朝見草
2024-11-02 01:13:23
Public
 

百日草

あの夏の後半くらいの葉月さんと蒼
公式様の不思議をお借りしています
https://x.com/natsumukouTL/status/1014528591353135110

「蒼くん、オレに会うたびいっつも驚いてて疲れない?」
 白いガードレールに腰掛け、快活そうな制服姿の少年はそう言って口を尖らせた。
 蒼くん、と親しげに呼ばれた男は少年より一回りほど年上に見える。真夏だというのに白衣を着ており、砂糖入りの冷たい缶コーヒーを煽ると少年には目も向けずに溜息を吐いた。
「驚くだろ。お前、自分の姿を何だと思ってるんだよ」
「それはユーレーだな」
 間違いないと頷くと、少年はひょいっと身軽すぎる身体で浮かび上がる。
 少年は生きた人間ではなかった。何年も前に亡くなって、多くの人は見ることもできない存在になった。しかし隣の男には、少年の声も姿もしっかり届いている様だった。
「幽霊でも妖怪でも神でも、人間じゃないやつが嫌いだって話は何度もした」
「それはそうなんだけど。普通何度も見てたら慣れるじゃん。そうじゃなくても諦めるとかさ。オレ以外のおばけとかも見えててその反応してるんだもんな~」
 ぱたぱたと足を揺らして辺りを飛ぶ少年の幽霊と、それをうんざりした顔で見ない振りをする男。
「そうなった切欠とかわかれば解決策とかも」
……覚えてない」
「冷たいな~」
「そうじゃなくて」
 男の声が少年のぼやきを遮った。
「思い出せない」
 呼吸が速くなる。缶コーヒーを持つ手が震えていた。
「会ってたはずだ。昔から見えてたんだから。なのに」
 忘れていたことも忘れていた。いつから?この夏以前に出会った何かも、誰かも、全部。
「もしかして忘れさせられたのかもな。聞いたことある気がする、そういう店の噂」
 少年は気持ち慎重に口を開く。忘れさせ屋という、記憶を消してしまう存在がいるらしい。道行く人の世間話に紛れた不思議な話を思い出していた。
「どうして」
「さあ」
 そこまでは、とお手上げのポーズを取れば、冷静になってきたのか男もごめんと呟いた。
「ごめん、変なこと聞いたな~」
……本山のせいじゃない」
 本山と名を呼ばれた少年は、ニッと夏の日差しのような笑みを見せた。

 それじゃあもう行くから。
 うん、またな。
 空の缶を自販機横のゴミ箱に捨てて男は背を向ける。
「思い出せるといいな」
 その声に一度軽く手をあげたが振り返らなかった。少年も大きく振っていた手を降ろす。
 きっとみんな、忘れられたくないからさ。
 一輪の菊の花がガードレールに立て掛けられていた。