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柩木
2024-11-03 17:36:06
4017文字
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崩壊:スターレイル
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丹穹|見せつけてやれ
丹穹Webオンリー「もっと!恋の探求!一意専心」書き下ろし作品。
言い寄られた穹が丹恒と腕を絡めて「こちら、俺の彼氏」と紹介する話。
資料室に持ち込んだ布団へ二人分の体を押し込み、お互いの体温を感じながら眠るのが当たり前になってから随分経つ。
微睡んで寝落ちてしまうまでを会話で埋める時もあったが、この夜丹恒は壁にもたれかかって読書をし、そのすぐ隣で仰向けに寝そべる穹がスマホを眺めていた。
丹恒が紙を捲る音と、穹が寝返りをうった時におこる衣擦れの音以外には空調の駆動音しかしない。資料室は人がいると思えない程静かである。しかし丹恒にとっては声も、視線も、
――
過去も。何も気にする必要がないこの場所こそが、かけがえのない程に居心地がいい空間だ。
そんな癒しの時間を静かに楽しんでいた丹恒だが、それまで静かにスマホを眺めていた穹が突然嫌悪感を露わにした事で、文字の海を泳いでいた思考が浮上した。
「うわ。またか」
眉間にしわを寄せて顔をしかめている穹には単純に珍しいという印象も持ったものの、気にかかるのは「またか」という単語である。さすがに無視は出来ず、丹恒は聞き返した。
「また?」
「んー
……
。ずっと断ってる依頼があるんだけど、どうしてもってしつこいんだ」
「そうか。内容は?」
「気になっちゃう?」
「お前が断る程の依頼に興味がある」
基本的に穹は依頼を断らない。丹恒が知る限りでもそう言った場面を見たことがなかったのだが、知らないだけでそういう事はあるのかもしれない。
詳細を尋ねた丹恒へ穹の視線が向けられた。にんまりと笑うその表情はまるで悪戯を思いついた子供のようで、これは迂闊に尋ねるべきではなかったかもしれないと早くも後悔していた。
「二人きりで会って欲しいって
――
」
「駄目だ。即刻断れ」
「反応はや」
前言撤回。尋ねておいて良かった。
まるで他人事のようにカラカラと笑う穹には自覚がないのかもしれない。自分が不思議と人を惹きつける魅力があるということを。いつだって知らないところで厄介そうな人物と友人関係を築いてしまっているのだから、丹恒は気が気ではなかった。
今話題に上がっている依頼人も浅からず穹と関わる機会を得たのかもしれないが、彼に対して邪な考えを持つのは許容できない。穹の隣は既に自分が座っているのだから、今更その席を誰かに譲るなんて事は出来ないのだ。
「まだ会って欲しいって言われてることしか教えてないのに」
「依頼と呼べる内容がお前の口から一番に出てこない点から相手の下心が透けて見える。大方、具体的な依頼内容は会ってから話すとでも言われているんだろう」
「さすが丹恒先生。御名答!」
「お前ならどんな難しい局面も切り抜けるだろうが、避けられるならその方がいい」
未だ笑っている穹の頬を何の気もなく撫でる。指先に触れる肌の感触に少しの安心感を得ていると、穹が上半身を起こした。そのまま丹恒の肩にもたれかかるように体を預けると、スマホの画面を見えるように持って断りのメッセージを打ち込んでいく。
「だよなー。俺には丹恒がいるし、この人にもそう言ってるんだけど
――
」
ぶつぶつ呟きながら返信する穹が意図した行動なのかは分からないが、ぽつりと呟かれた言葉にささくれていた丹恒の気分がいくらか落ち着いた。
俺には丹恒がいる。
――
穹の口から発せられた響きに軽い目眩を覚えるも、悟られないよう思考を切り替えた。
「
……
あまりにもしつこいようならアカウントをブロックしたらどうだ」
「あ、そっか。使ったことないから機能があるの忘れてた」
「あとは面倒な性格じゃないことを祈るしかないな」
――
そんなやり取りをした夜を朧げながらも思い出せる程度に日数が経った今この瞬間。あの時もっと丁寧かつ徹底的にそのいけ好かない奴の心を砕いておけば良かったと、丹恒は後に後悔する。
***
往来にも関わらずわぁと泣き出した成人男性の姿というのはどうにも悲壮感が強く漂う。言ってしまえば、酷く悪目立ちしていた。
「なんでブロックするんですか〜!」
星槎海中枢近くの裏通りを穹と共に歩いていた丹恒は、突如現れた男に行く手を阻まれた。思わず穹を庇うように前へ進み出てしまったが、飛び出してきたのと殆ど同時に地面へ膝をついて穹を仰ぎ見ながら、咽び泣き始めたのである。
妙な事になったと二人顔を見合わせる。知り合いだろうかと疑問を抱えながら穹に視線を向けると、彼は眉尻を下げて明らかに困惑していた。
「
……
知り合いか?」
「うーん。知り合いというか、顔は知ってる程度で
……
。 ほら、前に話したろ。二人きりで会いたいって依頼。この人がそれ」
成程コイツが。青年の素性を知った瞬間、丹恒の眉間にシワが寄る。丹恒の目には男が不愉快極まりないものとして写っていた。
「僕は本気なんです
……
! 遊びで連絡取ろうとしたとかじゃなくて本気で、本気で貴方に一目惚れして
……
っ!」
「だーかーらー。俺、恋人いるって。質問配信でもそう答えたのに」
「ていの良い嘘の可能性もあるじゃないですか!! 貴方は仙舟じゃ有名人だから、そうやって厄介なファンをあしらったりするんでしょうけど
――
」
どうたらこうたら、うんぬんかんぬん。真実を語る穹の言葉など耳に入らず、彼の中で既に出来上がってるストーリーを並べ立てて語り続ける青年は、どうやら信じたいものを信じるタイプのようだ。
想像を通り越し、なんの根拠もない妄想を語り始めた男を放置して穹が丹恒に耳打ちしてきた。
「まいったな。どうしたらいい?」
「
……
返答に困るな」
恋は盲目と言うが、丹恒も初めてお目にかかる性格の持ち主である。説得しようにも取り付く島もない相手にどうしたものかと、大きく溜息をついた。
本音を言えば撃雲を用いて黙らせたいところではあるが、荒事にしないで済むのであればそれに越したことはない。
「分からないことがあれば聞けっ、て
……
。
――
あ、そうだ」
不自然に言葉を切った穹は解決のきっかけを得たらしく実に晴れやかな顔をしていたが、丹恒を真っ直ぐに見つめたただそれだけの行動に嫌な予感がした。これは絶対自分も巻き込まれる。
思わず後ずさって一歩分開いた距離を、同じように一歩進んで埋めた穹は丹恒の手を取った。
――
逃さない。指を絡め取られながら視線が交わった瞬間にそんな穹の声を聞いた気がした。捕らえた丹恒の手を掲げるように顔の前まで持ってくると、その甲に自身の頬を擦り寄せ、そして微笑む。
熱のこもった視線は共に過ごした夜を想起させるのに十分で、その蠱惑的な表情に丹恒はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「な、に
――
」
何をする気だ。と尋ねるつもりで開いた唇は、穹と繋いだままの手の甲を押し付けられてそれ以上言葉を紡げなかった。キラキラと光る星のような瞳は変わらず丹恒を見つめている。
不意にそれが逸らされて、地面に膝をついて泣く男へと移った。それまで自論を展開していた男はいつの間にか口をつぐんでいる。信じられないものを見た様子で目を見開いて、表情を赤くしたり青くしたりして唖然としていた。そして小刻みに震えてる体を、自身の両手で抱きしめている。
穹を仰ぎ見たまま跪くその姿はまさに神に祈る信者を彷彿とさせた。それ以上何も言わないでくれと乞い願う姿はやけに小さく見える。
――
ああ、成る程。これが狙いか。
穹の意図に気付いた瞬間、疑問は全て消えていった。寧ろこの計画に乗っかるべきだろう。
押し付けられた穹の手の甲を握り返し、自らの意思で口付けを贈った。それは穹にとって予想外の行動だったのだろう。驚いて大きく目を見開いたと思えば、次の瞬間には蕩けるような笑みに変わった。喜びを真っ直ぐに伝えてくるその表情は丹恒にとっても心が温まるもので、口元が緩んでしまう。
そして青年に向き直り、穹は致命的な一言を贈った。
「この人、俺の彼氏」
穹は絡ませあった二人の手をまるで証明書のように男へ見せつけながら、丹恒がしてみせたように手の甲へキスを一つ落とす。そしてまた頬を擦り寄せた。
丹恒にとっては突拍子もない行動に走った普段通りの穹でしかないのだが、今まさに絶望を体現したかのような表情で固まる男には少しばかり同情した。もし逆の立場だったらと考えたら自分は正気でいられないかもしれない。
「う、ぅぅ
……
! うわぁぁ!!」
脱兎のごとくとはこの事を言うのだろう。男は両手で顔を多い、泣き叫びながら通りを駆け抜けていった。道中すれ違う人々が何事かと男を見ているが、本人はそれどころではなさそうだ。
その後ろ姿を見送り、残された二人は顔を見合わせる。
「効果抜群だったな!」
いい仕事をこなしたとでも言いたげに一息ついた穹は、あっさりと繋いでいた手を離した。繋いだ手のひらから彼の体温が抜けていくのを少し寂しく思う。
「聞き入れてくれなかったらここでベロチューするしかなかったよ」
「公衆の面前ですることではないな」
「ぶっちゃけ俺も嫌だ。あー、一か八かだったけど分かってくれたみたいで良かった」
「
……
分かってくれたと言えるのかあれは」
酷いショックを与えられた事で錯乱した結果、この場から逃げ出したようにしか見えなかった。それに想像力
――
いや、妄想力が異様に強いあの男がこのまま大人しく引き下がるだろうか。
穹に色目を使う青年に対して苛立っていたのも事実だが、仕返しとしては幼稚だったかもしれないと丹恒は我が身を振り返った。本人を探して会いに来る行動力も加味すれば逆上して事を起こす可能性も大いにある。また、ブロックすることを勧めたのは自分だ。丹恒は若干の責任を感じていた。
このまま何もなければいいが。一抹の不安を抱えながら、すでに先を歩き始めた穹の後を追いかけた。
――
後日。
「丹恒、なんか例の人から封筒押し付けられた。ご祝儀だって」
「
……
は?」
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