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太公望と普賢
リセット
文字書きワードパレットから「君の為に据えた膳」で据え膳、震え、聞こえない、で望普で。
ありがとうございました!白鶴洞が片づいてる話。
「どういう風の吹き回しだ」
久しぶりに立ち寄った洞府は驚くほどきれいに整えられていた。
雑草をかき分けないとたどり着けなかった玄関はさっぱりと刈り込まれ、玄関を入れば高仙の洞府らしい飾り物や季節の花が並んでいる。たまたま戸外での修行を終えたらしい彼の弟子が声をかけてくれたので、間違いではないとわかったのだけれど、もし会わなければ、場所を間違えたかと門まで引き返していたかもしれない。
整理整頓とは無縁で、訪れるたびに木吒が頭を下げながら片づけるのを見て以来、もう少しなんとかならないものかと思っていたのだったが、普賢はといえば「どこに何があるかはだいたい把握しているから大丈夫」と的外れな言いわけをする。そういう問題ではないと呆れていたのだけれど。
「どういう風の吹き回しだ」
「ずいぶんないい草だね、望ちゃん」
心底心外だと言いたげに普賢は口を尖らせた。
「今日は窓も拭いたのに」
得意げに付け加えるからそちらに目をやれば、なるほど開け放たれた窓は曇りひとつなく透き通っている。清々しい風が居室に涼を運んできて、今日の暑さを忘れそうだ。
「そういうときはたとえお世辞でも、さすが崑崙十二仙というべきじゃないかな」
崑崙十二仙のハードルを限りなく下げておいて、普賢はお茶を差し出した。片づくのは悪いことではないけれど、あれほどせっついても動かないことに軽く失望していた身からすれば、この変わりようには首を傾げるしかない。
お茶は香ばしく冷たい。喉を潤しつつ窓の外を見れば、木洩れ日が青空をきらきらと切り取っている。
「実のところ、とても退屈なんだよ」
頬杖をつき、同じように窓の外をみつめたまま、普賢がぽつりと呟いた。
「木吒はいい子だから自分で計画を立てて修行できるし、他の仲間たちはそれぞれ忙しそうだし、だから僕も自分のやるべきことをちゃんとこなそうと思っていて、それはもちろん、自分の研究や勉強はしていたんだけど」
「けど?」
「とても退屈で」
のぞき込むと普賢はふいとそっぽを向いた。
「望ちゃんいないし、どうしているかもわからなかったし、でも時間だけはあって、それがとても苦痛だったんだ」
胸の奥がざわざわと落ち着かず、地に足がついていない心地がする。
「毎日ひとつ、何かを片づけるというのはどうだろう」
会議でぼんやりしていた普賢にそう提案したのは玉鼎真人だった。
「例えば、窓を一枚だけ拭く。引き出しを一つだけ整理する。その間は他のことは考えずそのことだけに集中する。一日一つと決めて、他のところには手を出さない。それだけで気持ちがリセットされると思う」
要するに、時間があればあるだけ、本当かどうかわからない不安に苛まれるのだから、その思考の迷路をスパッと断ち切ればいいということだ。
なるほどと普賢は頷き、それを忠実に実行した。毎日ひとつ、床板一枚だけ、書棚の一段だけ。達成感があるわりに負担にはならず、そうして一つだけを積み重ねていった結果、洞府は見違えるように整っていった。
「さすが玉鼎、あの楊戩を育てあげた経験者の言葉は重みがちがうのう」と感心すると、普賢は「僕を弟子みたいに言わないでほしい」と不本意そうだ。でも実際、彼のひと言であの惨状が大きく変わり、気持ちも落ち着いたのだから、効果は抜群だったのだ。
「それではおぬしも日々の修練にさぞかし身が入るようになったであろうな」
集中するにはまず環境からという。だが普賢はきょとんとし
「きみのためだよ」
「は?」
「きみが帰ってきて、ここで休めればいいなって」
地上でどんなことが待ちうけているかわからない。辛いことややるせないこと、怒りや悲しみに身を震わせることも多いだろう。それらすべてが十二仙の耳に聞こえてくるわけではないから、普賢は空の上で想像するしかできないし、そこに駆けつけることもかなわない。だから「せめてこうして帰ってきたときぐらいは、ひと息ついてほしいと思って片づけたんだ」
お茶を注ぎ足しながら、普賢はやっとほっとしたように笑った。
「おかえり、望ちゃん。無事でよかった」
一瞬、ぐっと言葉につまり、太公望は気まずそうに目を逸らした。
「まあ、なんだ
……
やればできるのであれば、最初からやればよいのに」
「言い方、まちがってるよ?」
やわらかくたしなめられ、ようやく太公望も笑った。
「ただいま」
了
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