ユウキ
2024-11-01 00:37:15
4698文字
Public ストグラ二次創作
 

トリック・オア・トリート

ストグラ二次創作
ハロウィンの夜の、天鳥迦具夜と仲間達のお話

※あまりにも素敵なファンアートを見てしまったので勢いで書いてしまいました。
特に深い内容とかではない。あのファンアートが素敵過ぎただけ。

※いつも通り、オリジナル設定もりもりの捏造過去物語です。
※オリジナルキャラについては過去作を読んでもらうといいかなと思います。AとIが出てきます。
1作目:とある夏の、花火大会の夜
2作目:姫と天鳥の男達のお話。
3作目:破滅の天女 (※シリアス長編)

トリック・オア・トリート!


 今日の街は、いつもにも増して賑やかだった。
 けったいな格好をした輩がうろつき、子連れはお菓子を求め回遊している。
 学生達は街中でパーティー気分だ。
 今日は10月31日。 俗に言うハロウィンというヤツだ。
 こんな小さな街でも、ハロウィンともなれば商店街も活気づく。
 活気がある、ということは治安が悪くなるということでもある。
 ここら一体のシマを治める天鳥組。
 商店街の会長に治安維持を依頼され、今日は組の者達も皆大忙しだ。
 イツキは事務所のソファーに座り、今日の人員配置をチェックしていた。
 トラブルに備える為、あちこちの商店で売り子などにカモフラージュして配置している。
 夜になり子連れの姿はさすがに減ってきた。
 まだ早めの時間帯ではあるので、今の所特に問題は起きていない。
 起こるとしたらこれから深夜にかけてだろうか。
 イツキは書類に目を通す。
 月末だと言うのにイベントに人員を割かれ、通常の回収業務を行う手が足りていないのが実情だ。
 イツキは溜息をつき、リストとにらめっこをする。
 いつもならこのくらいの時間は暇になった人間が事務所に集まるのに、今日はまとめ役イツキと、仮装担当のアオイの2人しかいない。
 他の組員達はみな慌ただしく出たり入ったりしている。
 未回収案件はあと5件。
 こういう締め切りのあるものは、どんな事情であれ日付を跨ぐことは許されない。
 今日中に回るには自分が出るしかなさそうだ。
 それでも回り切れるかどうか怪しい。
 どちらにしろ事務所を空にするしかなさそうだ。
 イツキが溜息をついていると、事務所のドアがガチャリと開いた。
「おお、出払っとるなぁ」
 のんびりとそう言いながら入ってきたのは、天鳥迦具夜。この天鳥組の若き組長その人だった。
 姫と呼ばれる由来ともなる長い黒髪が、さらりと揺れる。
 姫の姿を認めたアオイが、パッと顔を輝かせた。
「姫だ! ちょうどいい所に!」
「お? なんだなんだ?」
「姫も仮装しましょ! ハロウィンなんで!」
 ウキウキとした声で呼ばれ、姫は勢い、奥の席へと連行されていく。
 今日、何度も見た光景だ。
 アオイは今日はずっと、同じ様に組員たちに仮装をしては街に送り出しているのだ。
 素早い手つきでササッと姫にメイクを施していくアオイ。
 そう時間もかからず、すぐに仮装は終わったようだ。
―――はい、完成!」
「おおー、なかなか本格的やな。これ、なんや?」
「悪魔のイメージっす! 黒い翼つけたら完璧っすよ!」
 ニカッと楽しそうに笑うアオイ。
 姫は鏡の中の自分を興味津々に覗き込んでいる。 
 アオイは横に積んだ衣装の山から、真っ黒な羽根が沢山ついた翼を引っ張り出した。
 姫はその翼をノリノリで背負った。
 なにかとお祭り好きな姫のこと、こうなるのは少し予想はついていたのだが。
「うわ、めっちゃいい。似合う。姫、超カッコいい」
「そう?」
 パシャパシャと姫の写真を撮るアオイ。
 そのあまりのはしゃぎっぷりに、イツキは思わず苦言を呈した。
……アオイ、あまり姫を困らせるなよ?」
「えへへ。でもほらイツキ見て? 姫、最高にカッコいいでしょ?」
 自信満々に言うアオイ。
「イツキ、どうや? 似合っとるやろ?」
 姫がこちらに向かってニッと笑う。
 イツキは黒い翼を背負った姫のその姿をまじまじと見つめた。
 いつもの見慣れた黒いスーツ。
 尖った耳に、禍々しい黒く長い爪。
 目元は血のような赤で彩られ、口元はこれまた赤黒い血の色。
 さらに口の端と目元からは血が垂れている。
 背中に広がる大きな黒い羽根が長い黒髪と相俟って、禍々しくも美しい。
―――き、」
 綺麗です、と答えようとして、どこか気恥ずかしくなって、イツキは思わず言葉を濁した。
 まるで本当の悪魔のような、危険な美しさだ。
……お似合い、です」
「やろぉ!?」
 姫は満足そうに何度も頷いて笑っている。
 ひとしきり笑うと、イツキの横にドカリと腰をかける姫。
―――で? イツキ、今日の報告」
 いつもと変わらぬ様子で報告を促す美しい悪魔に、イツキは内心穏やかでないまま報告をする。
「はい、本日はイベントの依頼で手が足りない状態です。未回収案件が数件と―――
「ああ、やっぱり手ェ足りひんよなぁ」
 書類を手渡すと、しかめっ面でそれを眺める姫。
「あんのオヤジ、また返済滞ってんのか。仕方ねぇヤツだなぁ」
 リストの中の文字列に目を止めると、姫はニヤリと笑い、すぐに立ち上がった。
「よし、今日は人手も足りんことやし? わしが久々回収でもいっちゃるかな!」
 悪戯を思いついたような顔だ。
 イツキは慌てて声を上げる。
「回収って、姫、そのまま行かれるおつもりで!?」
「ん? ええやろ?」
 小首を傾げる姫。
 いや、問題ありすぎだろう。
 こんな綺麗な悪魔が街を歩いたりしたら、どんなことになるのか。
「今日はハロウィンやで? 悪魔の一体二体歩いてたっておかしくはないやろ」
 これは、取り立て先にアレをやるつもりだ。
 トリック・オア・トリート、というヤツを。
 こんな綺麗な悪魔にそんなことをされたら、大変なことになる。
 姫は上機嫌で「ふはっ」と笑い、事務所を出て行こうとしている。
「ちょ、お待ちください! さすがにお供します!」
 イツキは街に起きるであろう混乱を抑えるため、慌ててその後を着いていくしかなかった。



「Close」の札の掛かる薄汚れたドアを半ば乱暴に蹴破り、美しい悪魔がその店を襲来する。
「トリック・オア・トリート!!」
 静かな店内に響き渡る、姫の楽し気な声。
 営業前の薄暗い店内にズカズカと足を進めると、いつものように渋い顔をして出迎える見慣れた黒服の顔が固まった。
「すいません、店長はまだ―――って、え……??」
「よぉ、イタズラされたくなきゃ、さっさと出すもん出しな?」
「え、お姫さん!?」
 姫を見てあからさまに顔を赤らめ惚ける黒服。
 それはそうだ。
 姫が直々債権回収に回ること自体最近では珍しいのに、さらにこの仮装だ。
 イツキは固まる黒服をつついて、店主を呼ぶように促した。
「ホンマみんな何を惚けよるんかなぁ?」
 コテンと小首を傾げ、綺麗な悪魔がぼやく。
 回収はこれで3軒目。
 どの相手も、姫を見た瞬間魅了されたかのように固まってしまった。
 店の奥から渋々現れた店主が、同じ様に姫を見て固まる。
「お、やっと出て来たな? 今月分取り立てにきてやったぞ?」
 ニッコリと微笑む姫に、店主がでれでれとした笑みを浮かべる。
「お姫さんー!? いやぁお姫さんが来てくれるとは思わんかったわぁ! その仮装似合うねぇ!」
 親し気に話しかけてくるこの店主は、姫の昔のギャンブル仲間でもある。
「そう? 似合う?」
 褒められて満更でもなさそうに笑う姫。
「ふふ、お菓子くれなきゃ、イタズラしちゃうぞ?」
「あはー! イタズラしてくれていいよ!!」
 両手を広げ調子よく答えながら、姫にお菓子を押し付けてくる店主。
「アホか、お菓子はいらん。はよ返済!」
「ダメかぁ」
 苦笑しながら、茶封筒を渡して来る店主。
 イツキは代わりにそれを受け取ると、中身を確認する。
 珍しく、今日はちゃんと全額が揃っているようだ。
 いつもは半分ほどしか入っていないことも多いのだが、姫が回収に当たると何故かみな毎度きっちり払ってくる。これも人徳だろうか。
「毎度言うとるけどな? こういうのはきっちりせんとアカンよ?」
「はぁい、迷惑おかけします、お姫さん」
「うちのモンやって、そう穏やかなヤツばっかでもないんやから。あんま煩わせんようにな?」
 でれでれしている店主を諭すように言う姫。
「肝に銘じますぅ」
 調子を合わせる店主。きっとまた来月も返済が滞るのだろう。
 もしかしたらこの店主は姫が来てくれるのを待っているだけなのかもしれない。
 店主の様子をみて、イツキはなんとなくそんなこと思った。
 姫は店主の背中を軽くポンポンッと叩く。
「じゃ、またな! 今度また飲みに来るわ」
「待ってますよぉ、お姫さん! きっと来てくださいねぇ!」
 名残惜しそうな店主を後に、姫はその店を後にした。



「さて、次は―――
 姫がリストを見ながら、次の回収先を確認する。
 道の反対側に沢山の人影が集まっているのに気付き、イツキはさっと目を配った。
 姫が姿を現した瞬間、上がった悲鳴のような歓声。
 イツキはすぐ悟った。
 これはあれだ。噂が回ったのだ。
『綺麗な悪魔が街を徘徊している』
 きっと、そんな類の噂だ。
 姫は堂々と悪魔の姿で街を歩いてきたから、一目その姿を見ようと人が集まってきたのだろう。
「なんだ? 妙に人が多いな?」
 自覚のない姫が小首を傾げる。
……姫、ご自分の姿をお忘れで?」
「ああ、ハロウィンだからか?」
 姫は集まっている人の方に視線を向ける。
 途端、黄色い悲鳴が上がった。
 姫の口の端が楽し気に上がるのが見える。
 これはマズイ。
「いけません、姫―――
 イツキが止める前に、姫はその一言を発した。
「トリック・オア・トリート!」
 ニッコリととびきりの笑顔で高らかに姫が言い放つ。
 途端、遠巻きにしていた人影がサッと集まってきた。
「「「お菓子もらってください!」」」
「「「イタズラしてください!」」」 
 様々な声が同時にかかり、次々にお菓子を押し付けられる。
「うわ、え、なんや!?」
「姫、お下がりください!」
 驚く姫と群衆の間にイツキは入り、かわりに押し付けられたお菓子を受け取る。
 両手で抱えきれなくなり、誰かがくれた大きな籠にお菓子を放り込む。
 狭い街のこと、その正体が誰であるかは皆知っているようで、もみくちゃにされるほど無茶なことにはならなかったのだけは幸いだった。
 まだまだ集まって来そうな群衆の気配に段々と恐れをなしてくる。
「イツキ……、どうしよ?」
 困った顔で小首を傾げる姫。
 このままではこの場を動くこともできない。
 だから、「トリック・オア・トリート」は危険だと言いたかったのだが、時すでに遅しだ。
……とりあえず、隙を見て逃げましょう。このままだと今日中の回収が難しくなります」
「そうやな……
 ごくりと唾を飲み込む。
 まるで、敵対組織に拉致でもされたかのような顔つきで頷くと、イツキは慎重にタイミングを計る。
 人の列が途切れる合間を縫って、2人は何とか群衆の輪から抜け出した。
 結局、人の波を躱すのに四苦八苦して、回収作業は深夜までかかってしまったのだった。


 街のあちこちには美しい悪魔を探して眷属のようになった人々が徘徊し、今年のハロウィンは混迷を極めた。
 それでも、その悪魔の正体のおかげか、街の治安は例年より遥かに良かったという。
 それが街の為にも良かったのか、良くなかったのかは、今となってはイツキには良く分からない。
 ただ何故か商店街の会長はその結果に酷く満足していたらしく、翌日、組の事務所には大量の酒瓶が届いた。
「また来年もよろしく」というメッセージを添えて。

 ちなみに、姫が受け取った大量のお菓子は、翌日、福祉施設にそのまま届けられたという。



おわり