toko-honey
2024-01-08 14:43:53
3501文字
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恋人のいる生活1【提案】

レオン×タクミ。お試しで付き合うレオタクのお話。1日1話の連載で全7話です。
Japanese Only
#leokumiweek2024

 ここ最近何度か見た光景がまたタクミの前で繰り広げられていた。カムイを手伝って、手分けして拠点内の巡回をしている最中だった。
 現場は、拠点の隅の、牢屋の裏手と城壁に挟まれたところ。日が当たりにくく、人もあまり寄り付かない場所だ。タクミは建物の表から回って裏に行きかけ、そこに誰かがいるのに気がついてすぐに足を止めた。誰かはレオンと暗夜の女性兵士だった。二人は向かい合って立っている。
 兵士はレオンに手紙か何かを渡そうとしていた。何かを話している様子だが声までは届いてこない。レオンは手紙を受け取らなかった。相手を諭すように何事か話している。少しのやり取りの後、兵士がうつむいた。そして勢いよく顔を上げると彼女はタクミとは反対方向へと走り去っていった。
 走り去る背中が建物の角を曲がって見えなくなるのをなんとなく目で追う。今起こった一連のやり取りには、妙にしっとりとした、それでいて自分には縁のなさそうな雰囲気が醸し出されていた。
「僕に何か用?」
「気づいてたのか」
 残されたレオンが話しかけてきて、タクミはそちらへと足を向けた。特段彼に用はないが巡回の役割を果たすためだ。
「盗み見とはいい趣味だね」
 近づくと軽口を叩かれる。
「盗み見じゃない。たまたま通りかかっただけだ」
「じっと見てたじゃないか」
 タクミは兵士が走り去っていった方を向いた。
「女性を泣かせる方が趣味が悪いんじゃないのか」
「泣かせてはいないよ。お付き合いの申し出を断っただけさ」
 レオンはさらりと言う。やはりあれは告白と失恋の場面だったようだ。レオンは慣れているようだが、タクミにはいまだ縁のないものだった。
「またなのか。何人目だよ」
 軽い嫌味のつもりで言うと、レオンは律儀に指折り数え始めた。
「この拠点に来てからは、四人……、いや五人目だね」
「自慢かよ」
「なんだよ。聞かれたから答えたんだろう」
 レオンはむっとして唇を尖らせた後、腕を組んで「ふうん」と訳知り顔になった。
「さてはタクミ王子、今まで誰かから告白されたことがないね」
 図星を指されてかっとなる。
「そうだよ! 僕は女の子に告白されたことなんてないよ! 悪いのか!?」
「悪くはないよ。それだけ身持ちが堅いってことだろ」
 レオンは眉一つ動かさず、フォローになっていないようなフォローをした。物は言いようだ。身持ちが堅いといえば聞こえはいいが、異性からもてないという事と何が違うのか。いや別にもてないからといってひがんでいるわけではない。例えもてたとしても意味がないのだ。
「だいたい告白されたって、あんたは王族なんだから普通の子とは付き合えないだろう。なんでいちいち告白を聞こうとするんだよ。王族への告白は禁止にしろよ」
 王族にとって恋人というのは婚約者とほぼ同義だ。国のことにも関わってくるし、気軽に作ったり別れたりするものではない。将来結婚の約束のできない相手と交際することなんてできない立場なのだから、身元のしっかりした貴族の娘とかでない限り、告白そのものを受けるべきではないだろう。
 そう自分の常識に従って発言したタクミに、レオンはあっさりと反論した。
「別に、付き合えるよ」
「えっ」
「普通の子と」
「ええっ、ど、どうして」
「白夜では王族は普通の子とは付き合えないの?」
 レオンは反対に聞き返してきた。
「えっ、だって。身分の差があるじゃないか。家柄とか」
 結婚というのは身分や家柄が釣り合う者同士でするものだ。何の後ろ盾もない一庶民が王族と結婚することなど起こり得ない。タクミにとってはそれが普通だ。
「白夜らしい考え方だね。暗夜では身分や家柄なんてそんなに重要じゃないんだ。あくまで個人の能力が重視されるからね。恋愛や結婚の場合だと個人の魅力かな」
「それ、本当の話? 王族が相手でも?」
「本当だよ。僕の母親だって平民の出だ。エリーゼの母親もそうだ。暗夜では珍しい話じゃない」
 自分の常識を覆される話を聞いて衝撃を受ける。暗夜王族の臣下に平民の出が多くて白夜と異なるのは早い段階から気づいていたが、まさか結婚相手にもそれが適用されるとは。
 衝撃に口が利けなくなっているタクミの様子を見てレオンがくすっと笑った。
「でもさすがに王族に告白してくるような女性は一筋縄じゃないね。みんな肝が据わっているというのかな、ある程度の覚悟を決めているよ。一発逆転を狙っているというか」
「それはマークス王子に対しても?」
「うん、マークス兄さんの方が多いんじゃないかな。僕の比じゃないだろうね。マークス兄さんが駄目だったから僕に狙いを変えたりとかね」
「えっ、それはひどいな」
「みんながみんなそうじゃないよ。そういう女性も中にはいるってこと」
 レオンの口から平然と語られるのはタクミの常識とはかけ離れた世界だった。平民が王族と結婚することが珍しくなく、女性の方もそれを狙っている節があるなどと。そういう背景があるのならば、先ほどの女性兵士の行動も納得がいった。彼女が純粋にレオンに惹かれたのか一発逆転を狙ったのかはわからないが、もし純粋な気持ちを向けていて、それを伝えてくれたのなら。
 そう思いかけてそこでやめた。決してうらやましくなどない。ないはずなのだが。
「じゃあ、レオン王子は今までそういう子と付き合ったことがあるの?」
「それについてはノーコメントだね。無闇に人の恋愛事情を聞き出そうとするものじゃないよ」
「そ、そうだね」
 タクミは大人しく引き下がった。さすがに個人的なことに踏み込みすぎだ。
 暗夜の文化に少しだけあこがれる。自由な恋愛など、王族には許されないものだと生まれてこの方ずっと信じていたのだ。自分と似ている面が多いからレオンには親近感を持っていたけれど、このことに関してはまったく異なっていた。自分と違って自由な恋愛ができる選択肢があることがほんの少しだけうらやましかった。
「タクミ王子は恋愛に興味があるの?」
……あっちゃ悪いのかよ」
 勝手に劣等感を感じてぶっきらぼうに返す。
「別に、普通じゃないかな。でも興味があるのに叶えられないからって僕に当たるのは止めて欲しいけどね」
 正論をぶつけられてつい反発した。
「なんだよ。こっちは誰かと付き合いたくっても許されない身なんだよ。あんたは違うんだろう? だったら少しくらいこっちに気を使ってくれてもいいんじゃないか」
 言い終わった瞬間から後悔した。こんなのは完全に八つ当たりだ。居たたまれなくなってその場から立ち去ろうとすると、レオンがにやっと口の端を上げた。
「じゃあさ、試しに僕と付き合ってみる?」
「へっ?」
 突拍子もない提案に、変な声が出た。
「つ、付き合うって。レオン王子と? 試しに?」
「君の立場はよくわかったよ。誰かと付き合うことに興味はあるけど、立場上できなくていら立ってるんだろう。だったら僕が恋人役をやるから、一度体験してみたらいいよ。誰かと付き合うっていうのがどんなものかがわかれば、いら立つ気持ちも少しは収まるんじゃないか」
 つまり彼は自分と恋人ごっこをしようと言っているのだ。
「なんだよ、それ。馬鹿にしてるのか」
「気を使えって言ったのは君だよ」
 レオンは自分の顎に手を添えた。
「実はこの提案は僕にもメリットがあるんだ。さっきみたいな場面は、僕はできればない方がいいと思っている。今は行軍中だから誰かと交際するなんて考えられないし、振られた側の士気はどうしたって下がるからね。そこで、僕に相手がいることにすれば、僕に告白しようと思う人間も自然と減ってくると思うんだ」
 どうかな、と視線を向けられる。真面目な相談なのはすぐにわかった。顎に手を添えて話すのは、彼が策を披露するときの癖だ。
「相手が僕でいいのか」
「相手が誰なのかははっきりとは言わないよ。『意中の相手がいる』って噂が広まれば十分だ。僕も断りやすくなる」
 利害は一致するように思えた。お互い、恋人がいるように振る舞いたいのだ。もともと友達だし、恋愛感情がなくても、その振りをするだけでも面白いかもしれない。それにレオンが困っているのなら手を貸したかった。
「じゃあ試しにやってみようか」
「決まりだね、じゃあよろしく」
 レオンがさっと右手を出してきたので、タクミも右手で握り返した。取りあえずこれでレオンとは仮の恋人同士だ。お決まりの告白の場面はなかったけれど、そこまで要求するのはやり過ぎだとわかっていた。