまま3日を迎えたい』と。そこには当然俺の誕生日も絡んでくるわけで。少しばかりつついてみても、変に取り繕うこともせず堂々と言うのだからいっそ清々しい。

「了解。零くんのためにちゃんと空けとくよ」

俺がお願いしたことも叶えてくれるのは仕事の後になるだろう。翌日は揃ってオフだから多少羽目を外したとしても問題はない。寮に帰って最初にやることは2日分の外泊届の提出だなと思いながら、揃って楽屋を出た。



零くんが取ってくれたホテルの部屋は昨日からの連泊になっている。俺のチェキ撮影の終わりに合わせて迎えに来てくれた零くんと揃ってESを出た。夕食を済ませて部屋に戻ると、零くんは1本のボトルとグラスを2つ、窓際のテーブルに置く。向かい合わせの椅子の片方に座ると、その向かい側は自然と埋まった。コルクの栓を抜いて、グラスに均等にボトルの中身を注ぎ、ひとつを俺の方に滑らせる。

「改めて誕生日おめでとう、薫くん」

祝福の言葉が零くんの声で紡がれる。何度誰に言われても嬉しいけれど、零くんの声のそれはより特別に嬉しく感じられた。

「ありがとう、零くん」

持ち上げたグラスの縁をそっと重ねた。動きに合わせて中に入っている液体が揺れる。初めて口にするそれは、彼の目の色味からやや離れてはいるものの、同じ赤い色をしていた。少し含んで、グラスをテーブルに戻す。

物憂げじゃの。口に合わんかったかえ?」

俺の反応が薄いのを気にしているのだろう、心配そうに零くんが尋ねる。解禁になったのが今日なのだから当然と言えば当然の話だけれど、俺はお酒には明るくない。だから、今回は全部零くんにお任せすることにした。

「ううん、そうじゃないよ。飲みやすくてすっごくおいしい」

比較するものは何もないけれど、飲みやすいと感じた。まるで高級なジュースを飲んでいるかのような。きっと初めて飲むことを考えて選んでくれたのだと思う。そう答えると零くんの表情も和らいだ。零くんも同じようにグラスを置いて、俺に問いを重ねる。

「では、どうしたんじゃ?」
別に大したことじゃなくてさ」

本来ならここで考えなくてもいいことではある。それは、ふっと頭の隅に浮かんできて、思考をそちら側に引っ張った。

ただ、どうやっても零くんと同い年にはなれないんだな~って」

グラスの足に視線を落としながら答える。すぐに返ってこない声に零くんの様子を窺えば、一瞬目を丸くして、それから困ったように笑ってみせた。

「あ~そう、じゃのう
「ごめんね。言ってもしょうがないことだって分かってるよ」

零くんの誕生日は2日で、俺は3日。逆だったのなら、1日だけだとしても同い年になれた。俺より誕生月が早くて、ひとつ下の晃牙くんとアドニスくんが俺の誕生日が来るまでは同じ年齢であるように。

「でも、ずっと零くんの方がお兄ちゃんなんだって思ってさ」

生まれ年が違うからこそ、それは絶対に叶うことはない。零くんは俺の一つ年上で、万が一のことでもない限り埋まることはないし、埋まらなくていいと思っている。

「これこれ薫くん、我輩の弟は凛月だけじゃよ」
「はいはい、よく知ってます~」

窘めるような零くんの声に、俺も軽く笑いながら返す。お兄ちゃん、という言葉が気になったのか、零くんは凛月くんを持ち出した。零くんが弟として凛月くんを大切にしていることは、俺もよく知っている。まぁ、それがうまく伝えられているか、受け取られているかは別として。そもそも、零くんと俺がそんな関係になるはずもない。置いたグラスを手に取って、また口を付ける。

「それ以前に、弟にはなり得ぬよ。薫くんは我輩の恋人じゃもの」
「んっ!?」

さらりと、けれど熱のこもった声で零くんが言う。唐突なその言葉に思わず咳き込みそうになってしまった。何とか飲み込んで、こぼしてしまわないようにグラスから手を離した。

「何かおかしなことを言ったかえ?」
いや、言ってはいないけど」

小さく零くんの笑い声が聞こえた。おかしなことも、間違ったことも言っていない。恋人であることは紛れもない事実だ。そうでなければ、互いの誕生日にこんなに濃い時間を過ごしてはいない。
ちらりと零くんの方を見れば、優雅にグラスを手にしている。初めての俺に合わせてくれていたのもあるだろう、少なめに注がれていた中身を飲み切って、空になったそれをまたテーブルに置いた。そして、ゆっくりと立ち上がったかと思うと、俺の隣に膝をついた。零くんに見上げられるのは少し不思議な感じがする。
俺の方に手を伸ばしたかと思うと、そのまま頬に触れた。何、と聞くよりも早く、柔らかいもので口を塞がれる。驚きつつも目を伏せて、少しだけ口を開ければ、あっという間に深いものへと変わっていった。さっき飲んでいたものと同じ味がする。しばらくして口元から感触が消えた。目を開ければ、紅い瞳と視線が重なる。

「どうか、これからも薫くんの誕生日を我輩に祝わせておくれ」

去年と同じように、新しい願いを、口にした。零くんからのキスなんて珍しいことじゃない。なのに、何となく身体が熱くて、ドキドキしている。ああ、多分これはお酒のせいだ。

うん、俺にも同じように零くんをお祝いさせて」

年の差は縮まらなくても、心はずっと近い場所にある。俺も同じことを零くんに願って、その言葉を誓うように今度は俺の方から唇を寄せる。俺の行動に驚いたのか、一瞬肩を震わせた。

これからの話もいいけど、今は今日の話がいいな」
「ふふ、そうじゃの」

軽く触れるだけのキスをして、そうねだってみせれば、零くんも柔らかい表情を浮かべる。自分のグラスに少しだけ残っていたそれを飲み干して、彼の方に傾けた。さっきは余計なことを考えてしまったから、今度は純粋に零くんが俺のために選んでくれたお酒を一緒に味わいたい。意図を察してくれたようで、零くんは俺の前から立ち上がる。向かいの席に戻ると、もう一度ボトルの中身を2つのグラスに注いだ。まだまだ今年の11月3日は終わらない。グラスが重なって、二度目の澄んだ音が小さく鳴った。