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シノハラ
2024-10-31 22:43:52
1832文字
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アルカヴェ
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後輩が片思い中のアルカヴェが夜な夜な健康法を実践している話
2023/12/16初出
ああ、星空デート? なんてカーヴェが言うものだから、現実にしてやろうかとちらりと思う。
「君が十分程度で恋人との逢瀬を済ませるタイプだったとは。君の恋人はさぞかし寂しい思いをしていることだろう」
アルハイゼンの皮肉にもなり切らない真っ当な指摘に、カーヴェはデートの方針を改める必要がありそうだとからからと笑った。よいしょ、と上機嫌なままに掛け声と共にカウチから立ち上がり、先ほどまで飲んでいた酒のコップを取ろうとして結局止めたらしい。
少し怪しくなりはじめた足取りでカーヴェはアルハイゼンを先導するように歩き出すので、どうやら日課をこなすつもりはあるようだった。カーヴェに勢いよく開け放たれた扉が閉まる前にアルハイゼンも家の外に出ると、帰宅した時よりもいくらか冷めた夜気が頬を撫でる。
アルハイゼンとカーヴェは夜空を見上げる仲である。しかも、雨でも降らない限り欠かさず遂行されるため、どんよりと曇った空を二人で見ることもある。幸い今夜は綺麗に晴れており、カーヴェの言った通り星空を見上げる事になるだろう。そう言えば、非常にロマンティックな関係性に聞こえるが、この習慣はアルハイゼンの疲れ目なんてロマンスの欠片もないものがきっかけで始まっている。
代理業の賢者の職は多忙を極め、アルハイゼンの心身にそれなりの悪影響を及ぼした。その中でも、一番アルハイゼンに危機感を与えたのがこの疲れ目である。読書をライフワークとする者として、目は大事にしたい部位の筆頭なのは間違いない。
目の奥の痛みを感じるようになった日の週末にビマリスタンに掛かったところ、単なる疲れ目だと診断が降りた。医者は目薬を処方しながらも、一日十分でも遠くを見るといいですよ、とアルハイゼンに告げた。医者の助言に従いアルハイゼンは寝る前に家の外に出て、きっかり十分だけ夜空を見上げるようになったわけである。
アルハイゼンの生活習慣の変化にカーヴェが気づくまで、それ程時間はかからなかった。毎夜ふらりと外に出たかと思うと、すぐに帰ってくる同居人の挙動は言われてみればそこそこ異様である。不審者を見る眼差しで一体何をしているのかと問われて、疲れ目の治療だと伝えれば納得と共に憐憫の視線が与えられた。
あの一件について、カーヴェはとことん他人面を決め込んでいる。いや実際、砂漠で過ごしていたらしい彼は純然たる部外者であるのだが。
あの時一緒に巻き込まれてくれていればよかったのだ、という恨み事は喉の奥に飲み込んで胃に溶かしてしまう。それでもそうすれば、きっと代理賢者なんて厄介な仕事も一人でやらずに済んだはずなのになんて思いが喉に張り付いてくるのが厄介だ。
アルハイゼンのお門違いな恨み節なんて知る由もないカーヴェはその治療法は効くのかと尋ねてくる。意外と効くと答えたところ、僕も一緒に良いかいなんて彼は言ってきた。実のところ最近目の奥が重たくて、と彼は言っていたのだったか。
断る理由もなかったので、その日は二人で外に出た。家から少しも行かない場所で腰を下ろして、ちかちかと光る星空を見上げながら少しだけ話をしたのを覚えている。
それから彼が家にいて、天候が悪くない限りカーヴェはアルハイゼンと共に夜空を見上げることにしたらしい。彼曰く、体に良い事をしている感じがするとのことである。実際、家で度の強い酒を煽るよりかぼんやり空を見上げている方が体には良いだろう。まあ、結局小休止が入るだけで、再び飲み直してしまうのが大半なのだけれど。
今日のカーヴェはそれなりに酔っていることも手伝ってか、一人でぺらぺらと喋っていた。仕事の内容ではあるのだが、機密情報に当たりそうなものは回避されており、ギリギリ職業人としてのラインを死守している。
「
……
まだ帰らないのか?」
そんなカーヴェがぴたりと口を噤んだかと思えば、星を見上げるのを止めてこてんと首を傾げてくる。どうやら普段の倍以上の時間野外にいることにようやく気がついたらしい。アルハイゼンが思うよりもずっと酔っているのかもしれない。
「星空デートなんだろう」
「ふふ、なんだ、気に入ったのかいそれ」
夜中の外で大声を上げてはいけないくらいの理性は働いたのか、くすくすとカーヴェが笑う。街灯の灯りが届きづらい場所を選んではいるが、とっくに闇夜に慣れてしまった視界では彼が溶かすように口の端を緩めたのがアルハイゼンには見て取れた。
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