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Rite of passage

文字書きワードパレットから、道天で「正しさと遠泳」わだかまり、分かっている、光の洪水

ありがとうございました!天化とコーチと煙草の話。

「逆じゃね?」


ひろい野原のむこうから朝がやってくる。光がすこしずつ、洪水みたいにあふれてくる。岩場のてっぺんに座り、地平を見ながら吐き出した紫煙がゆるりと空に散った。
あと一本。いや、二本。どこかでまた調達しなければ。ゆっくり細く吸い込めば、先端がじわりと暗く燃えた。

「こら」
頭上から手が伸びてひょいと取り上げられた。いつの間にか背後に立った師父が、あきれたような顔で覗きこんでいた。なにすんだよと非難がましく口を尖らせてみたが「それはこっちの台詞だ」と盛大にため息をつく。
「吸うのは勝手だが、隠れて吸うな。火事にでもなったら困る」
まったく、こんなものどこで見つけてきたのかと呟くので「コーチの机んなかだよ」と言ってみたが、それもとっくに分かっていたのだろう、「さっさと処分しておけばよかった」と嫌そうに眉を寄せる。
「んだよ。あーただって吸ってたんじゃね」
「とっくにやめた人間になにを言っても敵わないからな」
そういって、吸いかけをもみ消される。あとちょっと残ってたのに。

見つけたのは偶然だった。トレーニングのメニューを記した書簡を取ってこいと言われ、師の部屋に入ったとき、わずかに開いた机の引き出しに気付いた。きちんと整えられた部屋の、そこだけが不自然に無防備で、そっと開けてみたのだけれど、筆が整然と並んでいて、なんだと思いながら閉じかけてその奥のものに気付いた。手のひらに乗るほどの小箱は、ずっとしまい込まれて古びていて、なかに「それ」があった。

師はそんなものとは無縁で、いかにも正しくあかるく健康的な生活をしていたから、なぜ持っていたのかわからない。だからよけいに興味をそそられた。気付けばポケットに忍ばせていた。

勝手に持ちだしたことも、一本吸ってみて気に入ったことも、もちろんひとことも言わなかったが、どうやら勘づいていることには気づいていた。黙認している理由は分からないが、やっぱりうしろめたさはあったので、どうしても、吸うときには隠れて、ということになったものの、いつ注意されるか身構えていたわりに、一向にその気配はない。不思議だと思いつつ、何もいわれないので調子にのって本数を増やしていったところだった。
「なあ。なんでやめた?」
取り上げられたことが悔しくて、悔し紛れにそう訊ねると、師は「大人になったからだよ」と答えた。
「逆じゃね?」
「逆じゃないさ。大人になったから必要なくなったんだ。まっとうだろう」
わだかまりなく、なにをあたりまえのことを、といわんばかりの師に、天化は面食らう。
「大人になってから嗜むものだと教わったさ」
「常習すると体に良くないからな。それはまちがいではない」
「でもコーチも吸ってたんだろ?」
「やめたさ。大昔にな」
ということは、この人ははるか昔に大人になったのだ。吸わずにはいられない、すこしでも背伸びをしたい、そんな時代を乗り越えて自らの意思で手放して――じゃあなんで棄てずに持ってたんだ?
――いや、それよりも。
……もしかして、俺っちにやめろと言わないのも、まだ子供だと思ってるから?」
道徳はわずかに目を細める。
「ちがうのか?」
やっとわかったかと言いたげだった。
「俺は歓迎はしないが、今のお前には必要なんだろう。大人になったらやめればいい」

そういうわけで。
ポンと背を叩くと、「ロードワーク1周増やしとけよ」と言い残して山を駆け降りてく。その背を見て唇を噛んだ。くそう、全然敵わない。考え方も力も。悔しい。めちゃくちゃ悔しい。
もう手元にない一本を無意識に探している自分自身にも苛立って、天化もそのあとを追った。