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太公望と普賢
一計
お題「残念。きみの負け」をいただきました。十二仙VS悪ガキドドメ
太乙と広成子の会話。
やっぱりこいつはなにもわかっていない。
両開きの重い扉を力任せに開くと、太乙がふかふかの椅子でのんびり茶などすすっていて、思わず怒声を浴びせるところだった。かろうじて飲み込み、「えらく悠長だな」と言ってみたが、「そりゃあね」と嫌味などまったく通じていませんという口ぶりだ。
「きみとは違ってね!聞いているよ、また太公望と普賢に説教したんだって?」
耳に入っているのに、なぜそんなに呑気にしていられるのか。広成子はむっと口を一文字に引き結んだまま、太乙の前に腰を下ろした。茶碗を差し出されたが無言で首を横に振る。太乙はつまらなさそうに肩をすくめた。
「なんでそんなにガミガミ叱るかなあ。いつもの悪戯だろう?」
そう、いつもの悪戯だ。ただ今回は少々度が過ぎていたのだ。
ここに来たばかり頃、二人は互いに距離をはかりかねているようだった。同期だといわれてもいつまでもよそよそしい雰囲気で、これは打ち解けるまでに時間がかかるだろうと思っていた。寝起きを共にし、修行を共にし「有望な新人道士」がすこしずつ言葉を交わす姿を注意深く見守っていたのだが、「要注意コンビ」の札に貼りかえるまではあっという間だった。なにが二人の仲を急速に縮めたのかはわからない。ただ、どちらも相当に頭が切れるから、一緒に何かを企み、遂行し、成功させる楽しさを知ってしまったのだろう。
運よく見つけて未遂に終わらせることもあったが、愛嬌にほだされて厳重注意で済ませると、数日後にはよりブラッシュアップして成功させた。きっと彼らはおとなしく反省するよりも「成功させるにはどうすればいいか」にエネルギーを振り向けたにちがいない。調子に乗るから褒めてはいけないと思いつつ、よくもまあこんなに次から次へと悪知恵を思いつくものだと、説教を垂れながら感心したものだ。
「黙って下へ行こうとするなんて、今にはじまったことじゃないだろう。厳しくし過ぎないで許可制にするとか、ある程度許してやればいいのに」
「言われるまでもなくとっくの昔にそうしているが、そんなものを素直に聞くやつらであれば苦労しない。今回私が彼らを叱責したのは、だめだといったにもかかわらず、目を盗んでこっそり黄巾力士を動かそうとし、操縦を誤って破損させたからだ」
「残念、きみの負け!」
太乙はあははと笑った。
「それはあきらかにきみの監督不行届じゃないか。彼らの手に届くところに置いておくからそうなるのさ。私みたいにちゃんと暗号化して厳重に鍵をかけておかないと」
「そうだな。もちろん私にも責任はある。
……
ところで太乙」
広成子は重々しく口を開いた。
「この件についてはまだ元始天尊さまにも報告していないのだが、お前はどこで誰に聞いた?」
ああ、と太乙は瞬きをした。
「さっき訪ねてきたのさ。二人そろってずいぶんしょげていたから、わけを訊いたら広成子さまに叱られましたって。罰として十二仙が所有するすべての黄巾力士を磨くように、だって?」
なるほどな、と広成子は頷く。
「それでお前の黄巾力士も磨く、と」
「そう、二人で格納庫に向かったよ。しおらしいじゃないか。今ごろピカピカになっているんじゃないかな」
そうか、と広成子は息をついた。やっぱりこいつはなにもわかっていない。
「先ほど太乙真人の黄巾力士が地上に降りたと報せがあった。しかし持ち主はここで呑気に茶など飲んでいる。これはどういうことだ」
「は?」
「ちなみに、私は黄巾力士を磨けなどと言った覚えはない」
がたんと太乙が立ち上がった。
「まさか」
「そのまさかだ」
「そんな、私はちゃんと鍵をかけておいたよ? パスワードも簡単には解けないはず
……
」
はっと太乙がこちらを向く。どうやら心当たりがあるらしい。
「普賢が宝貝を授かったのは数日前。高性能な解析機能を搭載していると噂に聞いたが」
「
……
きみの黄巾力士は?」
「外に用意してある」
「よし」
太乙はそのへんにある宝貝をひっつかんで戸口に向かう。
「二人を叱るのはお前に任せても?」
「ああ、もちろんだ。
……
あいつら絶対に捕獲してやる!」
その背を追いながら、広成子はやれやれと苦笑した。
待機させた黄巾力士の向こうには澄んだ青空が広がっている。
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