yoqips
2024-02-02 12:37:15
1387文字
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愛妻の日

2024年だるまりSS


「今日は俺が食事を作ろうじゃないか」

 と宣言して夫が台所へと入っていくのを、居間に座らされた鞠奈が見送る。どういう風の吹き回しか食べるのが専門の達磨がそんなことを言い出したので喜んでお願いしたはいいが、机の前に座って何をすればいいのやら。
 実を言うとお米は炊けているのでもう混ぜるだけでいいし、朝に焼いた鮭がまだあるはずだ。お浸しが残っていたかしら。ご飯を作ってくれるのだから蜜柑や最中をおやつに食べてしまうのも忍びない。
 大きい体を折り曲げているせいかガン、ゴンとたまに騒がしい音がする台所のほうを気にしながら、鞠奈はすぐに座っているのに飽きて居間を掃除しはじめてしまった。

「できたぞ!」
「私も終わりました!」
「さてはなにか家事をしてたな」
「うふ、手持ち無沙汰で……あらっ!」

 大きな青い花と実が描かれた平皿に、すこし不恰好だが立派なおにぎりがごろごろ並んでいる。炊き立てご飯と焼き海苔がなかなか美味しそうだ。木のお椀に盛られた味噌汁はほこほこと湯気が立って、豆腐と青ネギが盛りだくさんに浮かんでいた。
 鞠奈は目を輝かせて机にそれらを並べるのを手伝い、いそいそとお茶と箸を用意する。自信満々だったわりになんだか照れ臭さそうな達磨と向かい合って座り、嬉しそうな笑顔の鞠奈が手を合わせた。

「いただきます」
「ああ、召し上がれ……かな?」

 さっそくおにぎりに手を伸ばして小さな口で一口頬張った鞠奈はうんうんと頷き、早く美味しいと伝えるために一生懸命咀嚼した。ぱりぱりと砕ける海苔が香ばしくて、ご飯はよく塩が効いている。達磨が説明するには中身は鮭と梅干しらしい。おかかはどうも作り方が分からなかったようだ。

「大きいおにぎりね、美味しい! うふふ、おにぎりって人に握ってもらうとすごく美味しいのよねぇ」
「確かに、なぜだか鞠ちゃんに作ってもらったときと味が違うような気もするな」
「とっても美味しいわ、あなた。遠足に行きたくなっちゃう。お味噌汁もお出汁ちゃんと取ったのね! あら?」

 味噌汁もちゃんと出汁の味といつもの豆味噌の味わいがする。鞠奈が感心しているとお椀の中にぷかりと小魚が浮かび、それが出汁をとられた煮干しだと気付いて、鞠奈はなんだかお腹を抱えて笑い出したくなった。
 達磨はきっとちゃんと出汁を引こうとして煮干しを使って、そのまま具材と味噌を入れて取り出せなくなってしまったのだろう。彼が大きい体を折り曲げて懸命に料理をしているところがありありと想像できて、可笑しいやら愛おしいやらで、鞠奈はたまらなく笑顔になる。

「すっごく、美味しいわ……! ごめんね笑って。達磨ちゃんって本当にいい旦那さま」
「何だ、失敗したかと思ったよ! ふふ……なかなかやってみると難しいものだ。料理上手の妻を貰って、俺こそ幸せ者だな」

 達磨は嬉しそうに微笑みながら、自分はほとんど食べずに妻の食事する姿を眺めている。それには鞠奈にも覚えがある。彼のために作った料理を美味しそうに食べてくれるのを見るのは、他に変え難い幸せがあるものだから。
 鞠奈は彼ににっこり笑って、作ってもらったおにぎりを噛み締めながら食べた。いつもと変わらないお米や梅干しを使った、彼の作ったご飯。なんだかじんとくる味だった。

2024.1.31(愛妻の日)