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柩木
2024-11-02 14:55:02
3548文字
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崩壊:スターレイル
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丹穹|ここにいる
悩む穹を慰める丹恒。
カフカ同行クエ&ピノコニー編に関するネタバレ有り。
星核。万界の癌。俺の中で確かに存在するもの。しかし、俺そのものではない。
ピノコニーで知り合った何人かは穹を個人としてではなく「星核を内包した青年」として認識していた。意味ありげに穹を見ては星核と呼称する場面が目立つようになって、それが回数を増やす内に漠然としたモヤモヤが募っていく。
あまり、いや、どう解釈したって好ましくは思えない。気にしない方がいいと分かっていても口に出されると胸の内側に細い針がちくちく刺されているような気分になる。
――
結局俺は容れ物なんだろうか。
嘘か真かゲーム。仙舟で助けを求めて来たカフカに応じた際に彼女とした僅かな会話の一つ。ゲームと称しておきながら攻略はおろか勝敗もない漠然としたやり取りだった。真偽不確かながらも得た情報を他人事のように聞いていたが、今更になって重くのしかかって来るなんて。
「俺、丹恒のことちゃんと理解出来てなかった
……
かも」
そう思ったら口に出ていた。
列車の資料室にて。アーカイブを閲覧する為に置かれた壁掛けディスプレイの真ん前を陣取るよう、あぐらをかいて床に座っていた穹は、持ち込んだ資料を片手にそう吐露した。
夢の地ピノコニーを後にし、久々に帰ってきた穹がまず行ったのは、現地で集めた資料を丹恒に引き渡す事だった。訪れた星々でいつも行っていることである。ただ、諸事情により列車を降りて事件解決に至るまで列車に戻って来られなかった分、手元にある資料は多い。それも、かなり。
普段通り丹恒に引き渡そうとしたところ、その量に顔を引き攣らせたので手伝いを申し出たのだが、文章を追う最中で見かけた「星核」の二文字をきっかけに考えないようにしていた嫌な事が思い浮かんでしまったのだ。
「俺を通して俺じゃないものを見られるのって
……
結構イヤだな」
丹恒の過去については概ね理解したつもりでいたが、それがどういった種類の不愉快なのかは経験してみなければ正しくは分からない。転生し、丹恒となっても続く彼への軽蔑と嫌悪の視線。一度死んで生まれ変わっても尚続く周囲からの責め苦は穹が直近で経験した苦痛とは比べ物にならないだろうが、今なら分かる。
自分を通して別の物を見られるのは
――
まるでこの世に自分が存在しないような気にさせられるのだ。
あまり見ていたくない二文字が書かれた紙を早々に機材へ突っ込む。そこからはなるべく文章を読まないように目をそらしながら穹はどんどん機材に資料を読み込ませた。主にアナログベースで綴られた資料を電子化する作業なので、何ら難しい事ではない。
「何かあったのか」
「まぁ、
……
色々」
本音を言えば誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。だが一言に語るのは難しく、長く語るには時間がもったいなく思った。楽しくない話をして今を消費するぐらいなら、それを忘れてしまえるくらいに楽しい事をした方がいい。
切り出してしまったのは自分だが、このまま流してしまえと「色々」の一言で片付けてしまった。
そもそもこんな話振らなきゃ良かったと後悔していると、意外にも丹恒が話を拾った。
「
……
他人の認識を改めさせるには、身の振り方で示すしかない」
思わず穹が視線を向けると、作業している背中が見える。
「それ、経験談?」
声が届いたか不安に思う程に間を置いてから、手の動きを止めて丹恒は振り返った。ひと区切りついたのだろうか。
真っ直ぐに穹を見つめる彼の視線は少しだけ鋭い。
「
……
成功確率は極めて低いが、ゼロではない。だが推奨もしない」
結局作業の手は止まり、お互いに向き合う形になった。じっと穹を見つめる丹恒はこの話題を流してくれそうになく、穹の言葉を待っている。
これには困惑した。本心を言うべきか、適当に取り繕ってしまった方が良いか。穹は悩んで、口を開けては閉じるという無意味な動作を何度か繰り返した。その間も丹恒は辛抱強く穹の言葉を待ってくれていて、その優しさに気付いた瞬間に喉へつかえていた言葉が不思議なくらいするりと出てきたのだ。
「
――
どっかの誰かが俺もろとも星核を爆発させようとしても、何とかなるかな」
言葉にしてしまえば最後、想定していたよりもずっと重くのしかかってきた最悪の想像に穹は胸を抑える。
「今はまだ知れ渡ってないだけで、俺の中の星核をどうにかしたいヤツが訪ねてくるかもしれない。列車の皆は大好きだしこの旅が長く続けばいいと思ってるけど、そのせいで迷惑をかけるのは違うよなぁ
……
って。漠然とした良くない想像をしただけ」
言っていて悲しくなってきた穹は視線の高度をどんどん下げて、最後には床を眺めていた。我ながら嫌な想像だ。
ピノコニーで爆発させると声高に宣言された時。素直に爆発してやらないという反発心の裏で、とうとうこんな日が来たかと妙に落ち着いている自分がいた。この宇宙には様々な思惑を持った者がひしめいていて、その中には「星核をどうにかしたい」と考える者がいてもおかしくはないだろうなと、渡り歩いて来た星での経験もあって考えていた。
まず穹の目覚めこそ「星核をどうにかしたい」誰かの思惑によるものである。それが存護故なのか、種の繁栄の為なのか、夢のような幸福の日々を手に入れる為なのか。違いはあれど星核を頼ったものである。容れ物にされた穹の意思がそこにあったのかは、記憶を失った今となっては解りようがない。
結局、爆発させると言った張本人にその気はなく、別の目的があってそう騙ったんだと申し訳無さそうな顔をしていた。それは何かある度に祝いの品だと称して贈られてきた過剰とも思えるプレゼントを踏まえた時に、穹が感じ取ったものは間違いではないのだろうと結論付けている。基本的に他人を信用しない彼が出来る最大限の誠意の表し方なのだろう。
以前の穹であれば「自身に降りかかる全てを払い除けて進んでいけば良い」と考えたのだろうが、今は同じようには考えられない。払い除けた先に大切なものがあって悪影響を及ぼすのなら、一人で受け止めた方が良いとさえ考えてしまう。
「ごめん、こんな話。
……
困らせるだけだよな」
「構わない。むしろ言ってくれ」
項垂れた穹と横並びになるよう丹恒が座った。穹と同じようにあぐらをかいた体勢から片膝を立てて落ち着くと、そこへ肘を置いて頬杖をつき穹を見る。さっきよりもずっと近い距離で見る澄んだ碧は、なぜか少しだけ凪いで見えた。
「俺はお前を強い男だと思ってる。単純に腕が立つという意味だけでなく、過去をものともしない芯の強さがあると。俺はそれが少し羨ましい」
図らずとも聞いてしまった丹恒からの評価は穹にとっては意外なもので思わず固まる。今まとめあげた資料のタイトルを読み上げるようにサラリと言うので意味を取り違えたのかと思ったのだが、称賛は現在進行形である。間違える方が難しい。
何なら少し恥ずかしいくらいなのだが、丹恒は気にする様子もなく自身の見解を述べ続けた。
「武力でも、知恵でも。あらゆる手段を使ってお前は誰かの思惑に左右されない事を分からせてやれば良い。それに、お前に害を成そうと者は列車を害するのと同義だ。護衛である俺も勿論協力する」
「お、おお。めっちゃ頼もしいよ」
時々容赦がなくなる丹恒の行動が脳裏に思い浮かんだが、部分的に物騒だな、とは流石に言わなかった。言えなかったとも言う。丹恒の表情を見るに冗談とは思えなかったからだ。
「俺はそれをお前から教えてもらったんだがな」
「俺?」
「後先考えず突っ込んでいくだろう。そうして周りも巻き込んで、いつの間にかあるべきところに収めていくんだお前は」
ふっと柔らかく微笑まれて言葉に詰まる。酷いくらいに慈しまれていると分かって嬉しい
――
が、そんな風に思ってもいいのだろうか。
丹恒はきっと宣言通りに穹を守ろうとするだろう。だが、その行動が彼を危険に晒すものになるなら、自分は与えられる慈愛を拒絶するしかなくなる。何か、言わなければ。丹恒が俺を守りたいと思う時はきっと俺も同じなんだと。
しかしどう答えるべきかを悩み、結局丹恒の肩に頭を乗せて寄りかかった。ぐりぐりと額を押し付けて収まりが良いところを探し、見つけたところでまぶたを閉じる。穹は考えることを放棄した。今すぐ答えが出なくても、そのうちいいアイディアが思い浮かぶかもしれない。
「もうちょいここにいて」
「分かった。
……
寝るなよ。まだ作業が残っている」
「それは眠気次第」
「もう少し努力する気概を見せてくれないか」
「ここは居心地が良くて俺を離してくれないんだよ」
実際、丹恒の隣は居心地がいいから困るのだ。
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