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toko-honey
2023-12-14 18:04:33
3424文字
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やってしまった
酔ったタクミがレオンにキスしちゃう話。レオタクはまだ付き合ってません。
いいなあ、柔らかそうだなあ。
タクミは狭い視界の中、レオンの顔をまじまじと見た。
普段は雪を思わせる白い肌は、今はほんのり染まって桃のようだ。自分も色が白い方だと思っていたけれど、暗夜人のレオンの色の白さは段違いだった。白磁の肌というのはきっとこういうものをいうのだろう。雪の冷たさを感じさせる白い肌が桃色になると、途端に温かくて柔らかくていい匂いがするように思えた。
「タクミ王子、ちょっと近くない?」
レオンが笑いながら言う。
「そんなことないよ。あんたの臣下と同じくらいだよ」
「いやそれ、十分近いって」
タクミは目の前の桃色の頬をじいっと見つめた。柔らかそうだな。触ってもいいかな。黙って触ったら怒られるかな。許可をもらえばいいだろうか。
思ったことがそのまま口に出る。
「ねえレオン王子、触ってもいい?」
「なになに、カムイ姉さんの真似?」
「『レオンさん、触ってもいいですか?』」
「あははは! 似てないー」
「本当だ、全っ然似てない!」
互いを指さし、似てなさ加減をネタにげらげらと笑った。
今日タクミは誕生日を迎えた。戦時中の拠点だから大した祝い事はできなかったが、皆から祝福の言葉をもらえた。夕食には好物の味噌汁が出たし、レオンからはワインまでプレゼントされた。ワインをもらってすぐにレオンを自分の部屋に誘った。今は二人でワインを開けている。
初めて口にしたワインはおいしかった。レオンは飲みやすいものを選んだと言っていた。酒に強くないことは自覚している。だがワインの口当たりの良さと、何よりレオンと一緒に飲めることがうれしくて、つい調子に乗ってしまった。ああ、これは酔っているなと思ったときにはすでに手遅れだった。気づけばレオンも同様の状態になっており、二人してできあがっていた。
「レオン王子はさ、カムイ姉さんには触られてるの?」
桃のように染まった頬を見つめながら聞く。桃よりは弾力がありそうだ。押したらどのくらいへこむかな。
「ときどき呼び出されて触られてるよ。タクミ王子だってそうだろう」
言われて、タクミは遠慮なくなで回してくるカムイの手を思い出した。あれはいったい何なんだろう。こちらが止めろと言っても全然聞かない上に、毎回指が目に入りそうになる。レオンも同様に触り倒されているに違いない。
タクミはふんふんとうなずいて一つの結論を出した。
「カムイ姉さんが触ってるんならさ、僕も触ってもいいよね」
「ふえっ」
レオンの頬に手を当てる。すべすべした肌は見た目どおり温かかった。まだ色の薄い額の辺りと、桃色になった頬とを触り比べてみる。どちらも温かいが、どちらかといえば頬のほうが温度が高かった。
「冷血の王子なのにあったかいじゃないか」
変なのとぶつぶつ言いながら頬をなで回す。両手で挟んでみたが、反対側の頬も温かかった。
ふに、と親指で押し込んでみると、両頬にへこみができる。桃と違って張りと弾力があり、指を離すとすぐに戻ってきた。
「タ、タクミ王子?」
レオンが困惑した声で呼んでくる。
「なに?」
「近い、よ」
「触ってるんだから近いに決まってるだろ」
もにもにと顔のあちこちを押して弾力を確かめる。頬は柔らかいが、骨のある部分はさすがに硬かった。
この整った顔の下には自分と同じ骨が詰まっているのだろうな。不思議だな。
そう思いながら耳の下から顎の先までじっくり押しながら進む。ふと、指先に唇が触れた。そこは顔の中でも一段と柔らかかった。
「ちょっと、そろそろ止めなよ」
「だめなの?」
「だって、こんなのカムイ姉さんとだってしないだろ」
「ふふっ。そうだね」
うろたえるレオンに笑いかけながら、唇を人差し指の先で軽く押す。柔らかい感触が伝わってきた。楽しい。止めるように文句を言って動くのが少し煩わしいが、押し返す感触が指先に伝わるのは楽しい。
レオンの顔を見ると桃色は先ほどよりもっと色づいていた。まるでリンゴのようになっている。リンゴというよりもトマトかな。トマトは彼が好きな食べ物だし、トマトのほうがよりふさわしい。トマトならもっと赤いはずだ。この柔らかい唇に吸い付いたら、もっと赤くなるんじゃないかな。
思い付いたことを即実行に移した。レオンに顔を寄せる。
「ちょっ、だから近いって
……
」
「黙って」
「な、に」
相変わらず文句を言ってくる唇に自分のを押し当てる。むにゅっと触れ合うと柔らかさが返ってきて、気持ちよさに気分がよくなる。
少し顔を離してレオンの顔を見る。レオンは目を真ん丸にしていた。もともと桃色になっていた頬が徐々に赤味を増していく。
「うん、いいね」
「い、今のって」
「も一回、いい?」
「タ、タクミおう、じ
……
」
もう少し赤くなったら完璧なトマトのできあがりだ。もう一度唇を押しつけ、角度を変えてまた押しつけた。全然抵抗がないので、少し大胆になって軽く口を開ける。唇で下唇を挟むと柔らかい餅のような弾力が返ってきた。少しずつ位置をずらしながら唇で繰り返し挟む。
急に押し返してくる圧力が強くなった。背中に手が回される。肩を押され、ゆっくりと身体が倒されて畳の上にごろんと寝転がった。見上げると、レオンが手をついて覆いかぶさっていた。真っ赤になった顔で見下ろしてくる。
「あ、あのさ、ちゃんと聞いておきたいんだけど」
レオンがふわふわした声で、それでも真剣な様子で何事かを尋ねようとする。その顔を見上げてタクミはくすくすと笑った。
「うん、トマトだね」
「トマト? なにが?」
「さっきは桃みたいだったけど、今はトマトだよ。ぴったり」
「
……
ねえ、からかってる?」
「からかってないよ。あんたの顔がトマトみたいに赤くなったらいいなって。ぴったりだなって」
「もしかして、それだけのために?」
レオンの眉間にぎゅっとしわが寄った。
「僕もう失礼するよ」
「ええー、帰っちゃうの」
寝転がったままの視界に、立ち上がったレオンの足が映る。足はドスドスと音を立てて扉の方へと歩いて行き、やがて扉の開閉音がした。あとは静かだった。
「あああああ
……
」
翌日起き上がったタクミは布団の上で頭を抱えていた。
やってしまった。
険しい顔になって部屋を出て行ったレオンの様子を思い返す。
怒ってるかな。怒ってるだろうな。
ああ、やってしまった。
自分が酔うと人との距離感がおかしくなる質なのは知っていた。口付けを迫ってしまうことも。前に失敗したことがある。その時は未遂だった。ヒナタとオボロと飲んでいるときにヒナタに迫ってしまった。迫る相手が男限定なのは、女性相手だとシャレにならない事態になると無意識でもわかっているからだ。
ヒナタのときは本気で抵抗されたし、オボロもいたから未遂で済んだ。逃げるヒナタを追いかけようとしたところをオボロに羽交い絞めにされ、身動きが取れなくなったところにヒナタがリョウマを連れて戻ってきて、その場でリョウマに正座させられてしこたま叱られた。
それで猛省して飲み過ぎないようにと気を付けていたのだが、とうとうやってしまった。つい気が緩んでしまっていた。
レオンがもっと抵抗してくれたらこんなことにはならなかったのに。
タクミはいやいやと頭を振った。レオンのせいにしそうになった気持ちを追い払う。どう考えたって自分が悪い。彼は純然たる被害者だ。
「なかったことにしてくれないかな」
口元を手で覆う。口付けは初めてだったが特に感慨はなかった。失敗したことへの苦い後悔があるだけだ。
レオンも初めてだったらどうしよう。もし初めてだったらきっとショックを受けたことだろう。嫌われたかもしれない。
せっかくできた友人なのに、縁を切られるのは嫌だった。自分勝手な願望なのは承知の上だ。
すぐに謝ろう。今すぐだ。謝罪を受け入れてくれるかはわからないが、とにもかくにも謝らなくては。
タクミは立ち上がった。いつもなら弓の稽古をする時間だが今日は中止にする。それよりもレオンへの謝罪の方が現在の最重要案件だった。
着替えて、顔と髪を整えて、部屋を出ようとしてから引き返す。彼が会ってくれるとは限らない。会ってもらえなかったときのために手紙を書こうと思いつき、タクミは文机に向かった。
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