溶けかけ。
2024-11-03 20:11:16
3320文字
Public ほぼ日刊
 

今回は引き分けとしようか!

えちちに失敗して、審判しようと言い出すヌヴィレットとそれを止めるフリーナのお話。
こういうお話が一番書いてて楽しい気がします。


「フリーナ殿……準備は良いだろうか……?」
 薄暗い部屋の中、ヌヴィレットがフリーナに問いかけた。室内の照明はナイトテーブルに置かれたランプシェードひとつきり。橙色の光は灯りとしては心許ないくらい淡く、頼りなく揺らめいている。
 フリーナは薄暗がりのなかでも分かるほど、頰を真っ赤に染めて頷いた。それを合図に二人の距離が近づき、唇が重なり合う。啄むような軽いものは徐々に深くなり、二人は互いを求め合いながら、ベッドへと身を沈める。は、とフリーナが酸素を求めて口を開いた。二人の間に糸がかかり、やがて空気に溶けるようにふつりと音もなく消えていく。こくん、と喉を上下させたのはどちらか────いや、あるいは両方であったのかもしれない。
 溺れてるみたいだ、フリーナはヌヴィレットの唇を受け止めながらぼんやりと思った。容易に出来るはずの呼吸がここまでままならなかったことなど、一度もなかったはずなのに。くらくらとする頭は、陶酔か、はたまた、ただの酸欠か、今のフリーナには区別がつかない。ただこの時間が続けばいいのに、と強く願った。
 ヌヴィレットの体温はフリーナより低く、火照った身体で触れて良いものか時折、心配になることがある。
……何を考えている?」
 ヌヴィレットがフリーナの手のひらにキスを落とす。「キミが溶けてしまうんじゃないかって……」そう言えば、ヌヴィレットがくすりと笑った。
「キミの体温は心地良い」
 ヌヴィレットが猫のようにフリーナの首筋に頭を押し付けた。柔らかな銀糸が擦れて少し擽ったく感じる。
「はっ…………んっ……
 首筋からゆっくりとヌヴィレットの唇が下がっていく。彼はフリーナの胸元までたどり着くと、薄紅色に色付いた実を口に含んだ。
「それ、やだぁ……
 実をころころと下で転がされ、フリーナが甘い声を出した。どうやら彼女はここが弱いらしい。重点的に攻め立ててやれば、白い肌は色づき、青い瞳には生理的な涙が浮かぶ。空いている片手でもう一方の実を、残った片手は腰を撫で、太腿へとたどり着く。
 ヌヴィレットの指が薄い布越しにフリーナの柔らかな蕾に触れた。割れ目をなぞれば、健気に反応を示すのが愛らしく、蕾を爪弾いて押しつぶせば、彼女の身体が弓なりにしなった。
 はぁ、はぁ、と肩で息をするフリーナの口内に舌を差し入れながら、役に立たなくなった布を剥ぎ取れば、ヌヴィレットより、よほど小さな手のひらが秘所を覆った。ふるふると震えながら、小さな声で「見ないで……」と恥じらう姿に加虐心が刺激され、少しばかり意地の悪い遊びをしてみたくなった。
「やっ……!何して……!」
 細い両腕を頭上で一纏めにしてシーツへと押し付ける。阻むように閉じられた膝を片手で割り開くと、ひくひくと痙攣する割れ目へと顔を近づけた。
「やだっ……ヌヴィレット……!」
 とろとろと溢れる蜜を舐め上げる。口に広がる甘みは甘露のようで、もっと、もっと、と欲が湧き上がってくる。
「嫌だって……ヌヴィレットなんか、きらいだ……
 ぽろぽろと色違いの瞳から零れる雫を見たとき、ヌヴィレットは自身の失態を悟った。そして、彼がとっさに取ったのは、とても人間らしく、テイワット最強の竜種とは思えない行動だった。
「フリーナ殿……すまなかった……
 ヌヴィレットはフリーナから瞬時に距離を取ると、三指をついて頭を下げた。そう、稲妻では最上の謝罪と言われる土下座である。

「ヌヴィレットのばかっ……僕は嫌だって言ったのに……!」
 ヌヴィレットは投げつけられる罵倒を受け止める。先ほどの雰囲気はすっかりと霧散し、ヌヴィレットはぐすぐすと泣くフリーナを泣き止ませることに尽力していた。
「すまない……年甲斐もなくはしゃいでしまったのだ……
 華奢な身体を抱き締めて、小さな頭を撫で続けた。

 翌日。目を腫らしながら起きてきたフリーナが最初に見たのは、リビングテーブルに積み上げられた書類の山だった。
「な、なんだこれっ!?」
 驚いて腰を抜かしそうなフリーナの背後にヌヴィレットが音もなく近づいて来て、口を開いた。
「昨夜の私たちの行動をなるべく詳細に書き記したものだ。君にも目を通して欲しい」
「なんだってそんなこと……
 疑問符を浮かべるフリーナにヌヴィレットが淡々と告げた。
「それは勿論、審判の準備のためだ。こういった性犯罪は立証が難しい。恋人同士といえど、相手の望まぬ行為は暴力と変わらないことは君もよく知っているところだろう?」
「ふーん……僕とヌヴィレットの審判のためってことか……な、なんだってぇ!?ま、待ってくれ!?キミ、自分が何を言っているのか分かっているのかい!?」
 フリーナはヌヴィレットの胸元を両手で掴むと大きく揺さぶった。揺さぶられたヌヴィレットは揺れに合わせてガクガクと頭を前後させる。
「分かっているとも。して、審判官なのだが……今回は私が審判を下すことが叶わぬ故、法令に則り、代役を立てる必要がある」
「だから……っ!僕の話を聞けっ!そもそも、あれは同意の上で…………上で……うえ、で……
 ぷしゅう、とフリーナが頭から湯気を出すほどの勢いで顔を紅く染めた。昨夜の行為を思い出せば出すほど、その声は小さくなって行く。
「フリーナ殿?」
 ヌヴィレットの声にフリーナは正気に返る。危ない、危ない、今は昨夜の余韻に浸っている場合ではないのだ。
「こほんっ……!とにかく!昨夜の行為は同意の上だ。ただ、すこし……僕が恥ずかしかった、というだけで……
「だが、君は泣くほど嫌がっただろう……
 ヌヴィレットの青色の髪が力なく垂れ下がる。フリーナは、それ、角か何かなのかい?と喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「そ、それは、だね……キミがあ、あんなところを……なななな、舐めるなんてっ……思わなくて驚いたってだけで……その……嫌だった……わけじゃなくて……えーと……あの……つ、つまりだね……
 (ええい、何を迷っているんだ、フリーナ!本当に彼と裁判をする気かい!?それは、嫌なんだろう?だったら覚悟を決めるんだ……!)
「き、気持ちが良くて……っ、怖かったんだ……あああれだよ、ほら、よく言うだろ!?……嫌よ嫌よも好きのうちって……えーと、だから、裁判は必要ないって、言うか……!でも、今度やるときは、事前に言っておいて欲しいなっていうか……!──駄目、かな……?」
 フリーナが上目遣いでヌヴィレットを見た。耳まで真っ赤に染めて恥じらう姿は、恐らく、ヌヴィレット以外には見せたことはないであろうし、これからも見せることはないだろう。
………………
「ヌヴィレット……?」
 突如、ばしゃん、と音がした。気がつけばヌヴィレットは頭から爪先までびしょ濡れになっていて、ぽたぽたと垂れる雫が足元に水まりを作っていく。
「何があったんだ!?」
 フリーナは泡を食ったようにタオルを取り出すと、ヌヴィレットに被せた。
「キミが水浴びが好きなことは知っているけど、まさか室内でするなんて……ほら、座って!座って!取り敢えず、濡れたままでは風邪をひいてしまうかも……
 フリーナが椅子を引いた。その手をヌヴィレットが掴んだ。
「ヌヴィレット?どうかしたのかい……?」
 深海と浅瀬の色をした瞳がヌヴィレットを捉える。不意にヌヴィレットの顔が近づき、フリーナの唇を塞いだ。僅かに空いた隙間から舌を差し入れられ、フリーナは思わず瞳を閉じた。
……あまり、煽るようなことを言うのはやめてくれ……歯止めが効かなくなってしまう……ただでさえ、君は魅力的なのだから……
 耳元で囁くように言われて、フリーナの頬が瞬時に紅く染まる。かくん、と膝から力が抜けて、フリーナはその場にへたり込んだ。
「さて、フリーナ殿。本当に審判の準備は必要ないのかね?」
 ヌヴィレットが問う────どこか愉悦に満ちた表情で。だから、フリーナは耳を手で押さえながらこう言うしかなかった。
「ああ、勿論だとも!但し……『今回は』ね!」