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toko-honey
2015-11-20 11:30:12
3666文字
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アイオロスが小さくなる話
没ネタ供養。
リアロス本に使おうと書いたけど、ここから先が思いつかなくて本ごと没にしました。
これまでのあらすじ:
兄を避けるアイオリアにアイオロスが原因を追究すると、アイオリアは兄を性的な目で見ていることを告白したのでした。
=======================
アイオロスは一つの確信を持っていた。いつもの弟なら、こんなことを言い出すはずがない。三つ子の魂百までというではないか。こちらは三つどころか七つまでアイオリアを見てきたのだ。
「私は、何かお前に取り憑いているのだと思う。その何かがお前の性的嗜好を歪めているのだ」
「は?」
いきなりオカルトな方向に行ったアイオロスの台詞に、アイオリアは面食らった。聖衣に取り憑いていたのは兄さんの方だろうと突っ込みたくなる。
そんな弟の様子を気にもせずアイオロスは考えた。いつもの弟ならこんな突拍子もないことを言い出して相手を混乱させるはずがない。こんなことは絶対におかしい。
「これはきっと妖怪の仕業に違いない。私の聖衣! 出てこい射手座!」
アイオロスは射手座の聖衣を光の中から呼び出し、その身にまとった。弓を腰から取り出し、矢を肩から取り出す。その矢を空中に投げ上げ、くるくると回るそれを横からぱしっとつかんだ。そして「セットオン」と言いながら黄金の矢をつがえる。弓を軽く引いた状態にし、目を閉じて小宇宙を研ぎ澄ませ、怪しい気配を探った。
アイオリアは、先ほどまでの緊迫したやり取りが無かったかのように振る舞う兄の奇行に、なんとかついていくのが精一杯だった。
「何を言っているんだ兄さん。聖闘士をホモにする妖怪なんて見たことも聞いたことも
……
」
「いた!」
「ええっ!?」
アイオロスはいつの間にか部屋の隅に置かれていた壺を睨みつけた。こんな趣味の悪い壺は今まで見たことがない。口が細く、底が膨らんだ形の取っ手のついた赤色の壺には、目鼻と唇が大きくデフォルメされた人の顔が書かれている。明らかに場違いなその壺からは見るからに怪しい気配がぷんぷん漂っていた。
「やっつけてやる!」
まるで平凡な小学生のような決め台詞言うとアイオロスは弓を引き絞った。その趣味の悪い壺に向けて狙いを定め、小宇宙を込めて矢を放つ。耳をつんざく爆音とともに、部屋の半分が壁ごときれいに吹っ飛んだ。神をも倒す黄金の矢に撃ち抜かれた壺は、粉々になったかと思うととある有名クラシック音楽の冒頭部分を奏でた。粉砕された壺を中心に、周囲が真っ白な煙に覆われる。その煙が薄れていくにつれ、壺のあった場所に人間が立っているのが見えてきた。
「アイオリア、あれは何と言う妖怪だ」
自分の部屋が半壊したショックでアイオリアは声を失っていた。新たに誰かが現れたことよりも、その後ろに外の風景が見えていることの方が余程インパクトがある。出入り口が増えたから便利になって良かったとは到底思えなかった。
「誰が妖怪だ」
白い煙をまとう人物が声を発した。威厳のある声には聞き覚えがある。
「あ、あなたは」
すらりとした長身に、ボリュームのある長髪。きりっとした双眸と額に描かれた小さな眉。その場にいるだけで周囲をひれ伏せさせるような尊大なたたずまい。実年齢の十分の一にも見えない極端な若作り。見紛うはずもない。破壊した壺の中から音楽とともに現れたように見えたのは、妖怪でもハンバーグ好きの大魔王でもなく前教皇だった。
「シオン様?」
派手な登場の仕方に、いくつもの疑問が浮かんでくる。いったいどうやって現れたのか、いつからそこにいたのか、まさか壺の中に入っていたのか、そもそもあの壺は何だったのか。
「何やらお前たちがもめているようだとムウから聞いた」
シオンは、弓を構えた姿勢のまま自分を呆然と見つめているアイオロスと、風通しのよくなった居住スペースを呆然と見つめているアイオリアの疑問には一切触れず、勝手に自分の話を進めた。
「この件、私に任せてもらおうか。秘策がある」
シオンは懐から蓋のついたガラス瓶を取り出した。中には赤いものと青いものと、親指大の丸い粒がぎっしり詰まっている。そしてもったいぶった動きで蓋を開けて赤いものを一粒取り出した。
「シオン様、それはいったい」
『何ですか』と続けようとしたアイオロスの口に、シオンの手から粒が一つ放り込まれた。
「ぐぉうぇっはぁっ!!」
勢いで丸のまま飲み込んでしまい、アイオロスは盛大にむせる。アイオリアは喉を押さえてげぇげぇと苦しむ兄のために、奇跡的に無事だったキッチンに走った。水を持って来て飲ませると、兄は青い顔をして床に手をつきつつも少しは落ち着いたようだった。
「いったい兄さんに何を飲ませたんですか!?」
アイオリアは詰問した。場合によっては前教皇と言えどもただではおかない。
「安心しろ。それはキャンディーだ」
「キャンディー?」
「無論、ただのキャンディーではない。代々ジャミールに伝わるものだ。本来なら門外不出のものだが、特別にお前たちのために持って来てやったのだ。その名も、『ふしぎなメ
――
』」
そのときシオンの斜め後ろから、吹っ飛んだ獅子宮の壁の一部だったと思われる瓦礫が飛んできた。自然の摂理に反してスピードを上げながら一直線に進むそれはシオンの頭に命中し、その身体をなぎ倒した。
「やった! 当たりましたよ、ムウ様」
「よくやったな。貴鬼」
大師匠の頭に瓦礫を当てて無邪気に喜ぶ貴鬼と、それをほめるムウが、崩れた壁の影から現れて部屋に入ってきた。
ムウは自分の弟子の攻撃で倒れた師匠の手からガラス瓶を取り上げ、襟首をつかんで立たせた。「作品名を出すのはまずいですよ」などと聞こえてくる。アイオリアは数歩ムウに近づいた。
「作品名とは何のことだ」
「こちらの話です。気にしないでください」
ムウは優雅に微笑む。
「そうはいくか。何を兄さんに飲ませたのか説明しろ」
「ようは年齢を操作する薬のようなものです。青いキャンディーをなめると十歳年を取り、赤いキャンディーは十歳若返ります」
アイオリアの問いに簡単な説明で済ませると、ムウはこめかみから血を流すシオンの腕をつかんだ。
「さあ行きますよ、シオン様」
「そうですよ。いつまでもいたらお邪魔だよ」
うちのがお騒がせしましたとムウと貴鬼はそろって一礼をした。そしてムウはシオンの二の腕を、貴鬼は服の裾を引っ張って壁があったはずの場所から出て行く。
「兄弟は仲良く!」
シオンは顔を血まみれにしながらそう言った。早く早くとうながされながら後ろ向きに引っ張られつつも、不敵な笑顔を見せ右手を握ってぐっと親指を立てる。その親指も壁の向こうへと消えて行った。
牡羊座師弟が去ったことで騒動はひとまず終わった。結局、妖怪騒ぎも悪趣味な壺の謎も解けずじまいで、半壊した獅子宮の居住スペースだけがその場に残された。これは本格的に修理をしないと到底住めるような代物ではない。アイオリアはがっくりと肩を落とした。吹っ飛んだところに置いてあった観葉植物は結構お気に入りだったのに。
それから、ムウに教えてもらったキャンディーの説明を思い出す。青いものは年を取り、赤いものは若返ると言っていた。確か、兄が口にしたのは。
恐る恐る背後を振り返る。ムウが言っていることが真実だとしたら。はたしてそこには。
「あいおりあ
…
」
そこには、ずいぶんと縮んだ射手座の聖衣をまとった幼児が座り込んでいて、不安げに自分を見上げていた。
八分の一スケールになった兄を膝に乗せて、アイオリアは人馬宮のソファに座っていた。
向かいのソファにはデスマスクとシュラとアフロディーテが座っている。三人とも、目を見開いてアイオロスを凝視していた。
「それで、俺たちは何をすればいいんだ」
シュラが聞いた。とにかく困っているから相談に乗って欲しいと呼ばれてきたものの、子供の扱いに慣れている人間はここには一人もいない。
「ムウはどうした。あそこは弟子が小さいだろう。子供の扱いに慣れているのではないか」
アフロディーテが口を開いた。
「ムウはジャミールに帰ってしまった。アルデバランが言うには『シメておかなければ』と言っていたそうだ」
「シメるって、何をシメるんだ」
そこまではアイオリアも聞いていなかった。何となくわかるような気もするが、考えないほうがよさそうに思う。
「サガには相談したのか」
「サガ?」
アイオリアはギロリとデスマスクをにらみつけた。殺気が急激に膨れ上がる。
「いや、今のは忘れてくれ」
デスマスクは失言を撤回した。大事な兄をサガに託すことなどアイオリアが受け入れるはずがない。
「あいおりあ、なんでさがはダメなんだ」
「兄さんの安全を守るためだ」
「ふうん」
アイオロスはよくわからないという表情で足をぶらぶらさせた。
「とにかく、兄さんの面倒は俺が責任を持って見る。ただ、俺一人で行き届かないときは協力してもらえないだろうか」
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