小3のビマとヨダナの給食の小話です。年齢上もちろんビマヨダ成立はしてませんが、ほのかにほわんほわん香るくらいの恋風味はあります。相互さんとお話してた給食当番ビマヨダネタからの派生です♪
小学三年生になって初めての給食で、ドゥリーヨダナはとってもびっくりしていた。両親から可愛いと褒められる目をまあるくして、隣の席のビーマの前にある給食を見ていた。厳密には、食器に盛られた白いご飯だ。見たことのないものから目が離せない。
「おい、ビーマ……」
「ん?なんだよ?」
暑がって白衣の袖をまくっていたビーマは、ドゥリーヨダナの視線が自身のご飯に向いていることに気づくと、照れくさそうに頰をかいた。
「多くわけたの、バレたか?」
「は?」
その言葉の衝撃に、弟妹からもきらきらしてると褒められるドゥリーヨダナの目はぱちくりと瞬いた。今、信じられないことを聞いたような気がする。あんぐりと口を開けてまじまじと隣を見れば、相手はわたわたと慌て始めた。
「あっ、でもちゃんと全員分同じくらいによそってるぜ!給食当番だからってズルはしてねえ。まあ、ちょっと最後に多く盛ったけど……」
「いや、おまえ、そうではなく……」
給食帽を脱いだばかりの短い髪をぴょんぴょんと跳ねさせたまま、一生懸命言い訳をするビーマだが、ドゥリーヨダナが聞きたいのはそんなことでは全くない。
ビーマの前にある白いご飯。自分の前にあるご飯より、ちょっと多めの白いご飯。でも。
「おまえ、これでは全然足りんだろう??」
ビーマのご飯と考えると、信じられないほどに少なすぎるのだ。
従兄弟だから、ビーマがどのくらい一度に食べるかはよーく知っている。幼稚園の時は、お父さんのみたいに大きいお弁当箱を持ってきて食べていた。この前、ビーマの家に遊びに行って夕ご飯を一緒にした時なんて、ビーマは唐揚げを六個も七個も食べていた。あんなに大きい唐揚げ、ニ個も食べたらおなかいっぱいなのに。ビーマは昔からそんな感じで、ドゥリーヨダナにとってはたくさん食べるビーマというのは当たり前のものだった。
小学校に入学した時にクラスが別れてしまったけれど、三年生で一緒になった。しかも席まで隣で、ドゥリーヨダナはすごく嬉しかった。今日だって給食の時間を楽しみにしていたし、ビーマがよそってくれたご飯を受け取った時も楽しかった。なのに、ビーマのご飯が少なすぎてびっくりしてしまったのだ。
きょとんとした顔のビーマは、ドゥリーヨダナの言いたいことに気づいたようで、えへん!と笑ってみせた。
「大丈夫だぜ!俺、一年と二年の時もこれくらいの量だからな」
「そうなのか!?」
「おう!慣れてるから平気だ!」
誇らしげにビーマはそう言ったけれど、なんだかドゥリーヨダナの心はもやもやとしてしまう。自然にむうと唇が尖った。
皆で「いただきます」と食べ始めてからも、そのもやもやは晴れない。隣のビーマはのんきにむしゃむしゃ食べ進めている。目が合えば「今日の焼き魚、美味いな!」なんて言ってくる。確かに美味しいけれど。ドゥリーヨダナはむぐむぐと味噌汁に入っていた緑の葉っぱをよく噛みながら考えた。
ビーマは大食いだ。親戚の中でも飛び抜けてよく食べる。同じ日に生まれたのに、ビーマがドゥリーヨダナよりちょっとだけ大きな体をしているのは、いっぱい食べるからかもしれない。それは少し悔しいけれど、他の皆とほとんど変わらない量のご飯で平気だと笑うビーマより、いっぱい食べて嬉しそうに笑うビーマを見たいなと思う。だって、そういうヤツなのだから。ビーマらしくないビーマは落ち着かない。
だから。
これからすることは。
わし様がうんと優しいからなのだ!
ドゥリーヨダナはそう自身に言い聞かせてある計画を立てた。
翌週、給食当番になったドゥリーヨダナは、カレーピラフ担当になった。給食帽にちょっとくせっ毛の短い髪をよいしょと仕舞い、手際よく一人一人均等によそっていく。ドゥリーヨダナは頭がいいので、このくらいはなんてことない。ビーマの白衣には少し汚れがあったけれど、ドゥリーヨダナの白衣は綺麗なものだった。しかし、今日はドキドキしていて落ち着かなくて、うっかり汚したらどうしよう、なんてそわそわしている。何と言っても、ドゥリーヨダナには今日絶対やり遂げなければならないことがあるのだ。
「ドゥリーヨダナ!」
来た!ビーマの声にドゥリーヨダナの心臓はちょっと跳ねる。目の前のビーマの表情を見れば、給食の時間が楽しみだというのがよくわかる。待っていろ、ビーマ、今日の給食の楽しみはそんなものではないぞ!心の中でそう告げてから、さっきまでと同じようにシャモジでよそい、「……ん」とだけ言って、ビーマのお盆に載せてやった。緊張していて「……ん」しか出てこなかったのは失敗だ。
だけど、これ以上色々話すわけにはいかない。周りに怪しまれてしまう。そのまま行ってしまえと念じたが、うまくはいかなかった。
「……あっ」
目の前を通り過ぎようとしていたビーマの口から、小さな声が漏れた。それにドキリとしながら様子を窺うと、ビーマが自分のよそったカレーピラフを見ているのがわかる。そうして、パッとこちらを向いたものだから、ドゥリーヨダナはウムと一つ頷いて、さっさと行けとあごをしゃくった。気づかれてはいけない。これは秘密の特別ミッションなのだ。
「……!」
キラキラッとビーマの瞳が輝いた。ぶんっと勢いよく頷いてビーマは自分の席に戻っていく。ドゥリーヨダナは横目でそれを見届けて、また配膳に戻る。マスクの下の自分の唇が笑みの形を作っているのがわかる。自分はやり遂げたのだという気持ちでいっぱいだった。
給食が既に置いてある自分の席に戻る。ビーマが並び直してドゥリーヨダナの分も用意しておいてくれたのだ。
「ドゥリーヨダナ」
「なんだ?」
内緒話をするように体を寄せてきたビーマに、ドゥリーヨダナも給食帽とマスクを外して頭を寄せる。
「俺の……多くしてくれたんだろ?」
気づいてもらえたことにほっとする。
「嬉しい」
喜んでもらえたことにむずむずとする。
「俺、カレーピラフ大好きなんだ」
知っている。だから、頑張って狙ってさり気なく、カレーピラフの配膳担当になったのだ。ビーマがよそっていたよりは多く。でも、皆の分が足りなくなることはないように。いっぱい考えてよそった。
「秘密だぞ。今日は早退があったからな。特別なのだ」
「……!おう、わかった。秘密なっ」
ドゥリーヨダナが目配せすると、ビーマがニカッと笑って返事をする。間近で見る笑顔がとても眩しくて、ドゥリーヨダナの胸はまたドキドキと鳴り始めた。
「いただきます」のあいさつで給食が始まる。隣のビーマはもりもりとカレーピラフを食べていて、その様子はこれまでよりも生き生きとしている気がする。やっぱりこういうビーマがいいなと頷いて、ドゥリーヨダナもはむはむと自分のカレーピラフを食べる。量はいつもより少し少ないのに、不思議とお腹いっぱいの気分だった。
それからも怪しまれない程度に、ドゥリーヨダナは頑張った。自分の給食当番の週でもよく考えてとっておきの時に一回だけ。給食当番ではない時は冷凍みかんをあげたこともあった。その度にビーマがニカッと笑ってくれるから、ドゥリーヨダナの心はいつもほかほかとしていたし、ドキドキともしていた。
そんなある日。ドゥリーヨダナは席について「いただきます」を待っていたのだが、ぼんやりと自分の給食を眺めていたら何か変な感じがしてきた。何かを取り忘れているわけではないし、量がおかしいということもない。では何がいつもと違うのだろうと、一つ一つをよく観察した。
「……あっ」
気づいてドゥリーヨダナは目を丸くする。次いで、すぐさま黒板の前でスープをよそっている給食当番のビーマを見ると、すぐにバチリと視線は合った。途端、ビーマの目が細められる。いつもみたいにニカッと笑っているのだと、マスクをしているのにわかる。ドゥリーヨダナは自分の頬がぶわりと熱くなるのがわかって、慌てて視線を逸らした。
頬の熱さを落ち着かせようとしているうちに、ビーマが戻ってくる。
「ビーマ」
呼びかけると、ポンポンと勢いよくマスクと帽子を外したビーマが体をくっつけてきた。内緒話だ。ドゥリーヨダナも同じように体を近づける。
「気づいたか?」
「んむ……わし様のスープ、ニンジンが入ってなかった。どうして?」
「だって、おまえ、アレ苦手だろ?」
ドゥリーヨダナはびっくりした。ニンジンはいつもは平気なのに、なぜか給食で出されるこのスープに入ってるニンジンだけはダメで、困っていたのは本当だ。でも、それをビーマに言ったことはないはずだった。
「見てたらわかるぜ」
こちらの心を読んだように得意げに言われて、ドゥリーヨダナの頬とおでこは瞬く間にほかほかになってしまう。
隣の席でドゥリーヨダナがビーマを見ていたように、ビーマも自分のことを見てくれていた。そして、自分がビーマにしたことをビーマもしてくれた。そのことにどんどん嬉しい気持ちが増えていく。
「なあ」
話しかけられて慌ててビーマと目を合わせる。気づけば、ビーマの頬も少しばかり赤かった。どうしたのだろうと思っている間に、また小さな声で告げられる。
「秘密、な?」
そう言うビーマの顔がなんだか見たことないほど嬉しそうで、格好よくて、ドゥリーヨダナの心臓はまたドキドキと鳴った。
ビーマと同じクラスになってから、前よりビーマにドキドキしてばかりな気がする。でも、それもとても楽しかった。ビーマと同じクラスで嬉しい。一緒に給食が食べられて嬉しい。そして。
「うむ、秘密だ」
ふたりだけの特別な秘密ができて、すごく、嬉しかった。ドゥリーヨダナのまろい頬がふにゃりと緩み、顔にはあどけない笑みが浮かぶ。ずっとずっとビーマと同じクラスならいいのに。ドゥリーヨダナは「いただきます」を言いながらそんなことを思った。
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