toko-honey
2024-01-08 14:58:28
3156文字
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恋人のいる生活6【贈り物】

レオン×タクミ。お試しで付き合うレオタクのお話。1日1話の連載で全7話です。
Japanese Only
#leokumiweek2024

 何度かレオンと手紙のやり取りをして、タクミはウィンダムを訪れた。新しい年になっていくらか経った、まだ寒い時期だった。
 冬の暗夜は寒かった。白夜も冬は寒いのだが、日が出ていれば少しは暖かい。暗夜は日が当たらないのでずっと寒いままだ。クラーケンシュタイン城の入り口まで迎えに出たレオンがそう説明した。
「もう少し暖かい時期なら、湖畔でお弁当を食べられたんだけど」
 城の中を案内しながらレオンが言う。しばらく会わないうちに彼は髪が伸びていた。肩に届くくらいの長さの髪を襟足でひとつに結んでいる。襟足まで届かない長さの髪の毛は顔の横に垂れ、彼が動くたびにさらさらと揺れていた。レオンの変化は髪の長さだけではなかった。顔つきも身体つきも以前より大人っぽい印象を受ける。
「それは例として出しただけで、特別湖畔に行きたいわけじゃない」
 大人っぽくなったレオンと比べ、どこか自分も変わっているところはないだろうかと考えながら話す。髪は伸びたがここまで長いとそう印象は変わらない。背も伸びているはずだけれど、彼の顔を見上げたときの首の角度はあまり変わっていないように思えた。
「そうだったんだ。よさそうな湖をいくつかピックアップしたし、お弁当のメニューも考えていたんだけどな」
「メニューはなに?」
「サンドイッチだよ。僕の好きなトマトを入れようと思っていたんだ」
 レオンが顎に手を添えて話す。どうも本当に真面目に検討したようだ。
「そこまで決めてるんならもう行こうよ。むしろレオン王子のほうが行きたいんじゃないの」
 タクミの前を歩いていたレオンが足を止めて振り向いた。
「今は二人だよ、タクミ」
 口の端を上げていたずらっぽく笑う。その表情は、最初に拠点で「付き合ってみないか」と言ったときと同じ顔だった。ドキドキしながら「そうだったね」と返す。それが精一杯だった。

 城内を簡単に一巡した後、外を見ると雪が降り始めていた。湖畔に行くのは別の機会にして、今日は地下街へ出かけることにした。白夜の服装は目立ちすぎるので暗夜の服に着替える。
「今日は街デートだね」
 レオンが楽しそうにタクミを先導する。
 普通こういうのは視察というのではないのだろうか。
 そう思ったが、久々に聞いた「デート」という単語を自分の発言のせいで取り消されたくなくてタクミは黙っていた。仮の関係であってもデートはデートだ。そう自分を納得させる。
 暗夜の地下街は明かりと喧噪でごった返していた。レオンとタクミの姿を見ても周囲の人間は何の反応も示さない。こんなところに王族が来るとは微塵も思っていないのだろう。
「人が多いし、通路が入り組んでいるから迷いやすいんだ。ちゃんとついてきてよ」
 レオンが手を差し出して来る。タクミがその手を握ると、ぎゅっと握り返してきた。手の大きさに心臓が跳ねる。
 ときどき人にぶつかりながら、すき間を縫うようにして進む。握った手が離れないように力を込め、少し前を歩く長身を見失わないようにじっと見つめた。
 大きな通りから細い路地にそれると、さすがに人が少なくなる。横に立つとレオンが見下ろしてきた。
「叶ったね」
「なにが?」
「手を繋ぐの。してみたかったんだろう」
 握った手を軽く持ち上げられた。タクミの頬が熱くなる。
「そんなこと言ってない!」
「言ったよ。最初に聞いたとき、そう言ってた」
 そう言われれば言ったかもしれない。でも言った本人も覚えていないようなことをどうしてそんなに覚えているんだ。ますます顔が熱くなる。
「い、言ったかもしれないけど。でもそれも例えばで言っただけで、本当にしたかったわけじゃ」
「タクミ、いい匂いがするよ」
 レオンが路地の奥へと顔を向けた。焼いた肉の匂いがする。香辛料混じりの食欲を誘う匂いだ。
「行ってみよう」
 ぐいと手を引かれて路地の奥へ向かう。路地を抜けて別の広い通りに出るとすぐ近くに屋台があった。薄切り肉を玉ねぎと一緒に焼き、パンに挟んで売っている。
 レオンが二つ買って、片方を渡してきた。薄紙に包まれている。包みを開けるとたっぷりの肉の間でチーズが溶けていた。熱い肉を少し冷まして一口かじる。
「おいしい」
 肉に香辛料で味がつけてある以外は素材そのままの味だったが十分おいしかった。路地に戻って立ったまま平らげる。行儀が悪いが、それが楽しかった。
「もう少し歩こうか」
 レオンに手を引かれ、また広い通りを歩く。先ほどよりは慣れてきて、人や店の様子を眺める余裕があった。
 人と人のすき間からアクセサリーを売っている店が目に入り、レオンの手を引っ張る。
「ねえ、あれを見に行こうよ」
「いいよ」
 所狭しとアクセサリーが並んでいるその店に立ち寄る。髪飾りを置いている一角があって、タクミはその中の一つを手に取った。青色のリボンだ。光沢のある生地は見た目に高級感があって、王族が日常的に使っても違和感はない。
「それが気に入ったの。いい色だね」
 レオンが手を出してきたので渡す。レオンはタクミの髪にリボンを当ててきた。
「君の髪の色によく似合うよ。僕が買ってあげようか」
「自分で買うから大丈夫だよ」
 リボンをレオンの手から受け取り、代金を払って店を出た。
 その後もいくつかの店を冷やかして回り、歩き疲れて露店でコーヒーを飲んで一休みする。
「そろそろ帰るかい」
 来た道を戻ろうと細い路地に入ったときにタクミは言った。
「レオン、その髪だけど」
「髪? これ?」
 レオンが自分の結んだ髪に触れた。伸ばし始めで、結んだ毛先はまだ短い。
「これからも伸ばすの」
「うん、そうするつもりだよ。前は女みたいに見えるのが嫌で短くしてたけど、長くしたほうが大人っぽく見えるから伸ばそうかと思って」
「そうか。じゃあ、これ」
 タクミは青いリボンを差し出した。先ほど買ったものだ。
「あげるよ。今日のお礼だ。きっと似合うと思う」
「これ、僕に?」
 レオンは戸惑っているようだった。どうしようかと手が迷っている。タクミはレオンの手をさっと取り、その手にリボンを持たせた。
「ありがとう、今日は楽しかった。使ってくれると嬉しい」
「もしかして、初めからそのつもりで買ったの?」
 こくんとうなずく。顔を見るのが恥ずかしくなって視線が下を向く。レオンの手がリボンを大事そうに握ったのが見えた。
「嬉しいよ。ありがとう、タクミ」
 レオンは礼を言うと、タクミの腕をぐいと引っ張ってきた。
「ちょっと来て」
 どこに連れて行かれるのかと思ったらリボンを買ったアクセサリー店に着く。レオンはタクミが買ったのと同じ青いリボンを買い、タクミに渡してきた。
「これは僕からのプレゼント。これでおそろいだね」
 嬉しそうな笑顔を見てトクンと心臓が鳴る。
「ありがとう、レオン」
 店のすぐ横のスペースに移動し、タクミは毛先を結んでいる髪紐を解いた。さっそくレオンがそこに青いリボンを結ぶ。
「うん、やっぱり似合うよ」
 レオンが満足そうに言った。
 彼は続けて自分の髪にもリボンを結ぼうとした。だが髪が短いのでうまく結べず苦戦する。ほどけたリボンと彼の渋い顔を見てタクミはくすりと笑った。店に戻ってヘアピンを買い、二人で協力してリボンを結びつける。リボンにヘアピンをつけて髪の結び目に挿しこむと、うまくレオンの髪に収まった。
「どうかな」
 首元まで流れるリボンの青が金の髪と白い肌の美しさを引き立てる。
「よく似合ってるよ」
「これが楽に結べるようにもっと伸ばさないとね」
 そろいのリボンをつけ、手を引かれて城へと帰る。心臓はドキドキとずっと忙しかった。