yoqips
2021-09-29 10:23:26
1211文字
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彼氏んちで朝食を




 朝起きるのはつらい。夜眠らないでいるのは簡単なのに目を覚ますのはいつも苦労する。太陽の光から逃れようにまくらに顔を埋めると、しゃりっとした洗いたてのカバーの肌が触れて、そういえば昨日は泊まったことを思い出した。ひとつも埃っぽくないきれいなシーツを足でかいて布団のなかで膝を抱えると、スリッパの音が静かに近づいてきてぼんやり眠りから醒めてくる。「月美ちゃん」と軽やかな小さい声。それでも丸まって目を閉じていると、ベッドの端に彼が腰かけてくわんと身体がたわむ。この瞬間の浮遊感がなんだか好きで、あたしは起きていてもたまに寝たふりをする。
 一瞬顔にかかる日差しがなにかに遮られたのがわかって、まるで乱暴に扱ったらすぐに絡まってしまう絹糸でもほどくように、指が髪をすくって耳までなだらかに滑った。優しく優しく髪を撫でつける指にうっとりして瞬きすると、木蓮くんが笑顔で「おはようございます」と嬉しそうに言ってきて、あたしは観念して大きく伸びをして起き上がる。

「ぉあよ」
「コーヒーが入ってますよ」
「んー、いい匂い……

 チュッととても軽いキスが額に落ちて、朝から褒められたみたいにいい気分になってダイニングまでついていく。マグカップのなかにはブラックコーヒーとカフェオレがあって、あたしは迷わずカフェオレの前に座った。実を言うとコーヒーはここ以外であんまり飲まないんだけど、木蓮くんはもしかしたらあたしがよくコーヒーショップでテイクアウトしているのがクリームやチョコレートの入った甘ったるいドリンクだとは知らないのかもしれない。それでも一度ミルクと蜂蜜をお願いしたら、何も言わずにその配分で淹れてくれるようになった。
 木蓮くんはもう朝のかんたんな掃除を終えているみたいで、机や床はいつもどおりさらさらしていた。しかも作りたての朝食付き。いろんな男と付き合ったけどこんなに甲斐甲斐しい男はそれが性癖でもない限りなかなかいない。

「朝に食べる卵はいいんですよ。タンパク質は多いしカルシウムは牛乳の1.5倍、鉄分はほうれん草の2倍あるらしいです」
「たまごすご」
「栄養補給にぴったりですね」
「んねー」

 木蓮くんはあたしが適当な生返事をしてても構わないらしく、いつもの微笑みのままじゅうじゅう卵を焼いていた。そんな話を前も聞いたことがある気がするけどそのときは卵ではなかったかもしれない。コーヒーを一口飲むと優しい甘さと豆の香ばしい香りがして、ミルクのおかげで熱すぎることもなくごくんとのどを通っていく。お腹に温かさが溜まっていって、蜂蜜の甘さが舌に残って幸せだった。
 霧吹きで水をかけてもらったのか、観葉植物の葉っぱがつやつやと太陽に輝いているのがみえる。この家にいて木蓮くんがいるとあたしもちょうどそんな感じがする。キッチンからは健やかにソーセージを焼くいい匂いがしてきて、ぐーとお腹が鳴った。