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普賢のまわりの人たち
新雪
楊戩×ジジイ軍師です。そういう話。
「もっと恥ずかしがるかと思っていました」
慣れているな、と思った。
他人に悟られず誘う言葉も、腰紐を解く仕草もなにもかも実に自然でためらいを感じさせない。もっとぎこちなかったり、拒んだりされると想像していたのだ。怖がった場合にはどうなだめようかと頭の隅に考えていた楊戩は、背に回しかけた手を止めた。
この人はいったい、これまで何人と夜を共にしてきたのだろうという下世話な想像が脳裏を過ったからでもあった。もしかしたらその中に自分が知っている「誰か」もいるのかもしれない。
「どうかしたか」
身を預けていたその人は、けげんな表情で見上げて問う。
「いえ
……
失礼しました」
言葉を濁したものの、彼の上官はなお上目遣いで先を促している。ごまかすのは許さないらしい。
「
……
初めてではないのですね、師叔」
彼はきょとんとし、そしてわずかに眉を寄せた。
「逆に、なぜ初めてだと思うた?」
「それは、」
普段まったく色恋とは無縁であるようにふるまっているし、道士と知らなければ発達途上の少年に見えたからでもある。
一瞬だけ逡巡してから、
「師叔からそういう話をあまり聞きませんでしたから」
「当たり前だ。人前でする話でもないのだし」
「もっと恥ずかしがるかと思っていました」
「齢七十を過ぎて恥ずかしがるほうが恥ずかしいわ」
困惑ぎみに手を止めたままの楊戩に、太公望はニッと口の端を上げた。
「それは、そうあってほしいというおぬしの願望であろう」
そうかもしれない。高潔で純粋で、欲に疎い。子供のものではない思考と統率力を目の当たりにしてさえ、どことなく俗なものとは一線を画していると思い、誰にも触れられていない新雪に初めて足を踏み入れるときの緊張と昂りを期待した。
そんな自覚を、楊戩は確かに己の中に見つけた。
「そうかも、しれませんね」
深く息をつき、ようやくゆるゆると腕を背に回す。
「たしかにあなたは子供ではない」
「もうとっくにのう」
「まんまと見た目に騙されていました」
「やめぬのか。おぬしの思うわしではないようだが」
「悔しいですが、ここまで来て引き下がるのもなんですので」
変わった趣味だ、と愉快そうに彼は笑った。そして「ではいいことを教えてやろう」と肩口に額をすりつける。
「
……
おぬしより長けておるやもしれんぞ」
耳打ちされたひとことに目を瞠った。
「
……
本当ですか」
わしは嘘など言わぬ、と胡散臭いひとことを口にして、その人はもう一度こつんと肩に額をつけた。
「だからおぬしが手を抜いたり、躊躇したりするとすぐにばれるからな」
だから、そういうところが(慣れているのだと、)
そう言おうとした口を掌で塞がれる。それ以上余計なことをいうなという目をしていた。それならそれで、簡単には見せない手の内をこじ開けるだけだ。
「そんな強気で、後悔しても知りませんよ?」
そう囁いて、こんどこそその薄い背を腕に抱き込んだ。
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