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toko-honey
2024-02-14 23:04:18
2708文字
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チョコレートの素直じゃない渡し方
ナカノさん誕生日おめでとうございます!
学パロバレンタインデーのレオタクです。
タクミは帰ってくるなり自分の部屋に直行した。背負っていたカバンを放り投げ、制服のままどさっとベッドに倒れ込む。
「どうしたんだ、すごい剣幕だな」
「入ってこないでよ」
話しかけてきたヒノカに目も合わせず文句を言う。バタンと大きな音を立ててドアを閉めたから、驚いて様子を見に来たのだろう。
「入ってはいない。ドアを開けただけだ」
「同じだよ」
「そう怒るな。一緒にチョコレートを作った仲じゃないか」
チョコレート。
今一番聞きたくない単語を耳にして、タクミは枕に顔を埋めた。
ヒノカと一緒にチョコレートを作ったのはついこの前の日曜日だった。なぜならその日はバレンタインデーの直前の休日だったからだ。
示し合わせたわけではない。日曜日の昼前にタクミがチョコレートの材料を持って部屋からキッチンに行くと、同じようにヒノカがチョコレートの材料を持ってキッチンに立っていた。タクミもヒノカも菓子作りには疎い。チョコレートを手作りするという一大決心をしたはいいが、果たしてうまくいくのだろうかと不安を抱えていた者同士、協力しようという話になった。
「タクミは誰に渡すつもりなんだ?」
初めてできた恋人のために作るのだとヒノカは照れくさそうに話した後、タクミにそう聞いてきた。
「学校の友達だよ」
「友チョコというやつか」
「うん
……
、そう」
「レオンか?」
すかさず言い当てられる。タクミが家で学校の話をするときに出す名前はレオンがほとんどだった。恥ずかしくなったが、否定したところで不自然だと思われてさらに追求されるだけだろう。タクミは小さな声で「うん」と返した。
初めて作るチョコレートはトリュフにした。生クリームとチョコレートを合わせて、丸めて、ココアパウダーを振って、完成。簡単すぎるかと思ったが失敗が一番少なそうだと思った。ヒノカもトリュフを選んでいた。理由を聞いたら「失敗したくないからな」と言われた。
二人でチョコレートを刻み、トリュフを丸めた。きれいな球にするのは難しかったが、ココアパウダーをかけたらそれなりの出来になった。ヒノカはバレンタインデー当日の朝に渡すのだと話していた。予定通りならもう今朝渡しているはずだ。
タクミはむくりと起き上がった。ベッドに腰掛け、部屋の入り口にいるヒノカを見る。
「ヒノカ姉さんはさ、もう渡したの」
「ああ、渡したぞ」
「喜んでもらえた?」
「そう思うが。
……
どうした? 喜んでもらえなかったのか?」
タクミはゆっくりと首を振った。
「渡せなかったんだ」
「そうか
……
」
ヒノカの気遣わしげな視線を感じる。なんと声をかけるべきか迷っているようだ。
「タクミ、その」
そのとき玄関のチャイムが鳴った。ヒノカが玄関に向かう。
タクミは閉じられたドアをぼんやりと見つめた。さっきレオンの部屋にいたときも、こんな風にチャイムが鳴った。
今日は二人とも部活がなかったから、帰りがけに一人暮らしのレオンの家に寄った。そのときに手作りのトリュフを渡すつもりだった。カバンの外側のポケットに箱入りのトリュフがまだ入っている。
いつ渡そうかとタイミングを計っていると、レオンの部屋のチャイムが鳴って、宅配便が届いた。中身はガトーショコラだった。姉と妹が毎年焼いてくれるのだと嬉しそうにレオンは話した。
「おいしいから食べてみてよ」と出されたケーキはおいしかった。ふんわりとした生地に濃厚なチョコレートがぎゅっとつまっている。今まで食べたことのあるガトーショコラの中でも一番おいしいと思えた。そして渡そうと思ったトリュフを渡せなくなった。こんなにおいしいケーキを毎年きょうだいに作ってもらっている彼に、いびつな手作りトリュフなんて渡せなかった。
ケーキを食べ終えてすぐ、タクミは飛び出すようにレオンの部屋を出た。そして自分の部屋のベッドに倒れ込み、ヒノカに心配されている。
タクミはトリュフの入っているカバンに視線を移した。床に放り投げたとき、箱が潰れないように一応気を使って投げている。
もう自分で食べてしまおうか。
カバンを引き寄せて、トリュフの入った箱を取り出した。リボンまで付けている。自分はどれだけ浮かれていたのだろう。
リボンに手をかけたとき、部屋のドアがノックされた。びくっと肩が上がる。
「タクミ、今いいか」
ヒノカの声だ。急に開けられてもいいようにさっと箱を布団の間に隠す。
「後にしてよ」
「後にしていいのか」
「どういう意味?」
何か含みを持たせたような言い方が気になってタクミはドアを開けた。
「来ているぞ」
ヒノカが玄関の方を指す。
「誰が?」
「レオンが」
驚いて「えっ!」と大きな声が出た。「上がってもらうか」と聞かれたのでこくこくとうなずく。
タクミの部屋に入ってきたレオンは紙袋を持っていた。タクミが帰った後すぐに出てきたのだろう。まだ制服姿だ。
「チョコレート、苦手だった?」
心配そうに聞いてくる。ケーキを食べている最中に暗い顔をしてしまったから、変に思ったことだろう。
「苦手じゃないよ、おいしかった」
それならいいけどとレオンは言い、紙袋の中に手を入れてそろっと箱を取り出した。
「これ、僕の好きなチョコレートなんだけど、よかったら一緒に食べないかと思って」
包装紙に包まれたチョコレートの箱を両手で持って、タクミへ差し出す。
「これももらい物?」
「自分で買ったんだ」
差し出して来るのを受け取って、包装を開ける。一口サイズのチョコレートが四角い仕切りの中に二十個ばかり並んでいた。いろいろな種類がある。この時期にしか見ないような高級そうなチョコレートだった。レオンの好きなブランドなのだろうか。自分用にチョコレートを買うなんて彼らしいと思った。
ヒノカが紅茶を運んで部屋に入ってきた。レオンの持ってきたチョコレートを見て、タクミに目配せする。
「ちょうど茶菓子が切れていて、どうしようかと思っていたんだ。タクミが作ったものも出してあげたらどうだ」
「ちょっと、余計なこと言わないでよ」
ヒノカが部屋を出た後で、予想通りレオンが興味を示してきた。
「タクミが作ったものって?」
ごまかそうとしたが、布団の辺りをちらちらと見ていたらすぐにばれた。布団の間からトリュフの箱を取り出す。
「ヒノカ姉さんが作りたいって言うから、手伝ってついでに作ったんだ」
言い訳をしながら箱を開ける。タクミの手元を見たレオンの顔が、嬉しそうにほころんだ。今日見た中で一番きれいな笑顔だと思った。
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