わからん
2024-11-03 10:15:57
8329文字
Public WLDP
 

【WLDP】Burn this city

ハロウィ~ンの夜に強盗やパレードに巻き込まれるメンブレ系おじさん×2のウルデプ
ウデハロ企画の文です
※映画並の暴言・暴力表現あり




「ハッピーハロウィン」と叫んだウェイドが言い直した。「くたばれハロウィン!」
「くたばれデッドプール!」
「死に損ないのケツ穴野郎アスホール!」
 余計に挑発してどうする、と諫めるのはとうに諦めた。減らず口が束の間減ったところでこいつの喧しさは収まらない。寧ろ、喋らなかった時間が長ければ長いほど反動が酷くなる。だから奴には喋るだけ喋らせておく。その結果激昂した相手が愚直になるか、怒りが一周した頭で鋭敏な思考を働かせて厄介な敵となるか、それは実際に戦ってみないとわからない。
 幸い、今回は前者のようだった。
 罵声とともに複数の銃声が鳴り響き、ローガンが背中を預けていた車へ立て続けに被弾する。男たちの怒号が止まぬ中、ウェイドが無言で一発撃ち返した。向こう側から悲鳴が上がる。やれやれと溜息をつきながらウェイドが隣に座り込んできた。
「ハッピーハロウィン。ウルヴァリン」
「くたばれハロウィン」
「酷いな。傷付いた」銃弾を補填しながらウェイドの肘が脇腹をつついてくる。「向こうも相当お怒りだ。ハロウィン・ナイトはテンションが高じて誰もが過ちを犯す……靴下やパンツを裏返しに履くとか」
 相手は不気味なほどの沈黙を保っていた。ウェイドがスライドを引いて銃を下ろす。
——近所の宝石店へ強盗に入ったりとか」
「俺たちは警察じゃない」
「わかってるよウルヴィ、けど仕事帰りにこれは見過ごせないよな。それにあの……」彼はがっくりと項垂れ、ばねのように勢いよく顔を跳ね上げた。「警察が来る前にお灸を据えるだけだ。行こう」
 ローガンの腿をバシバシと叩いてウェイドが立ち上がる。彼の後を追って車の影から出るが、向こうからは相変わらず何も聞こえてこなかった。
 先を歩くウェイドも銃を持ってはいるが構えてはいない。先ほど彼が撃った一発が余程恐ろしかったのだろうか? いずれにせよ、相手が戦闘の素人であるのは明白だ。
 ——十月三十一日の日没直前。頭上の空は赤紫色に光っている。空が青く、雲が赤い。ウェイドの言葉を借りるなら「ハロウィンに相応しいマジック・アワー」だそうだ。
 地上に視線を戻せば、狭い通りを挟んだ前方の店のショーウィンドウが粉々に割られている。「宝石Jewelry」の看板を掲げた店の中ではショーケースが窓同様に破壊され、そこに展示されていたであろう商品は、ひとつ残らず姿を消していた。
 店の中央でウェイドが銃を掲げた。正面に置かれたカウンターの裏側に、強盗犯が隠れているはずだった。
「銃を置いて出てこい。撃たないから。構えてはいるけど」
 返事は無い。ウェイドはデザートイーグルをホルスターに収め、腰のポーチから閃光弾を取り出した。
「出てこないとそっちに爆弾を投げ込むぞ。後はわかるよな? あんたらは宝石ごとボカンだ。三つ数える、いーち、にー……
「わかった、わかったよ!」悲鳴じみた叫び声とともに、男が両手を挙げてカウンターの裏から顔を出した。「だから殺すのはやめてくれ!」
 他の二人も恐る恐る姿を現した。全員が赤い覆面を被っている。ウェイドは片手に閃光弾を持ったまま、もう片方の手で銃を構え直した。
「やあ、どうも。話のわかるお利口さんで嬉しいよ。その気色悪い顔を剥がしな」
「俺たちはあんたのファンだ、デッドプール」
 最初に姿を現した左端の男が震えた声で叫んだ。右の手のひらから血を流している。先刻のウェイドの攻撃によって負傷したらしい。ウェイドが銃口を向けると、ヒィッと悲鳴を上げて頭を守ろうとする。
「さっき俺ちゃんのことをケツ穴野郎アスホールって呼んだよな? ゴマすりは今更通用しないぞ。それに、あんたらのマスクはどう見ても近所のディスカウントショップで売ってるスパ——
「本当だ。あんたをリスペクトしてる!」
「俺は強盗なんかしない」
「クライアントがいる」中央の男が頭上に掲げた両手を振りながら訴えた。「だからこれは立派な仕事なんだ。ほら、傭兵業ってやつだろ?」
 ウェイドが閃光弾を足元に放り投げた——もちろんピンは抜いていない。彼は大股でカウンターへ近付き、中央にいた男の覆面を掴んで無理やり引き抜く。覆面の下から現れた顔は無精髭を生やしているが随分と若い。青年と呼んでもいいほどだ。
「ああ、あんたか」ウェイドが低い声で呟く。「聞き覚えのある声だと思ったよ。最近、ウィーゼルの店に出入りしてた新入りだな?」
 恐怖に強張っていた青年の顔がぱっと輝いた。「覚えてくれていたのか」
「よく覚えてる。チンピラはお断りだって入るたびに摘み出されてたよな。俺も同意見だ」
 ウェイドの言葉で愕然とした表情を浮かべた。青年の胸を突き飛ばし、ウェイドはローガンの隣に戻ってくる。
「悪い奴らとの繋がりがあるとか、運び屋を何年も続けてるとか、そういうご高尚な経歴アピールはあいつが一番嫌がるぞ。傭兵は中立的な立場を保たなくちゃならない。言っている意味がわかるか?」
「だけど——
「もうひとつ。これはうちの業界の常識だが、『弱い奴ほど徒党を組みたがる』」ウェイドは銃を持った手をひらひらと振りながら話を続ける。「信じるべきは自分の腕だけだ。一人でできない仕事を易々と引き受けるものじゃないな、チェリーボーイ」
「俺はあんたに憧れてる、デッドプール」青年はなおも食い下がった。「戦ってるあんたは最高にクールだ。マフィアと関わったのも、あの店に入ったのも、全てあんたに会いたかったからしたことなんだ」
「熱烈なファンなのは嬉しいが今回の強盗もその一環? 勘弁してくれよ」
 ウェイドは首を振った。ローガンと目が合い、諦めたように肩を竦める。「話すだけ無駄だったな。とっとと縛り上げて帰ろう」
「待ってくれ!」二人が足を踏み出すと彼は焦ったように声を張り上げた。「俺はあんたに近付いたよ。見た目だけじゃない——
 隣の男の覆面を奪うと床の上に投げ捨てる。「俺たちは金庫も破れる。厳重な警備をかいくぐって潜入できる。複雑な電子パスワードも一発で解除した。それに……人も殺せる」
 ウェイドが足を止めた。胸の前で腕を組んだまま動かない。かと思えば、片手を振って青年の話を促した。
「続けな。チェリーボーイ」
……事務室に死体を積み上げてある。警備員、客、店員——全員、殺してやったんだ」
 青年の声色が変わった。ローガンは思わず眉間に皺を寄せる。青年の声が震えていたのは恐怖ではない、笑うのを堪えているためだ。
「面白かったよ。銃を向けると全員、体をこんなに縮めて謝り始めるんだ。ごめんなさい、殺さないで、家族がいるんだ……ってね。店長なんか小便漏らしてさ、あれは傑作だった」
 語る青年の表情は徐々に猟奇的な笑みを帯びていった。
 視界の隅でウェイドの肩が一度、大きく上下した。マスクに覆われた彼の表情は見えない。こちらが黙り込んでいるのを良しとしたのか、青年の声は興奮して大きくなっていく。
、デッドプール! あんたがふざける気持ちもわかったよ。動画を撮ったから見せてやる、あんたに見せたくて残したんだ。さっきの店長のも撮ってる。こういうのはあんたも好きだろ、なあ? デッド——
 青年の眉間に穴が開き、血を噴き出しながら体が後方に傾いだ。
 ウェイドはさらに引き金を引き、カウンターに並んでいた残りの二人の眉間を撃ち抜く。
 ほとんど同時に三人が倒れた。ウェイドは銃口から立ちのぼる硝煙を吹き消し、安全装置を上げてホルスターに収める。最後まで一言も喋らなかった。

 曰く「後始末のプロ」にウェイドが連絡を取ると、ものの数分で黒い制服の清掃員が現れて作業を始めた。
 ウェイドが殺した強盗犯の死因はマフィアによる制裁が原因となるよう工作され、監視カメラの映像は相応しい内容に改竄される。支払いの件で彼らと話をつけた後、二人はようやく店を出ることができた。
 空は藍色に染まっていた。日はとうに沈み、道端で力無く点滅を繰り返す街灯によって、周囲は辛うじて暗闇から逃れていた。二人は無言で通りを進んでいたが、ウェイドがふと顔を上げて一方向を見遣る。
「表のほうが騒がしいな」
 ——彼が察知した通り、表の大通りは大変な騒ぎになっていた。
 色とりどりの衣装を身に纏い、派手な化粧を施した人々が通りを練り歩いている。誰かがスピーカーから爆音でパンク・ロックを流しているが、それを掻き消す大声で人々がはしゃぎ回っている。ひどい雑音の寄せ集めだ。反射的に顔を顰めたローガンとは対照的に、ウェイドは興味津々といった様子で足を踏み出した。
「ははあ、ハロウィン・パレードか。パレードってよりは混沌カオスの叩き売り」背後を振り返ったウェイドが親指の先でパレードを指し示した。「行ってみようぜ。ローガン」
 立ち止まって拒絶の意を伝えたが、腕を掴まれてついて行かざるを得なくなった。
 人々はアルコールで酔っ払っているようによろよろと歩いている。実際に泥酔しきった輩も紛れているに違いない。あちこちで歓声や口笛が上がり、前後左右と囲まれた人々の肘や手がぶつかってくる。香水や染料のにおいが強く、ローガンは次第に頭がぐらぐらと揺れているような感覚に襲われた。ウェイドに腕を掴まれていなければはぐれていたかもしれない。鼻をつまんで俯く。
「こういう場所は初めて?」
「鼻がひん曲がりそうだ」
「もう少しだけ歩こう。ここでは俺もあんたも目立たない——たとえ人殺しのバケモノだとしてもな」
 ウェイドの言葉に顔を上げたが、腕に触れていた手は既に離れていた。
 真っ赤なスーツとマスクに覆われた長身の姿は普段なら即座に見つけられるはずだが、人混みに紛れて瞬く間に見失う。嗅覚ははなから当てにならなかった。人の波をかき分けて進もうにも物量が多すぎる。舌打ちをし、ローガンはウェイドの姿を探して周囲を見回した。
 パレードはどこまで続いているのだろうか? 先頭や最後尾が見えないほどに列は長く続いている。列を構成する一人一人が派手な格好をしているので早々に目が疲れた。人々の話し声も喧しい。辺りに充満する強烈な香料のにおいも嫌になる。スピーカーから流れる激しいギターやドラム、ボーカルのシャウトが鼓膜をつんざいて脳の中で鳴り響き、動悸や目まいを覚えた。周囲には不謹慎でおぞましい格好をした血塗れの怪物——骸骨のスーツ。フランケンシュタインの怪物。吸血鬼。
 パンク・ファッションの格好をした男女が偽物のナイフを振り回して叫んでいる。
 エアガンを構えた男があちこちに銃を向けて下卑た笑顔を浮かべている。
 全身に血糊を塗りたくった誰かが死体のフリをして転がっている——
 バン、と耳元で叫ばれ、反射的に爪を出しながら振り返る。エアガンを持った男がローガンに銃口を向けて低い声で笑っていた。「いい反応。驚いた?」
——二度とこいつを人に向けるな」
 銃身を掴んで力任せにねじ切る。銃は中ほどでぼきりと折れ、残骸が地面に落ちて軽い音を立てた。状況を理解できずに立ち尽くす男の体に肩をぶつけ、列の先へ進む。
 ウェイドが見つからない。彼を見つけて連れ戻すまでは自分も帰れなかった。目も鼻も耳もあまりの喧騒にいかれてしまいそうだ。視界が霞んで周囲の音が遠のいていく。苛立ちがふつふつとはらわたを煮やし、しかし当たるべき相手も、そもそも何に当たれば良いのかわからない。
 何が悪かった? 誰が?
 ……誰も悪くなかった。
 運が良くなかっただけだ。たまたま現場の近くを通ってしまっただけ——お前は悪くない。
 誰も、何も悪くなかったんだ、ウェイド。
——何のコスプレ?」
 不意に横合いから声をかけられる。
 魔女の帽子を被った女がローガンの隣に並んでいた。
「血糊はどこで買ったの? すごくリアル」
 頰を指しながら言われたときにようやく、自分の顔が血で汚れていることにローガンは気付いた。昼にウェイドの仕事を手伝ったとき、返り血でも浴びていたのだろう。頬を親指で拭うと固まった血がぱらぱらと零れ落ちる。不幸中の幸いと言うべきか、本物だとは思われていないようだ。
「こんばんは。いい夜だね」
 聴き慣れた声がし、ウェイドが二人の間に体をねじ込ませて会話に割り込んできた。「血糊の話をしてた? 俺の特製。製造方法はもちろん企業秘密だ」
「ウェイド」
「ハァイ」彼はひらりと手を振った。「戻ったよ。ちょっと離れた隙にナンパ食らってるの? マジでウケる」
 安堵の溜息を零した途端、視界が傾きかけてたたらを踏む。ウェイドが素早く肘を掴んできた。案外に手の力が強く——否、人ひとりを支えるには、あまりにも強すぎた。スーツが擦れて音を立てるほど、グローブ越しに強く爪を立てられている。思わずウェイドを見遣るが、彼はローガンを見ようともしない。女を見ている。
 彼女の視線は束の間ウェイドに向けられたものの、すぐにローガンへ戻った。「このあと二人で飲みに行かない?」
「そいつはおすすめしない」
 ローガンが顔をしかめて言い返すより早く、ウェイドが再び割って入る。「彼が男前なのは俺も同意するが、ヤバイ性癖持ちだから」
「そうなの?」彼女が作り笑いを浮かべてウェイドのほうを向いた。「私もそれなりに——
「いいや、あんたでも負けるくらいに類を見ない筋金入りのマゾヒストだ。聞いて驚け、こいつはウナギ入りの水槽で水責めされながら乗馬用の鞭でケツを叩かれるのに興奮する」
 彼女は笑顔を浮かべたまま立ち止まった。強い力で腕を引かれたのでローガンはその隣を通り過ぎたが、ウェイドの方を向くと、今度は彼の隣を見知らぬ女が歩いている。
 溜息をつきながら腕を引く。ウェイドがバランスを崩して寄りかかってきた。
「別の男を引っ掛けるんだな。俺の連れだ」
 相手が怯んだ隙に人混みから外れて裏路地へ抜ける。背後から弾けたような笑い声が上がった。ウェイドが笑いながらローガンの背中を叩く。
「ローガン」
 叫んだきり、ウェイドは顎を上向けて笑い続ける。呆れて背中を叩き返すと、更に強い力で叩き返された。
「はは、あはははは。痛え」
「ひとりで勝手に消えて何を考えてやがる、胸糞悪い」
「俺ちゃんは何も考えてない」ウェイドがマスク越しに目尻を拭う動作をしながら叫んだ。「いつも、何も、考えないようにしてる……でも本当に痛いよ。痛いんだ——ローガン」
 今日で何度目の溜息をついたのか分からない。ローガンは拳でウェイドの胸を軽く叩き、馬鹿だなと呟いた。
「はじめからそう言え。わかりにくいんだ、お前は」
 ハハ、とウェイドは乾いた笑い声を立てて黙り込んだ。
 通り一本を隔てた先でパレードの喧騒が俄に大きくなる。誰かが爆竹を使ったらしい。破裂音と同時に悲鳴と怒声が響き渡った。群衆が逃げ惑い、ヒステリックに叫ぶ金切り声やガラスの割れる音が聞こえてくる。
 歓楽のハロウィン・ナイトが瞬く間に悪夢の夜へと変貌していく。
 現場を離れた二人にとって騒乱は他人事だった。パレードの騒ぎに背中を向け、ローガンの肩に腕を回したウェイドが力なくもたれ掛かってきた。
……酷いところにあんたを置き去りにした。あんたを見つけたとき、ドラキュラ伯爵よりも顔色が悪かった……後悔してる」
「ハロウィンなんてくたばればいい」
「あはは。……ごめん、俺の顔に吐いていいよ。吐いて」
「俺が、そんなことを、お前にすると思うか?」
 大声が周囲に響き渡り沈黙する。他に何を言うべきだっただろう?
……早く帰るぞ。ウェイド」
 ウェイドがオーケイと呟いた。「帰ろう。ハニー」
 歩きかけてやめる。自分が言えるのはこれが精一杯だった。
「お前は何も悪くない」
「うん」
 返事はいつもよりくぐもって聞こえた。ウェイドの額が肩にぶつかり、深呼吸を繰り返している。「俺ってマジで——
 頭の上に手を置くとようやく黙り込んだ。
 遠くからパトカーのサイレンが近付いてきた。建物の隙間から漏れてきた赤と青の光が、二人の姿を影法師のように浮かび上がらせる。影は影でしかなかった。人々の意識は表の騒ぎに向けられ、薄汚い路地裏に立ち尽くす二人のことなど、誰も気にかけない。
 サイレンが消えると路地裏は漆黒に包まれた。暗闇の中で人影が動く。二人分の足音が喧騒から遠ざかっていった。

 アルの点けたテレビを見ていたらモーニングニュースが始まった。
 件の宝石店が映っている。表のガラスが全て叩き割られており酷い有様だ。今朝、明るくなってから取材に行ったのだろう。日に照らされると、破壊された店の外見の異質さや、悲惨さが余計に際立って見える。従業員は銃で撃たれて死亡、警備員も客も同様に死亡。犯人はマフィアの構成員と思われるが、こちらも店内で死体として見つかり、幸いなことに盗まれた商品も全て店内で見つかった。犯人を襲撃したマフィアの目的は? いずれにせよ非常に痛ましい、残虐極まりない殺人強盗事件だ。警察は事件の詳細を改めて捜査中——
 突然画面が切り替わり、昨晩のハロウィン・パレードの様子が映し出された。視聴者が提供した映像なのか、画質が粗くピントが合っていない。参加者の一人が爆竹を使ったことで周囲が動揺し、暴徒と化す瞬間がはっきりと映っている。銃の発砲音だと勘違いした人々が四方八方へ逃げ惑い、撮影者も駆け出して左右へ大きく揺れる映像。ロッキングチェアに腰掛けていたアルが舌打ちをする。
「チャンネルを勝手に変えやがったねクソ野郎マザーファッカー
「朝から辛気臭いニュースをのが悪い。変えた先も似たようなのだったが」
 アルに言い返したウェイドがリモコンを放り投げ、ソファーの——ローガンの——隣に腰を下ろした。
「おはようローたん。昨晩は晩酌しまくってたみたいだけどよく眠れた?」
——大丈夫か」
「何が?」ウェイドはローガンを見たが、すぐに正面を向いた。「見ての通り俺は元気だ。どうも」
 聞き方が良くなかった。
 諦めてテレビに視線を戻した。映像はスタジオに切り替わり、番組の出演者たちが若者の暴走や治安の悪化、ハロウィン・パレードの無節操さを嘆いている。
 こんなにみっともない若人だらけで国の未来は? 警察は何をやっているのか? ハロウィン・パレードは金輪際禁止すべき——討論が白熱していく中、太腿の上にウェイドの手が置かれたのを感じた。顔は依然としてテレビに向けられたまま、彼の手はローガンをあやすように叩き、腿の上でじっと動かなくなる。
 彼のやや高めの体温が、腿を中心に全身へ広がっていくようだった。
 肩の力が抜けていくのを感じた。深い溜息をつき、体を一方向へ傾ける。
「おい! 急に何だよ、重いんだけど!」
「テレビが聞こえないだろクソ野郎マザーファッカー!」
「あんたが一番うるせえよ黙れ!」
「ウェイド、おはよう。走りに行ってくるけど、何か買ってくるものはある?」
「ああ! ローラ! おはよう! ある……んだけど、ご覧の通り大型犬に襲われて動けない。二日酔いらしい。キッチンにメモを置いてるから持っていってくれ……ていうか、どうして朝早くから走りに?」
「昨日のハロウィン・フェスティバルで食べ過ぎた。ネガソニックもユキオも食べきれないって言うんだもの。ウェイドも大変そう」
「なるほどな、俺も真似しないと……こっちはお構いなく、大きなワンちゃんの世話は慣れてるから。ローラ、メモには昨晩リクエストされたパンプキン・クッキーの材料が書いてある。気をつけて行ってきて、帰ったら一緒に作ろう——クソクズリ! どけろ! 俺の骨が!」
「クスリをやっただろ」ウェイドの首筋に鼻を押し付けたままローガンは呟いた。「変な匂いがする」
「やってない。ウソ! アルのをちょっぴり拝借した。真実を言ったから爪を出すのはナシ」
「この短小が」
「ごめんってアル、でもその言葉は適切じゃない。俺の名誉に関わるから訂正させてくれ。あれは回復中のサイズで——
 ローガンは吐息を零して笑った。アルと口喧嘩を続けながらウェイドが背中を撫でてくる。太腿の上に置かれたままだった彼の手を握りながら、ローガンは目を閉じた。