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yoqips
2024-01-09 23:14:02
1533文字
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幕間
※片鱗のネタバレが含まれます
深い暗闇で憎悪と悔恨を押し固め、邪神の干渉によって生まれた狂気の産物。道徳観念のかけらも持たないビスコにとって、法廷で行われるすべては芝居でしかなかった。退屈で眠ってしまわなかったのは、衿迦が青白い顔をして神妙に被告人席で立っていたからだ。
説明を求められて「おれがやった」と言うとそれが衿迦の罪になってしまうのだけは、どうも納得がいかなかった。多重人格障害。立ち尽くす衿迦に寄ってたかって相応しい罪と罰を議論する大人たち。これほど大勢の人間がいたのにどうして誰も小さな衿迦を助けてくれなかったのだろう。衿迦が締め出された外で寒さに凍えていたとき、お前たちは雁首揃えてどこにいたんだ?
誰も来やしない。
だからおれがやった。
ほんの数時間の苦痛と惨劇。耐え抜いた年月に対してあまりにもわずかな報い。埋め合わせにはまったく足りていないとビスコはいまだ思っている。それとも自分たちが同一の存在なら、ビスコが汲み上げた水を衿迦に注いでもなんにもならないのかもしれないが。
「お金は没収されないんだって。一応裁判中だからさ、判決が出るまで推定無罪ってことになるみたい。売店で買い物もできるぜ」
「コーラのめる」
「ビスコはカルピスだろ? アハハ」
もう意味なんてないと分かっていながら、衿迦は売店でジュースを二本買った。会話する彼らを職員たちは注意深く観察している。ビスコは周りの人間たちを近寄ってこない限り完全に無視していたが、それを見た衿迦がたまにちくりと胸を痛めるのは気がかりだった。
衿迦が痛いとおれも痛い。
それは衿迦を愛しているからだと思っていた。実際には肉体を共有しているからだと医者は言う。ビスコがまったく気にならないことで衿迦は傷付いてしまう。だから結局同じ場所が痛んだ。不思議だ。カルピスは自分だけが味わって、ビスコはいまだにこうして高いところから衿迦を見下ろし、疲れて寝支度をする彼の白髪が混じったつむじを眺めることができるのに。
「もう寝る?」
「もう寝るっ」
「つめつめつめ」
「なんか狭い気がする」
ビスコからすれば独房のベッドに体を押し込むのは実際に狭い。けれど体を折りたたんで衿迦の体に腕を巻きつけ、頭の上に顎を乗せるとなんともいえない幸福感があった。夏だからか薄い布団だけでも寒さは感じない。肌に衿迦の乾かしたばかりの癖っ毛がふんわりと当たる。石鹸の匂いだ。
「牛乳石鹸」
「あの赤い箱のやつね
……
髪の毛が傷んじゃうよ、もー」
「ふわふわしてる」
鼻先を髪に押し込んでふんふんと動かす。口にしなくともビスコが自分を抱きしめているのがなんとなく分かったのか、衿迦はくすぐったそうな笑顔になって大男の背中にぎゅっと腕を回してくれた。細い背中だ。ビスコにはどうしても衿迦が小さな男の子に見えていて、大勢の人間に詰め寄られるのを見るのは辛かった。
裁判が終われば衿迦はどこかに連れて行かれる。それがいい場所か悪い場所かは分からない。幸いなことに引き離される心配はないが、この傷つきやすくて小さな衿迦をどうやって守ればいいのだろう。自分に体があればいくらでも罪ない彼を苦しめる奴らを始末してやれるのに。
「ビスコ、おやすみ」
「衿迦、おやすみ」
紫がかった瞳が瞼に隠れたのを見て、ビスコも目を閉じた。独房は冷たく静かだったがちっとも気にならない。鼓動とともに血が流れる音がビスコの意識に流れ込んでくる。衿迦が眠った瞬間に視界が黒く塗りつぶされて意識が暗闇に溶けていく。
殺人鬼はとなえた。彼がよく眠れますように。いい夢が見れますように。悪い夢だったら、自分が助けに行けますように。
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