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みがきにしん
2024-10-31 21:07:06
2400文字
Public
フレンドさん宅の子が出てくるお話
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シュガくんを拾った話
さとうさん宅の子、シュガくんをアランくんが拾った日の話。
頭がガンガンする。
シュガは重い体を引きずってどうにか部屋を出た。それだけで疲労が数倍になり、熱が体の中をぐるぐる回っている。当然寝ていたいのだが、間が悪いことにここ最近依頼をみっちり詰め込んでいたせいで、部屋に引きこもるだけの食べ物も飲み物も薬もない。しかもこういう時に限って、人の部屋に入り込んでくる役者は諸国巡業中だ。
せめて飲み物と食べ物だけでも買って帰らなければならない。幸いにも紅梅御殿から出て少し歩けば茜雲商店街がある。この体調で持って帰れずとも注文だけすれば部屋まで届けてくれるはずだ。そこまで行けば
…
そう思い、一歩、一歩と足を進める。
その様子は客観的に見ればシラディハのゾンビーよりもフラフラしており、その動きはミニスライムよりも遅いのだが、頭痛でまともな思考ができていないシュガに分かるはずもない。ただ誰にも迷惑をかけたくない、という真面目さのみで動かない筋肉をどうにか動かしている。
「あ」
が、それが長く続くわけもなかった。それは単なるマットにしわが寄っていただけだったが、今の体調不良ナイトにとってはイシュガルドの山脈より高かった。つま先をひっかけ、足がもつれ、あっという間もなく目の前に床が迫って、そのまま視界は暗転した。
「
……
うわ、誰か寝てる」
「ああ。エーテル枯渇と過労だな、あれは」
「それで拾ってきたのかよ、お人好しすぎだろ
……
」
「エントランスで倒れてたんだ、放置できないだろう」
ひそひそと交わされる会話がシュガの意識を浮上させた。ぼんやりとした視界は、瞬きするごとにゆっくりと鮮明になったが、頭はやはりガンガンと痛み、体は鉛のように重い。
「あ、起きた」
黒い毛に包まれた長い耳がひょこりと揺れる。ぱちりと目が合うが、少年らしき面差しのヴィエラはふいと顔を背けてすぐに行ってしまった。代わりというように別の足音が上がってきて、ややしてひょいと顔を覗き込んだのは薄く笑みをたたえた同族だった。
「目が覚めたか?」
体を起こそうとしたが、重くて持ち上がらない。藻掻くにしても弱弱しい動きを見て、彼は手でシュガを制止する。
「ああ、起きなくていい。体内エーテルをほぼ使い切ってるんだ、まともに体を動かせなくても仕方がない」
「あなたは
……
?」
「俺はアランという。帰ってきたらエントランスで誰か倒れているものだから、とりあえず自分の部屋に運んだんだ。さっきのぞき込んでたのはラドミール」
「ご迷惑を
……
」
「気にするな。医者ではないが似たようなもので、放っておくのも座りが悪かったし、別に無料奉仕しているつもりはないから」
青年は手に持ったトレイをベッドサイドテーブルに置き、よいしょと言いながらシュガの体をそっと起こし、空いた背中にクッションを詰め込んだ。
「飲めるか? ああ、別に警戒するなら飲まなくていい。ただの増エーテル剤だ」
アランと名乗った彼は気になるなら先に飲もうか、とカップをもう一つ取り出し、少し移して口をつけて見せた。シュガはそれを眺め、次いでぼやりとする頭でカップの中を満たす液体を見る。戦闘中に何度か飲んだことのあるそれは薬臭く、正直あまりよい匂いはしない。手元にあるそれも同じ匂いがする。わずかな警戒心も残っていたが、結局ナイトはそれを飲んだ。
「う」
予想通りの味。苦く臭い。顔をしかめたが、ぼんやりとした頭がいくらか晴れ、手足にじんわりと熱が巡ってきて、詰めていた息をゆっくりと吐いた。
「ありがとう、ございます。ええと
…
アランさん。本当にご迷惑をおかけして
……
」
「アランでいい。さっきも言ったが別に無料奉仕ってわけじゃないから、そんなに気にする必要もない」
シュガは少し血色のよくなった顔をみるみる青くした。迷宮の前に待ち構えて、怪我や毒に侵された冒険者を癒してから法外な金を取る冒険者がいるとは聞いたことがあるが、まさか。
「
……
そんな顔をしなくても、吹っ掛けるつもりはないから安心してくれ。一般的な額をもらえればいいし、いつ払ってくれてもいい」
「おい!」
階下から声が飛んでくる。さっき顔を見ていたヴィエラの少年だろうか。シュガが首を伸ばして様子を窺えば、睨むような視線と目が合って慌てて首を縮めた。
アランはすまないと苦笑する。
「しっかりした奴だから、ちょっと気になっているみたいだ。ああ見えて怒っているわけじゃない」
「そう、なんですか
…
?」
階下を行くむすりとした顔は明らかに不機嫌そうで、青年が言うように怒っていないとは思えず、ナイトはしょんぼりと肩を落とした。何せ体調も悪ければ気分も落ち込みやすい。ただでさえ迷惑をかけているという自認もある。そんなシュガに対し、さっきの声が落ちてきた。
「そうだ、怒ってるに決まってる」
ヴィエラの少年はいつの間にか上ってきたのか、手に水差しとオートミールの入った皿を持っている。それをサイドテーブルにおいて、空っぽになったカップに水を注ぎ、シュガに突き出した。
「ただしそれはこいつにだ。散々話し込むならその前に飯くらい出すべきだし、金の話なんて元気になってからの方がいいに決まってる」
空気が読めないんだ、とラドミールはアランを鋭い目線で睨みつける。が、アランはどこ吹く風といった様子で受け流し、それもそうだなと雑な相づちを打った。それにまたヴィエラの少年が目線を鋭くしたのを見て、シュガは慌てて声を上げる。
「あ! すみません、名乗るのを忘れていました。シュガ・スクロースと言います。あの、本当に色々ありがとうございます!」
その声は自分で予想したより大きくびりびりと響いたので、ラドミールは耳をぴんと伸ばして目を丸くし、アランは吹き出した。
「改めてよろしく、シュガ」
「とりあえず飯が冷めないうちに食べてくれよ
……
」
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