sevendays23
2024-11-01 19:45:49
2425文字
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心をえぐる槍

船+料

仲間たちには何もない。ただ、自分にしわ寄せがあるだけ。しかも気分的なしわ寄せだ。だから、我慢すればいい。飲み込めばいい。3日は過ぎた。
記録が貯まるまで、ほんの4日間だから。

「いょっ、ヒーロー!今日もお手伝いを?」

ぐさりと鋭い言葉の槍が突き刺さる。海賊はヒーローではない。わかっている。けれど、今の自分はそうならなければならなかった。

「さすが、ヴィンスモーク家の人間ですな」

また、何かが刺さる。違う、そうではない。自分は麦わらの一味。海賊。黒足。だから、そう呼んでほしくはない。おれは違う、と叫んでも、ご謙遜をと呻かれるだけだ。そう呼ぶなと言っても、住人がそう思ってるから止められない。

「ヴィンスモーク様」

「ヴィンスモーク家の方」

「あなたはヒーローの一家!!」

「ありがとう!」

この島はどうやら大枚をはたいてジェルマに助けられたらしい。だから、自分にも仲間たちにも優しい。仲間たちには絶対にこの言葉を聞かせるなと住民にくぎを差した。そして、過剰なサービスはいらないとも。さもなくば、ジェルマが追加料金を取りに来るからと。そうすれば住人たちもニコニコしながら素直に従った。だからあとは無視をしておけばいい。それだけだ。そうしたら、みんなが平和に過ごせる。事を荒立てることもない。
そんなしたくもないことで、自分だけが影響があることで、ゴリゴリと体力が削られていく。まるで槍をあちこちに突き刺されたように。

……

いつも通り夕食を終え、風呂に入り、いつも通りの時間を過ごす。船番だから、夜空を眺めながら、膝を折って甲板に座り、煙草をぱくりと咥え、一服する。
静かだ。なんのノイズもない。風もないから木の葉もブランコも揺れない。波の音もとても静か。仲間たちの話し声は全く煩わしくないけれど、それでも、すごく静かだと感じる。

……ふぅ……

静かだからこそ、思う。耳に染み付く。煙草を蒸しながら、頭の中に蠢く言葉を反芻する。ヒーローだの、ヴィンスモークだの煩わしくて仕方ない言葉を。いくらでも突き刺さったまま離れない言葉を。笑顔でいうからこそ、悪意ないからこそ、たちが悪い言葉を。でも。

「おれが、よわいだけ」

頭に廻るのは、染み付くのは、自分がなかなか過去を振り切れないから。あくまで、心の痛みだから。怪我ではないから。彼が我慢して、飲み込めば。

「だから、大丈夫」

痛くない。誰にも何もわからない。痛くない。煙草を消して、耳をぐっとふさいだ。

「大丈夫」

心に刺さった槍なんて、ないものと一緒だ。

「サンジ!」

両腕を掴まれて、はっとする。船長が正面にいた。塞いだ耳から手を引き剥がして、持ち上げている。

「ル、フィ」

言葉の中に息の音が混じっていたことに気づいた。痛くないのに、少しだけ息が荒くなっている。

「ちがう。どこも、わるくねぇ」

心配して、きっと腕を持ち上げてくれたのだろう。だから、言い訳を零した。けれど、頭がうまく回らない。

「ただ、おれが――

「サンジ」

船長はまた自分の名前を呼んだ。しゃがみ込んで、腕を下ろして、真剣な目で呼んだ。

「すーって息してはけ!」

「え」

「いーから!!」

船長の言葉にしたがって、料理人は驚きながらも、深呼吸した。冷たい、夜の空気。それをゆっくりと吐き出す。頭に空気が、巡っていく。

「お前、溺れてるみてぇだったんだ」

彼は隣にどかりと腰かけた。ぽかんとする料理人。そんなに息苦しそうに見えたのだろうか。だが、謝罪を零す前に、

「明日、ここ出るぞ」

「あ?何いってんだ、記録は」

「お前を引き止めてぇから、ウソついてたんだ。あいつら」

怒りを出して、彼は言う。料理人は、じっと彼を見た。彼は嘘が下手だ。でも、今回は嘘をついてるようには見えない。

「サンジはヒーローだとか、勝手にして、させねぇけど、この島ずっと守ってもらおうとしてたんだ」

その上、彼が住民の言葉の槍に傷つけられてるのは、丸わかりだったようだ。

「だから」

……

「隠しても無駄だ。絶対に助けるからな!」

……今回は、お前らに助けてもらう、問題じゃねぇだろ」

「問題だろ!」

船長はきっとした瞳で、料理人を見た。

「お前がおれたちのために我慢してるんだからな!」

……痛くねぇし、悪意もねぇのに、何我慢するんだよ」

「本当にねぇならサンジが本気で嫌だっていって、蹴飛ばしたら、いやでも止めるだろ、そいつら」

彼はこんな時は言葉巧みだ。料理人が諦めたこと。自分が我慢すれば良いと勝手に決めたことを、きっぱりと否定してくる。

「それに、痛くねぇなら、そんな顔しねぇ」

……っ」

「海に溺れてるみてぇな、苦しい顔しねぇ!!」

そして、仲間思いの優しい言葉の槍を振るって、

「そうだろ!!!」

彼の痛い痛い言葉の槍を、巧みに抜いて、へし折っていく。

……おれは、弱ェなァ」

料理人は、ついに降参した。
横にいる船長の肩に、ぽふりともたれる。

「我慢できると、思ったのに」

「強ぇから、サンジはそうしちまうんだ」

……そうか」

「しし、そうだぞ」

先程の荒い強い言葉はどこへやら、一転して、いつも通りの明るい優しい言葉に変わった。
だから、静かじゃなくなっても、安心する。もう、痛くない。

「明日、いつ出るんだ」

「朝メシ食ったら!」

「はぁ?そんなに早く?大丈夫かよ」

「ししっ、大丈夫だ!それが一番いい!」

笑う船長。首を傾げる料理人。痛みに喘いでいたからかまだ察していなかった。船長が他の仲間に相談しないわけがないこと。他の一味も料理人の我慢に気づき、出航の準備を整えていたこと。料理人をさらに苦しめるようであれば、反撃をするつもりだったことも。
今は、まだ。