こゆ
2024-11-03 21:41:48
2264文字
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メビウスの底はシーツの上

ペンシャチです。
スワロー島で叔父の道具扱いされていたころのペンギンがシャチを庇って受けた火傷の疵痕を、大人になったシャチが愛でる話。
セックスする三秒前、前編にわってシーツの上です。
ノベロ時代の回想(捏造)があります。

※SSの取り扱いについてXに残るかどうかも含めて試行錯誤中です。見守ってください。
※あまりにもひとつひとつの話が短文なので、今まで通りSSは書いてpixivには気が向いたらまとめるって感じになると思います



※ この作品は無断転載禁止AI学習禁止です(こゆ)






メビウスの底はシーツの上



ペンギンの背中には、古い傷が無数にある。
腕や肩、わき腹なんかには、えぐられたような跡からひきつって固まってしまっている傷も。果ては銃創まである。
しかし、一番目立つのは左肩から背骨あたりまで伸びた火傷の跡。 
それは、十四歳のシャチを庇ってできたもの。
叔父の家の暖炉のそばに、派手な飾り装飾をされた絢爛豪華な真鍮の火掻き棒があった。暖炉の炎で熱したそれを、押し付けられたときの疵痕。



ツナギの上だけを腰まで落として、ペンギンは背を丸めて足の爪を切っている。 
ベッドの上で胡坐をかいているその後ろ姿は、風呂上がりで暑いからと上半身は剥き出しのままだ。
ぱちんぱちんと小気味良い音が響いて、見るつもりもなかったがどうしても意識がそちらに行ってしまう。

「シャチ、そんなに凝視されると穴があく」 
「なんだよ、背中に目でもあんのかよペンギン」 
「シャチのことしか見えない目だけどな」 

くっくと笑われて、ちょっと恥ずかしい。
気づいていたことに驚いたというより、それほどまでに見つめていたことの方が自分で驚いたのだ。 

「お前の熱視線なら、気付きたいだろ」 
「そうかな」 
「で?」 
「ん?」 
「なに見てたンだよ」 
「あ、あぁ。いや、背中の火傷の跡みてた」 
「またかそれ、いまさら。ほんとシャチはそこ好きな」

好き。そりゃそうだ、とシャチは思う。
ペンギンの背中に体重を預けて、その感触と温度の一番近くに行く。
すき、の二文字て済むほど、そんな単純なものじゃなくて。
後悔とか贖罪とか、そんな重たい話でもなくて。
あのとき、シャチはペンギンに抱き込まれ、色も音も全て黒く閉ざされて、ペンギンの潰れた声と、ペンギンが生きている証の音、そして叔父のがなり立てる声を聞いているしかなかった。
記憶に残るは、繊維と皮膚が焦げる嫌な匂い。
歯を食いしばり、喉の奥で微かに鳴った呻き声。
あとは、止めに入ったメイドが吹っ飛ばされた音。
そういえば、あの屋敷で唯一おれたちを気にかけてくれていたメイド、あの人がくれた飴はおいしかった。スワロー島の春のお祭りで食べた綿あめのような、甘ったるい幸せが奥歯の後ろまで広がる味。

「何考えてんだ、シャチ」
「背中の傷はなんとかの恥とか思う?」 
「そんな腹の足しにもならねェようなプライドならとっくに捨てたさ」
「あと綿あめ食べてーな、って」
「それも腹の足しにはならねーな」

こともなく笑うペンギン。
全く意に介していない。

ペンギンとシャチは、剣士でも戦士でもない。
すなわち、威張れるような真剣勝負ばかりを望んでいるわけではない。
潜入捜査で下手をして、拷問を受けたことも、目の前の敵から逃亡したことも、互いを庇っての背中の傷も、無数にある。
でもそれは、海賊である以上仕方のないことなので、恥だとかそんなことは言わない。どれだけの攻撃を受けても、どんな屈辱的な傷を与えられても、優先すべきことがあるから。
背中の傷を気にしているのはシャチだけで、話題に出してもペンギンはいつもこんな調子だ。
そもそも、俺から見えねぇし。
そう、至極真面目な顔で言われてしまったら、そりゃそうだとシャチも納得するしかない。

「俺はこの傷、好きだよペンギン。興奮するとほんのり色が濃くなって、ヤってるとき指が当たるとちょっと浮き上がんの。ああ、ペンギンも気持ちいいンだなって触ってると安心する」
「そんな変態ちっくな誘い言葉どこで覚えて来たンだよ」

くすくす笑いながら、シャチはペンギンの背中にぴたっと頬をくっつけた。
自分の不甲斐なさに躓いたときもあった。
俺さえいなければ、と抜け出せない暗闇に放り出されたこともあった。
背中の傷を見せつけられるたびに、責められているような気さえもした。
 
それでも、今も昔も、ペンギンに注がれている愛がひたすらにずっと果て無く続いていて。今ではそんな日常を思い出して、こうして笑い合える。
シャチがペンギンの傷跡が好きなのは本当だ。
いや、ペンギンの嫌いなとこなんてない。
嫌いなとこも含めて全部好きだ。
 
「シャチ、爪切りづらい」 
「ペンギンの腹筋が訛ったンじゃね?」 
「シャチが肥えたンだろ」 
 
いつの間にか、爪を切る音がやんでいる。 
ペンギンが振り返った途端に、まとわりつく夜の香り。

「お前か俺が女ならなぁ」 
「へ?」 
「種を残したいとか、そんな常套句も使えるのにな」 
「いや、だせーし馬鹿だろ」 
「いまだに、シャチとセックスするのに好き以外の理由が見つからねーの」
「難儀だな、それは」
「いや、至ってシンプルだろ」
「おまえがはじめた話だろ」
 
ふたりは一緒にベッドに倒れ込む。
ぎゅうぎゅうに身体をくっつけて、一つになってしまったかのように、隙間もなく寄り添うようにした。 
シャチがペンギンの背中に腕を回して、ペンギンの背中の跡を指で撫でる。そのまま襟足の髪を少し絡めて。

「そろそろ、髪切ったげよーか」
「明日、晴れたらな、約束」 
「そんで、綿あめ食いに行こうぜ」
「なんだよ、それ」
「なんか無性に食べたくなった」

ふふふって、笑いながら、ふたりで絡まり合って、戯れあって、唇を近づけた。
それは、決して甘いだけではない、当たり前に腹も膨れない行為の始まりの合図。



【了】