引き上げられる感覚がして目を開けた。静かに息を吸い込むと、喉の奥が凍るように冷たかった。二度、三度と深呼吸をくり返し、すこしずつ頭の中から眠気を追い出す。首だけを巡らせると、普賢が布団にくるまったまま、ぼんやり天井を見上げていた。
「おはよう」
布団の中、手探りでその身を抱き寄せた。普賢の体はずいぶんあたたかく、まだ半分眠っているようだった。なにを考えているのか訊こうとしてやめた。以前同じ問いに「素数を数えている」という答えが返ってきて面食らったのだ。答えの出ないあやふやな思考にとらわれてしまうときは、確かなもので頭の中をいっぱいにする、それが彼のやり過ごしかたらしい。
雪が、とかすれる声がした。
「雪」
そういえばずいぶん静かだ。朝を告げる鳥の声も、風の音もしない。世界のすべての音があの白に吸い込まれてしまっている。
冬、雪になりそうな寒い日に抱き合うのは、これがはじめてではない。どちらが言い出したのか誘ったか、忘れてしまったけれど、暖炉に火を入れるように熱を分け合って、春になれば足が遠のく。その距離感と、寒いからという言いわけが、互いに後腐れなく都合がよかった。
「これが最後かな」
彼の天気予報は外れたことがない。であれば、今度こうして体を重ねるのは次の冬だ。
腕の中でもそもそと普賢が見上げていった。
「好きな人ができても、こうして会ったりするかな」
「しないんじゃない?」
「寒くなっても?」
「好きな人とすればいいじゃないか」
普賢はしばらく考え込んでから
「……好きな人といればこんなに寒くないと思う」
「だったらわざわざ暖を取るために私と寝なくてもいいよね」
そうかなあ、とため息をもらす唇に、口づけを落とした。
雪を食んだみたいに冷たかった。
了
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