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yoqips
2016-03-02 00:54:54
1229文字
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罪障を知らぬのは
二十憑き:百鬼摝口と神鳥谷とまり
この「陰」を少女は知っている。
世間知らずな百鬼の嫡男は呪術で苦しみ、彼の過保護な両親もまた少女に懇願する。息子を助けてやってくれと。呪術師してみればこの仕事のしくみは容易く、同じほど厄介なものである。何故ならこの「呪い」はとまり自身がかつて二十月の少年から「返した」ものだからだ。
神鳥谷とまりは幼い頃から霊媒怨念呪術に魑魅魍魎、気の扱い方からその解き方まで体に叩き込まれてきた。世界の数分の一にすぎない側面は人に害をなすことがあるが、とまりはそれを「事故」と割りきっている。すべてを防ぐことは不可能だからである。
しかし呪術に関しては違う。
其れは必ず何者かの忌むべき"悪意"だ。
「これで良ーし。開けなければ十月十日で呪いは消える」
「嗚呼、有難う!」
摝口は涼しげな白面に明るい笑顔を浮かべる。いとも簡単に呪いを解いてしまった呪術師を「いやあ大したものだ」と褒めちぎった。とまりはいやいやそれほどでも、と謙遜しながら笑って木製の小さな箱を絹紐で結んだ。鬼呪いには塩が要る。海のものならもっと善い。
百鬼の嫡男は歳のわりに擦れたところがなく無邪気なもので、もう少し大きくなりその額にある角さえ隠せば、さぞ女性に騒がれるであろう顔立ちをしている。とまりはその幼気な笑顔を見て、同じようににっこりと微笑みを浮かべてみせた。
「そうだ、僕からも御礼にこれを差し上げやう。人里に下りたときにこっそり買ってきたのさ」
「坊っちゃんはヤンチャだねえ」
摝口は戸棚から菓子を取り出そうとして、ふと背筋が凍るように寒くなった。
する、する、と柔らかな布が畳を擦る音がする。爪紅で艶やかに彩られた白く冷たい女の両手が、首筋に触れるか触れないかという位置で止まった。後ろから射す西日に照らされ、少年を大きな影が覆う。それは鳥の羽根のかたちに縁どられた異形の影である。
「しかし"おいた"にしては度が過ぎる」
「
………
と、」
「ゆめゆめ忘れないことだ。あまり呪術をおもちゃにしていると、早晩すべてが己に返ってくる。血には血を、針には針を、土に土を遣るように」
穴だらけの道は危険で、いつそこへ落ち、奈落の底まで足をとられるか分からない。他人を呪うとはそういうことだ。誰も救われぬ針の筵の旅なのだ。
目を見開いたまま動きを止めた摝口の手元から、とまりは紙に包まれた菓子をひとつとる。
「では、これにて!」
影が消える。突然体が軽くなり、摝口はハッとして首がもげそうなほどの勢いで振り返るが、そこには件の木箱が置いてあるだけだ。ねじられた絹紐は少年の好奇心を殺すようにはっきりと赤く彼を睨みつけている。決して開けてはならぬ。決して背いてはならぬと。
その日を堺に、百鬼の嫡男はすっかりと回復した。木箱は十月十日が過ぎるまで触れられることなく仕舞われ、忌まわしい呪いもまた失われたのだった。
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