yoqips
2021-09-26 15:37:40
1170文字
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真夜中は純潔

エガキナマキナ/小鳥遊月美



 深夜4時に送られた母親からの下手なポエムを読んで最悪の気分になった。長い長い改行もされてない読みにくい文章には、もう月美に迷惑をかけないとか、私は学歴がないからきちんとしたところで働けないとか、一度も推敲されていないようなくだらない自分語りがつらつら書かれている。あたしは本当に食欲が失せて、焼こうとしていた食パンをトーストせずに冷凍庫に戻した。
 だいたいこれがパターンで、月末が近付いてくるとあの人は切り詰めていっても足りない生活費に気が付いて娘に金の無心をするかを大いに悩み、そんなことはしないと息巻いて、肝心の月末近くでストレスが爆発してあたしに電話を寄越す。怒声をうるさいハエみたいにはらって、薄情だと人格を攻撃して、職場に行くと脅し、とにかく意見を通すことに躍起になる。
 だから信じてない。
 創務省の給料は一般職に比べても高くて、奨学金と生活費を払って、好きな服やコスメを買って貯金してもお釣りがくる。けれど働く気のない人間を丸々養えるほど左うちわでもない。あたしが毎日死ぬ思いで没討伐にいって顔に傷つくって検閲をして稼いだ金は、戻るあてのないところに行って惨めにドブに捨てられる。それも約束を守れない母親の不甲斐なさを無意味に慰めるためだけに。
 先月もそう言って、月末には大げんかしながら職場で携帯に怒鳴りつけることになった。あの人に約束を破らせ続けているのはあたしかもと思う。こうやって反省して変わろうとしている母親を突き放せもしないのに、頭の芯だけはドライアイスみたいに冷えていて応援する気もおきない。返信も考えずにベッドの上に携帯を投げつけて、音を立ててまくらを思いっきり殴る。スプリングが気の毒なくらい悲鳴をあげた。どうせあの人はメッセージを送ったことも忘れて今頃寝ている。だからどうだっていい。
 信じてない。
 あと30分で出勤の時間になる。机の上に飾ってあるディオールの香水瓶をとって、エチュードハウスのファンデーション、ピンクのアイシャドウパレットと、ラメの入ったチョコレート色のアイライナーと、真珠みたいな色のパッケージで衝動買いした海外のリップをずらっと机の上に並べる。それですこしはマシな気分を取り戻して、自分の肌の上にのせていくと、思い通り顔が美しいバランスに整って、部屋にこもった憂鬱さはただの朝に変わる。
 木曜日。仕事があるし、あたしは写真を撮りたくなるくらい顔も服も可愛いし、2日行けば週末になって、あとは男につま先まで褒められていい気分になれたらそれでいい。こんな話はもうおしまいにしてメイクボックスにしまいこみ、あたしはすべてのことをあたしに許すことにする。この世には泣いたり喚いたり深夜に恥ずかしいポエムを送るくらいの大ごとなんて、本当はどこにもありはしないから。