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太公望と普賢
深呼吸
「隠し事を打ち明ける」望普
「あれ、望ちゃん。久しぶり」
久しぶりに普賢を訪ねた。
事前に連絡はしなかった。知らせても約束通りその日その時間にいることは稀だったからだ。
勝手知ったる洞府の門をくぐると、はたして友人はちゃんとそこにいて、見慣れた窓辺に座って本を読んでいる。膝を立てて重そうな本をのせ、考え込むように首を傾げる姿勢も同じ。まるで何十年も前から時間が止まったみたいだった。
どれくらい立ち尽くしていたか、ふと彼が顔を上げた。そしてふわりと笑った。
「あれ、望ちゃん。久しぶり」
まるで久しぶりでもないような口ぶりに肩の力が抜けた。戻ってきた、と思った。
来るなら連絡くらいしてくれればよかったのに。
そう言いながら普賢はゆったりとお茶の準備をした。茶器を目の前に置くとき、わずかに角度を変えたのは、高台がすこしだけ欠けているからだ。そんなささやかなことを思い出しながら、卓を照らす午後の日差しの重さに目を細めた。
二度、三度とお茶を注ぎあった。普賢は変わらぬ笑顔でこちらでの様子を教えてくれた。愉快そうに話すどれもが他愛ないものだったけれど、そういうものをこそ聞きたかった。乾いた土に雨がしみこむようだった。
久しぶりに会うのだから、あれもこれも話そうと思っていたのに、いくつかは言いかけてやめた。そのたびに普賢は「教えてよ」と身を乗り出した。
「僕は僕の目で見たものしか知らない。きみがどう思っているかは、きみの口から聞くしかないんだ」
簡単だと高をくくっていたわけではないが、想像以上にことは複雑であること。目の前に犠牲にまだ心を大きく動かされること。それに対してなにをすべきか、どうあるべきか、まだ手探りであること。そんなことを思いつくままぽつぽつと話していると、頭の中がすこしずつ整っていく気がした。
普賢はじっと耳を傾けて、ときおり相槌をうつ意外は口を挟まなかった。彼らはもっと別の視点をもって、この計画の行方を見ているのだろうが、だからといってことさらに問いただすつもりはなかった。彼には彼の立場があることは十分わかっているつもりだ。
すっかりお茶が冷めた。もう帰らなければならない。
普賢が立ち上がり、「元気でね」と手を出した。反射的に手を握り返して、はっとした。じっとこちらを見る目が笑っていない。握られた手に力がこもった。
「
……
もう無茶はしないでほしい」
それはどこまでも静かな叫びだった。
「おぬしか、義手を太乙に頼んだのは」
「僕は知らない。わかるのは、きみが僕に言わなかったことだけ」
知っておるではないか、と言いかけてやめた。こんな形で聞きたいことを引きずり出そうとしたのは腹立たしいが、結局こちらもなにも話していない。きっと彼は彼で歯がゆく思っているはずだ。
軽く手を振った普賢はすっかりいつもの普賢だった。「またいつでもおいでよ」という声を背に、何事もなかった素振りで手を振り返した。
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