toko-honey
2024-08-18 14:07:11
3706文字
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浴衣と祭りとお面

夏祭り浴衣デートのレオンとタクミです。FEHでの実装記念です。ふんわりかわいい二人を目指しました。

 レオンはタクミの案内で炎の広場へと向かった。日は暮れかかって遠くの雲がオレンジ色と群青色に染まっていた。広場に近づくにつれ、人がだんだんと増えていく。
 広場に向かう人々は大多数が浴衣を着ていた。レオンも浴衣を身に付けている。「夏祭りといえば浴衣だよ」と言ってタクミが用意してくれたものだ。戦装束をイメージしたとのことで、黒い浴衣に法衣を模した青いショールがついていた。
 白夜の祭りに参加するのは初めてだ。浴衣を着たのも、足袋と草履を履いたのも初めてだった。足の親指と人差し指の間に鼻緒がある感覚はなかなか慣れない。タクミに教えられたとおりに背筋を伸ばし、草履を浅めに履いて狭い歩幅でゆっくりと歩く。隣を歩くタクミは、レオンと歩調を合わせてくれていた。
「この辺りからもう出店があるね」
 タクミが通りを見回した。心なしか声が弾んでいる。
 広場へ続く通りの左右には出店がいくつも並んでいた。食べ物屋が多いようだが遊戯の店もある。物珍しさに興味がわいて、レオンはそちらに視線を向けた。歩調が緩む。
「どの店も面白そうだね。一つずつじっくり見て回りたいよ」
「是非そうしてあげたいところだけど、まずは広場にたどり着かなくちゃね。お参りが済んだら出店を案内するから、それまでは大人しくついて来なよ」
 タクミの腕が、とん、と軽くレオンの腕に触れてきた。顔を向けると、照れくさそうな瞳と目が合った。


 広場を目指す人々は多かった。人の多さに自然と二人の歩みも遅くなる。
 広場の中心の光竜への参詣の列に並ぶ。光竜の像へたどり着く頃には日はすっかり暮れていた。参詣を済ませて像から離れる。広場に吊された無数の提灯が、祭りの会場を明るく照らしていた。まだ昼間の熱気のおさまりきらない風がふわりと首元をなでていく。
「さっそくだけど、どこから回ろうか?」
 タクミが尋ねてきた。祭りの出店は広場の縁にそってぐるりと円形に連なっている。
 レオンは希望を聞かれて答えに詰まった。レオンにとってはどれもが物珍しくて興味深い。興味深くはあるのだが、言ってしまえばよくわからないものばかりだった。
「お任せでお願いするよ。タクミ王子はどれがいいの」
「お腹は空いている?」
「空いているよ。白夜の食べ物が楽しみだ」
 物珍しくてよくわからなくても、あちらこちらから漂ってくるいい匂いには食欲を誘われていた。
「じゃあたい焼きなんてどうかな。食べてみる? おいしいよ」
 たい焼きの店を見つけて歩き出したタクミについていく。案内された店先には魚の形をした焼き料理が並んでいた。
「ああ、フィッシュパイだね。僕の国にもあるよ。白夜の魚は興味あるな」
 レオンは城の夕食にたまに出てくる魚料理を思い浮かべた。城のコックは食材を包んだパイ生地を魚の形に成形して、鱗まで表現していた。中身の味は大抵ホワイトソースだ。白夜風なら醤油味か味噌味だろうか。飲み物が欲しくなるかもしれない。
 そう考えているとタクミから訂正が入った。
「たい焼きは魚料理じゃなくてお菓子なんだ。味は甘いよ」
「へえ、お菓子なんだ。魚の身が甘くしてあるのかい?」
「魚は入っていないんだ。代わりにあんこが入っているよ」
 あんこと聞いて、レオンのたい焼きに対する第一印象が一変した。あんこはよく知っている。白夜を訪問する際にお茶と一緒に出される茶菓子によく使われていた。
「たい焼きの『たい』って魚のタイだろ。なんで魚が入っていないんだ」
 レオンが素朴な疑問を口にすると、タクミがふふっと笑った。
「そういうお菓子なんだよ。タイの形の焼き菓子だから、『たい焼き』」
 腑に落ちないながらもそういうものかとひとまず納得する。
 タクミが袂から財布を取り出した。
「食べる? たい焼き」
「お菓子は後がいいな。先に甘くないものが食べたいよ」
 フィッシュパイのようなものを想像していたこともあり、甘いものの気分ではなくなっていた。
「それならたこ焼きにしようか」
 あっちにあったはずだよ、とタクミが向きを変える。
 一緒に歩き出そうとした途端に横から何かが飛び出してきた。
「わっ」
 驚いて足を止める。つんのめりそうになったところにタクミがさっと手を伸ばしてきた。その手を借りて体勢を立て直す。
 飛び出してきたのは二人の男の子だった。背の高さはレオンの腹くらいだ。二人とも顔にお面をかぶっている。お面は妖狐とガルーだ。お面で視界が狭いせいか、レオンたちにぶつかりそうになったことにも気づいていない様子だった。そのまま歓声を上げながら駆けていく。
 お面の子たちが器用に人混みをすり抜けていくのをなんとなく目で追う。ふとタクミを見ると、ぼうっとした様子で彼らをながめていた。
「妖狐はわかるけど、ガルーのお面もあるんだね」
「え? ああ、うん。あるよ」
 レオンが話しかけるとタクミははっとした顔になった。透魔軍との戦争のときにフランネルが共に戦った話は白夜でも広まっているのだと説明する。
「妖狐もガルーもかっこいいって、子どもたちには人気だよ。――それよりも、大丈夫だった?」
 タクミが心配そうな顔になる。
「あの子たちに気づかなくてごめん。危うくぶつかるところだった」
「こんなに人が多いんじゃ仕方ないよ」
「はしゃぎ過ぎて周りが見えていないみたいだったね、危ないな。あの子たちに代わって僕が謝罪するよ」
「このくらいで謝罪なんて大げさだね。子どもが元気なのはいいことじゃないか」
 レオンは子どもたちが飛び出てきた方向を見た。お面を売っている出店がある。
「タクミ王子はお面はつけないの」
「えっ」
 タクミがレオンを見上げ、続いてお面の店を見た。
「ああいうのは、子どもが喜ぶものだし……
 タクミは店から視線をそらし、歯切れ悪く言う。
「大人でもつけている人はいるみたいだよ」
 ほら、と、レオンは遠くの数人を示した。示した先は親子連れや親しげな男女の二人連ればかりだ。連れとそろいでつけている。
「タクミ王子は子どものときはつけていたの?」
「いや……
 タクミは首を横に振る。
「つけたかったんじゃないの」
「そんなこと……
 タクミの視線がうろうろと店と地面を行ったり来たりした。言葉も態度も歯切れが悪い。レオンを案内するとはりきっていた姿は引っ込んでしまっている。
 レオンはふっと口元を緩めた。タクミの子ども時代が見えるようだった。子どもっぽいと言われるのを極端に嫌がる彼のことだ。きっとお面が欲しくても欲しいと言えない子どもだったのだろう。でなければ、先ほどの子どもたちをあんな風に見つめたりはしない。
「僕はお面が欲しいな。国への土産にもなるし。店に行こうよ」
 レオンはタクミの腕を引っ張った。お面屋へと進む。
 ガルーのお面を手に取ってレオンは言った。
「僕だけがつけるのもなんだからさ、タクミ王子も一緒につけようよ」
 はい、と妖狐のお面をタクミに渡す。
「し、仕方ないな。一緒につけてあげるよ」
 買ったお面をレオンが頭に乗せると、「こうだよ」と斜めの位置に調整された。このくらいの位置が『粋』らしい。タクミの頭にも斜めに妖狐が乗っていた。
「レオン王子ってお面も似合うんだね」
 見上げてくるタクミの顔はお面の妖狐と同じくらいにこやかだった。嬉しそうな顔を向けられて、レオンも同じように微笑み返した。


 目的のたこ焼き屋にたどり着く。
「タコの形じゃないじゃないか」
「これは中にタコが入っているんだよ」
「たい焼きにタイは入っていないのに?」
「それはそれ、これはこれだよ」
「一貫性がなさ過ぎる」
「そんなこと言ったら、イカ焼きなんてイカを開いてそのまま焼いているよ」
……もう理解しようとしない方がよさそうだね」
 くだらないことを言い合いながら一舟買って店を離れる。
「人の少ない場所で食べようか」
 たこ焼きを持ってタクミが歩き出す。
 レオンはタクミの空いた手の側へと身を寄せた。するりと手を握る。一瞬置いてタクミの手が握り返してきた。ドキッとしたのを悟られないよう、指をからめて強く握った。
 にぎやかな祭りの会場を手をつないで無言で歩く。さっきまで二人で楽しく会話をしていたのに急に沈黙の魔法でもかけられたようになっていた。ドキドキと心臓だけが鳴っていた。
「もうすぐ花火の時間だ」
 ひとり言のようにタクミが言い、人通りから離れた場所で立ち止まる。タクミは繋いだ手を解き、向き合ってレオンにたこ焼きを一つ差し出してきた。受け取って食べてみる。ドキドキし過ぎて味はよくわからなかった。「おいしいね」とつぶやくと、彼が安心したように微笑んだ。
「これを食べたら的当てをしよう」
 横から、ドン、と大きな音がする。そちらを見上げると夜空に花火が散っていた。次の花火が上がったタイミングで、タクミの横顔をちらと見る。照らされた頬が少し赤く見えたのが、花火の色のせいだけでないといいなと思った。