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yukiponta1996
2024-11-03 00:48:36
9509文字
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狂った街にて(2)
付き合ってない二人が任務に出て最終的に出られない部屋っぽいところで正気を失って×××する話
オリキャラが色々出てきますアニオリ風なので 突っ込みどころ満載ですがうっすら読んでいただけると助かります
まずはガクエの行方を探さなければならない。それが最優先だ。
少なくともこれまでにガクエの姿も気配も見つけられてはいない。匂いを追おうにも甘い匂いに妨げられてカカシの嗅覚は役に立たなかった。
パックンが退くのもわかるわ
……
小型犬の形をした忍犬などひとたまりもないだろう。
「どこにいると思います?」
とりあえず歩みを前に進めながら隣を歩くイルカに問いかけてみる。
「
……
そのササメさまってのに会わないと薬草が手に入らないってんならそこに行ったと考えるのが自然ですけど、その後、ですよね」
「そう」
イルカの口調はしっかりしているが、頬を流れる汗が止まった様子はない。
「まともな人はいないんですかね
……
、何かしら話が聞けるような」
これには全くもって同意だ。
やがて二人は曲がりくねった道を抜けた。目の前の視界には森へと続く大きな通り。さながら小さな城下町と言った風情で家々が、あるいは商家らしきものが連なっている。甘い匂いは一層濃くなった。
まずいな
……
。
何か手を打った方がいい。イルカがこの異常な空気に当てられて正気を失ってしまったら足手まといにしかならない。カカシはポケットの中の小さな容器を握り締めた。
イルカは大通りに背を向けて辺りを見渡している。
「カカシさん、こっち」
突然、イルカがカカシの手を引いた。
「え、なに」
一瞬、心臓が跳ねた。別に取って食われるだとかそういうことを考えたわけではないが
――
それは単なる方向転換の合図だったようだ。
なんだ、と思った後で、カカシは自分の狼狽が可笑しくなってしまった。だが、いつもの手甲を嵌めていない手のひらに直に触れたイルカの体温がやけに熱くて、可笑しくなっている場合でもないかと思い直す。
手を離したイルカは道を逸れ、大通りから遠ざかる様に草地の中をずんずんと進んでいく。
「何なの? なんか見つけました?」
「わかりません」
「わかりませんて
……
」
ならばいったい何だと言うのか。
点々とそびえる木々、民家と畑の間を縫って集落を囲む壁に向かってイルカはひたすら歩いていく。次第に民家も畑もまばらになり視界が捉えるのは木々だけの林の中を二人は進む。わからないと言ったわりに彼の足取りに迷いがないから、半ば呆れるような心境ながらカカシはイルカの後を追うしかない。
そうして一際大きな、赤い実のなる木の影に、一軒の小屋のような小さな家屋を見つけた。木戸は硬く閉じられていてまるで周囲との接触を拒むように佇んでいる。だが、人の気配はある。
「尋ねてみましょう」
「
……
ねぇ、イルカ先生。どうしてここが?」
「なんとなく、勘で
……
」
イルカが眉を下げて頬を掻く。
「か
……
」
カカシは思わず絶句した。いやまぁ、そういうこともあるだろう、とは思う。けれども勘だけを頼りに何かしらの行動を起こすなどカカシは余程の窮地でもない限り選択しない。
そんなことを考えている間にイルカは木戸を叩いている。
「ごめんください。どなたかいらっしゃいますか」
よく通る声だ。
返事はなかった。だが、中に人がいるのはわかっている。しばらくの間、二人して固唾を飲むように返事を待った。やがてガタガタと木戸が開き、中から一人の老人が姿を見せた。
真っ白な髪と立派な髭。上背はなく、やせ細ってはいるが眼光は鋭い。
「
……
どこから来たんかの」
カカシは目を見張る。この老人は正常だ。
どうやらここはもう、イルカの勘に感謝するしかないようだ。
「東の街から来ました。友人が重い病で、ここで手に入ると言う薬草が欲しくて」
手短に説明すれば、老人は値踏みするように二人を眺め、それから、
「とりあえず入んなさい」
小屋の中に招き入れてくれた。
土間には小さな竈、人一人が横になれる程の狭い板間。暗い屋内は質素な生活をそのまま映している。そして何よりここの空気は澄んでいる。
イルカが大きく息を吸い、吐き出している。そりゃぁそうだろうなと思った。
二人を板間の段差に腰掛けるように促した老人は竈門に火を入れた。
「磁場が狂っていただろう。よう辿り着いたもんだな」
「ええ、まぁ」
さすがに本当のことを明かせなくて曖昧に応えるしかなかった。
「迷い込む者はいても目指して辿り着くもんはそうはおらん」
すぐさまガクエのことが頭を過る。彼からの式にはここを「見つけた」と記されていた。
短い移動の間も杖を突く老人は片足を引きずっている。足が悪いのだろう。
「悪いことは言わん、すぐに帰った方がいい。ここに来たもんはみんなおかしくなる。帰ることも出来んよ」
「
……
それは、ササメという人のせいでしょうか」
単刀直入に問えば、老人は「そうだ」と答えた。
老人の話によると、やはりここは薄葉村で元々自給自足で事足りる村だったらしい。ササメが来る以前には薬草を火の国の市街地で売り、あるいは物々交換を行うことを生計の足しにしていたが、ササメが来てから村人は外へ出なくなった。ササメというのは女で、この地で採れる薬草を不可思議な薬へと変える手立てを持っていた。それを煎じれば、そこから立つ湯気を吸っただけで人は呆けたようになるという
――
「でもあなたは正気を保ってらっしゃる」
老人はカカシを一瞥し、それから竈の上に置かれた鍋の取手に手をかけた。どうやら茶でも淹れてくれるらしい。
「あいにく湯呑みはひとつしかなくてな。冷めないうちに飲みなさい」
振り返った老人はイルカに向かって湯呑を差し出した。湯呑を受け取ったもののイルカは躊躇うようにカカシに視線を寄越す。
「怪しいものは入っとらんよ」
老人はつっけんどんにイルカに告げている。
カカシは促すようにイルカに向かってひとつ頷いた。ここまでの言動から考えてもこの老人がよからぬことを企てている可能性は極めて低いと思える。
イルカはじっと老人を見上げ、それから意を決したように湯呑に口をつけた。はっとしたように身体を揺らし、そしてもう一口。
「アンタも飲んでおいた方がいい」
老人はカカシに告げる。
「え
……
、あ、はい」
図らずもイルカと湯呑を共有する羽目になってしまった。別にイルカに毒見をさせるつもりなどなかったし、親切心から出されたものを自分はいらないとも言えない。餓鬼でもあるまいし、何か意識するもの変な話だ。
「カカシさん」
イルカは何か言いたげだ。その面差しに飲んでくださいと書いてある。下らない思考がかえって恥ずかしくなるくらい真っすぐな視線だった。
「あー、うん」
「気休めにしかならんがな」
しわがれた声を聞きながら、イルカから湯呑を受け取る。うっすら赤い色をした熱い液体を口に含んだ瞬間、カカシは再び目を見張る羽目になった。まったくの無臭だったはずだがこれは、薬湯だ。傍にあったあの木の実が原料だろうか。
気休め、というからにはこの集落の異様な空気に疲弊していることをわかっているのか。そして差し出された薬湯にそれが多少なりとも改善する効果があると言っている。しかもイルカの方が状態が悪いこともわかっていたと言えなくもない。
いや、考えすぎか。それとも偶然か
――
この老人は何者だ。
「儂は元々は霧隠れの追い忍でな」
カカシの疑念はあっさり解決された。
他国といえど隠れ里の外なら潜伏するのはそう難しくはないし、退役したのであれば尚更だが、これにはさすがに驚いた。
「ではあなたはササメを追って
……
?」
「いや。
……
いや、まぁこんな老いぼれにそんな力はありゃせんよ」
含みのある言い方だった。
足を引き摺りカカシの隣にゆっくりと腰かける老人を見守りながら、カカシは記憶の中にある他里の抜け忍リストを繰ってみる。霧隠れの里に翻意したくノ一の中に怪しげな薬術を使う者は
――
「お前さんたち、木ノ葉の忍者だろう?」
老人は直球を投げつけて来た。この老人が正体を明かした以上、否定する選択肢はないように思えたが、カカシは何も答えなかった。答えないことが答えなのだと、この老人なら理解するだろう。ちらりと隣に座るイルカの気配を窺ってみたが、彼は微動だにしていない。
動揺の一つもするかと思ったが、その様子はない。
「とにかく、悪いことは言わん。帰った方がいい」
「あなたはどうして正気を?」
「経験ってやつだな。長年溜め込んどる」
言って老人は自らの腹を擦った。この老人とササメが霧隠れの忍であったなら、里独自の薬物に対する耐性を蓄えていてもおかしくはない。忍びとして完全に薹が立っているが職務を全うしようとし、それが叶わなかった、という可能性もある。
ふいに三代目火影の姿が脳裏を過ぎる。どれだけ衰えようとも死ぬまで忍びであり続けたいと願う忍びも少なくはない。だがそれとて限界というものはある。
「あ、あのっ」
ここでイルカが初めて声を上げた。
「ひとつ、気になっていることが」
「なんじゃ」
「子どもの姿を見ていません」
確かにそれはそうだ。そこを一番に気にかけているのがアカデミー教師たるところだなと思う。
先に俺に言えばいいのに。
ちらりとそう思ってそういう自分がまた可笑しくなった。
「
……
お前さんはあんまり忍者っぽくないな」
イルカに目を向けた老人は小さく笑ったように見えた。
「よく言われます」
俯いたイルカに、今度ははっきりと笑った老人は、だがすぐに真顔になった。
「逃げたよ」
「
……
逃げた?」
顔を跳ね上げたイルカの声に怒気のようなものが滲む。
「子どもってのは敏感なもんだ。親の様子がおかしくなったのを見て恐くなったのかもしれん」
「でも、だからって
……
、そう簡単に、」
イルカは言葉を探して再び俯いた。そう簡単に親を捨てられるのか。だが、被害に遭うよりはいいだろう。理不尽に親と離れなければならなかった彼らが生きていけるのなら。
眉根を寄せて俯く横顔に、そんな思考の揺れが透けて見えた。
「あなたが逃がした」
カカシの言葉に老人は一瞬顔を歪めたが何も答えなかった。
「ササメの目的は」
「さぁ
……
。少なくともここで骨を埋める気はないだろうよ。まぁここで採れる薬草は質がいい。集めるだけ集めたいのは間違いないだろうが」
ササメが霧隠れの抜け忍であるなら、ただ忍びの世から逃げて静かに暮らしたいだけだとは到底思えない。薬草はそのままならただの植物だ。質の良い材料を手に入れて新たな何かを生み出したいのだとしたら、
「ここの住民はさしずめ実験台ってとこですか」
隣でイルカがあからさまに目を剥いたのがわかる。
「アンタ
……
」
老人は皺深い目元を見開き、何か言おうとしてそのまま口をつぐんだ。
「とにかく、早く帰った方がいい」
話はこれで終わり、と言いたげな口調にカカシは立ち上がる。まだ何か思案している様子のイルカもそれに続いた。
「仲間がここに迷い込んだ可能性があります。無事だと思いますか」
「
……
あんたらは助ける気なんじゃろう? 無事を祈るよ」
「ありがとう」
カカシは礼を言い、イルカは深く頭を下げて老人の元を後にした。
二人して老人のいた家屋の傍の煉瓦の壁にへばりついて兵糧丸を齧った。腹が減っては戦は出来ぬというやつだ。傍らの赤い実のなる大きな木が二人を見下ろしている。
「あの、ガクエを探すのは当然ですが、それだけでいいんでしょうか」
イルカは俯いて遠慮がちにカカシに問いかける。
まぁそう来るだろうなとは思った。
子どもの件といい、実験台の件といい、イルカが心中穏やかでないのは手に取るようにわかっていた。
「何をどうしろと?」
イルカは眉根を寄せて言葉を探している。
「請けた任務はコヤノガクエの捜索と救出。ま、オプションで薄葉村について探るってのもありましたが」
カカシは淡々と、あくまで綱手から拝命した内容だけを並べた。随分と冷たい口調だなと他人事のように思う。
「このまま放っておいていいわけがないでしょう。カカシさんはそれを見過ごすんですか。カカシさんはそんな人じゃないでしょう?」
カカシを振り向き、責める響きでイルカは言い募る。いつかも見たつり上がった目元をちょっと凛々しいなと思ってしまった。
確かに行きがかり上任務外の大事を引き受ける羽目になったことはある。イルカが言うのは恐らく波の国の一件かもしれない。
「それはさぁ、イルカ先生。買い被りってやつじゃないですかね」
実際のところ、任務は任務と割り切らなければ身体も心もいくつあっても足りないものだ。情を廃することが出来なければ忍びで居続けることが難しいのも事実。
ちらり、と今度は父の面影が脳裏を過ぎる。
「そんなことありません!」
力強い口調のイルカを一瞥してカカシはため息をついてみせた。
「最初に会った男も言ってたでしょ。ササメ様が来て良かったって」
「
……
アンタ、正気か?」
地を這うような声音のイルカは憤怒という言葉が浮かびそうなほど険しい顔だ。
身を斬るような後悔や苦しみを何の苦労もなく忘れられる選択肢を目の前にぶら下げられたとしても、カカシには手を伸ばす気などさらさらない。だが手を伸ばしたい人間もいるのはわかる。
もし自分がそれができる人間であったなら里なんてものはとっくに捨てていただろう。
「ま、それは冗談ですけど」
カカシは薄ら寒い思考を自らの言葉で握り潰した。
「子どもってのは案外逞しいもんでしょうイルカ先生。どっかで立派に生きてると思いますけどね」
カカシはここに来るまでに目にした廃村にあった生活の跡を思い返していた。
「それは
……
、それはそうかもしれませんが!」
もしかしたらイルカも同じことを考えたかもしれない。
「忍者ってのは依頼で動くもんです。別に正義の味方じゃない。任務で子供を殺せと言われたら殺しますよ」
イルカはさらに眉根を寄せた。ふいとカカシから顔を逸らし、それから、
「
……
そういうの屁理屈って」
ぼそりと言いかけてイルカははっと口を噤んだ。
「す、すみませんっ」
ガバ、と音が聞こえてきそうなほどの勢いで頭を下げる様に思わず笑ってしまった。
まぁ半分くらい屁理屈であることに変わりはない。
多分イルカがどこまで食い下がって来るのか見てみたかった。冷淡を装ったカカシの言に怯むことのない青くさい正義感と向こう見ず。いつの時も変わらぬ質に呆れを感じながら感嘆もしているのだろうなと自分を見下ろす。
「
……
どのみち」
イルカが顔を上げるのを見届けて、カカシは続ける。
「ガクエはササメのところでしょう。医療忍者で薬事に詳しい男なら、十分に利用価値がありそうだからね」
「カカシさん
……
」
なんとなく、ものすごく感謝されそうな気がしてカカシはイルカから顔を逸らせた。これはあくまで行きがかり上のことだ。それに懸念すべき点はある。
「イルカ先生、少しは楽になりました?」
水を向ければイルカは小さく身体を揺らし、それから俯いた。
「
……
すみません」
「別に謝らなくていい」
カカシは綱手から渡されたカプセルをひとつイルカに差し出した。
「どうしても厳しい時は噛んで飲んで」
「これは」
「五代目特製の解毒剤。さっきの薬湯より効くはず」
「ありがとうございます」
「じゃ、行きますかね」
イルカがそれを口の中に仕込むのを見届けてカカシは立ち上がった。さっさと済ませて里に帰りたかった。
集落の最奥の小さな森の、丸太で作られた階段を昇っていく。高低差にすれば二十メートルもないだろう。昇りきったところは平地になっている。あたりに漂う霧はさらに濃く、その中に両腕を広げたような左右対称の建造物の姿が浮かび上がる。寺や神殿を思わせるのはかなりの築年数を経たと思われるからで、この地では恐らく最も規模が大きいものだろう。元々ここで政が行われていたのかもしれない。
そしてその手前、向かって左側に小さな別棟がある。
「とりあえず手前から行っときますか」
カカシは迷わなかった。確かな気配があったからだ。
扉をノックすれば程なくして中から男が現れた。
思わず鼻を抑えたくなるような不快な、それでいてどうにも抗い難い甘い香りが一気に流れ出てくる。
「ガクエ
……
!」
イルカが目を剥く。
「どちらさまですか
……
」
どこも見ていないような澱んだ視線。夢現を彷徨うようなぼんやりした声音。忍び装束でないまでも貌を変えていない同胞に気がついた様子はない。
「おい! しっかりしろ! 俺だ、イルカだよ、わかんねぇのか!?」
イルカはガクエの肩を掴んで揺さぶっている。
ああ、相当頭に血が上っているな、と思う。ここで騒ぐのは得策ではないことくらいわかるだろうにどこまでも直情的な男だ。
「
……
あぁ、イルカか。どうした?」
ようやくガクエはイルカを認識したようだ。記憶をなくしているわけではないらしい。
「どうしたって
……
」
「イルカ先生」
絶句するイルカを窘めるように名を呼び、その肩に手を置いた。それから顎で室内を指す。ガクエの肩を掴んだまま視線を遣ったイルカの真っ黒い瞳が小刻みに震えている。
ガクエの肩越しにいくつもの籠に山と積まれた薬草、壁際に置かれた作業台の上にはさながら実験室のように試験管やフラスコが並んでいるのが見える。
ガクエはと言えば微笑みを浮かべながらイルカの手から逃れてしまった。
「僕、忙しいんで
……
」
椅子に腰かけたガクエの傍に置かれたいくつもの小皿に顆粒の薬と思しきものが何種類も置かれている。彼がこれを作ったと考えるのが自然だ。カカシの読み通りだった。
「君はここで何を」
とりあえず問いかけてみる。イルカは拳を握り締めて立ち尽くしている。
「ササメさまのお役に立ちたいんで」
相変わらず微笑みを浮かべたまま試験管を揺らす男に背筋が寒くなった。
彼とてまっとうな忍びであったはずなのに、こんなに容易く飲み込まれてしまうのか。
まずは彼を正気に戻さなければならない。
カカシはポケットの中の容器に触れた。
さてどうやってこれを摂取させようか
――
思案するカカシの横で、ぎしり、と床が軋む。同時にカカシは何かがぶちり、と切れる音を聞いたような気がした。もちろんそれは錯覚で、部屋の中へと踏み込んでいくイルカが冷静さを捨て去った音だろう。
「ちょっと先生」
いったい何をするつもりなのか。
イルカはずかずかとガクエの傍らに歩みを進め、それからもう一度彼の肩を掴んだ。
ガクエは驚くわけでも怯えるわけでもない。まるで気がついていないとでも言うように作業台に向かっている。
カカシは小さく舌打ちして足を踏み出した。そして次の瞬間、ぎょっと目を剥く羽目になった。
ガクエを強引に自分の方を向かせたイルカが彼にいきなり口付けたからだ。
えええ
……
――
ちょっと何が起こっているのかわからない。
え、何それ、アンタたちそういう関係?!
「
……
あ」
思わずカカシは声を上げた。程なくして気がついたからだ。イルカはカカシが渡した解毒剤を口移しでガクエに飲ませたのだ。極めて合理的な方法で。冷静さを欠いたのはどうやら自分の方だったらしい。それなのに、
……
へぇ、そう。そういうことしちゃうんだ。へぇ
……
。
カカシはそんなことを考えた。明らかに場違いな思考だとわかってはいるが、苛立ちのようなものが胸の中に立ち込める。
目を見開いたままのガクエがさすがに驚いたようにイルカを突き飛ばす。げほげほと咳き込み、だが幾ばくもないうちに作業台に突っ伏してしまった。
そんな話は聞いていなかったが、これは解毒剤の副作用か何かだろうか。
眠りこけるガクエの顔に苦痛の色は見えないが大量の汗が浮かび、次々と流れ落ちている。
イルカはカカシを振り向いた。「どうしましょう」と顔に書いてある。カカシは思わず盛大なため息をついてしまった。
「ま、これで任務は果たせるんじゃないですかね」
ササメがいるであろう屋敷の手前でガクエを見つけられたのは想定外だったが、このまま彼を連れ帰れば任務は完了と言っていい。薄葉村の詳細については十分情報を得たし、後のことは里に任せれば済むことだ。この場所に辿り着くことも今となっては容易いだろう。
イルカは何も答えない。このままこの村を捨て置けないと言いたいのだろうが、
「深入りはダメだよイルカせ
――
」
カカシは背筋を慄かせた。屋敷の扉が開いた気配がしたからだ。イルカもそれに気がついたようで二人で視線を交わしながら次第に近づいてくる気配に神経を尖らせる。
「何かあったんですか」
高くて細い声に二人して一瞬息を呑んだ。
戸口からひょいと顔を覗かせたのはナルトより幼いであろう少年であった。
「ガクエさんどうされたんですか? あなたたちは?」
その口調からかなり聡い子であると想像できるのに少年の大きな瞳は光を映さない。
ああもうこれは逃げられないな、と思った。同時にほんの少し安堵もしていた。建前上ここで引き返す選択を推すつもりだったがイルカは絶対にそれを良しとはしないだろう。子どもの姿を見てしまったら尚更だ。
「君
……
!」
イルカが掴みかからんばかりの勢いで少年に駆け寄ろうとするのをカカシは右腕で制した。
「カカシさんっ」
跳ねのけようとカカシの腕を掴むイルカの手が熱い。胸の奥が疼く様な奇妙な感覚を覚えながらカカシは盛大な抗議の声を無視して少年に向かって言った。
「薬が欲しくてね。人の気配がしたから覗いてみたんだけどどうやら寝ちゃってるみたいで」
イルカは驚いたようにカカシの横顔を見つめている。
少年は瞬きを数度、それから「ではこちらに」と言い置いて屋敷へと踵を返していく。
「どうして、あんな子どもが
……
!」
「ま、一人残らず逃がした、とは言ってなかったからね」
「俺、いきます」
「どこに」
「屋敷の中ですよっ」
一歩踏み出したイルカの脚ががくり、と落ちた。頬から流れ落ちた汗が床に小さな染みを作る。さっき感じた異様な体温の高さといい、老人に飲ませてもらった薬湯の効果はさほど長くは続かないのだろう。彼はもう飲まれ始めている。
「その状態で? 何が出来る?」
イルカはカカシを振り仰ぐ。睨みつけるようなその視線はまだ力を失ってはいない。
「大丈夫です」
カカシはイルカにカプセルを差し出した。
「寝落ちる可能性があるから安易に飲めとは言わないけど」
イルカは相変わらずカカシを睨みつけたまま毟り取る様にカプセルを掴み口の中に仕込んで立ちあがる。それを見届けてカカシは影分身を一体出した。
その刹那一瞬目の前が歪む。だがカカシはそれに気づかなかったことにした。今更引き返そうとは言えないくらいのプライドはある。
「ガクエをここから出します。ここにいたんじゃ回復するものも回復しない」
裏手の森の中にでも寝かせておく以外ないだろう。
「いい? 動くのはササメの正体がはっきりしてから。だからそれまでは自重して」
「わかりました」
そうして二人で少年の後を追った。
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