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はりぼて
2024-10-31 20:46:31
2206文字
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とどち(初出:2024-07-25)
Xから再掲。
「じゃ、今日は俺の勝ちだな」
「
……
仕方ないですね、藤堂くんの赤点で手を打ちましょう」
「いや流石にもう取らねーよ!要はともかく清峰には負けんのは癪だし」
「前回二教科ギリギリだったの忘れてませんからね」
「ぐっ
……
」
自ら持ちかけた勝負に勝って得意気な藤堂くんをとりあえずいつものようにおちょくってから、自動販売機で買ったばかりのよく冷えたお茶を身体に流し込む。ジャケットは脱いだとはいえYシャツでのバッティングは夏ではないとはいえ身体に熱を持たせるには十分だったようで、喉を冷たい液体が通り抜けていく感覚が心地よい。
今日から一週間、テスト前のため部活動は一切禁止された。それは野球部も例外ではない。とはいえ、テストまではまだ一週間あるわけで。
――
なー千早、バッセンいかね?
教室がざわめき出した放課後、堂々と千早にそう提案してきた藤堂くんに、君はとっとと帰って勉強するべきじゃないですかね、と一応の嫌味は言いつつも、結局さほど抵抗せずに提案に乗ることにした。部活はなくてもどうせ何がしかのトレーニングはするわけだし。藤堂くんとバッティングセンターに行くと大体何がしか勝負をするので、勝って弾みをつけるか、なんて考えながらいつものように二人で来たわけだ。
勝つつもりが負けてしまったのは非常に不本意だが。
ペットボトルのお茶を半分ほど飲んでしまってからキャップを閉める。
「はい」
「おー」
片手で胸元のシャツを掴みばたばたと仰いでいる藤堂くんに残りを差し出した。片手でさらりとペットボトルを受け取り、そのまま器用に片手でペットボトルのふたをくるくると開けているのが妙に様になっていた腹が立つ。
「今の仕草いらっとしました」
「いや知るかよ」
ぐい、とペットボトルを煽った藤堂くんの喉仏が上下して、入学時より首太くなった気がするな、なんてどうでもいいことを考える。
どうせ今この場では飲み切れないし他人が口をつけたものに口をつけるのは遠慮被るが、自分が口をつけたものの後始末はどうでもいいので、時折藤堂くんとバッティングセンターに来た際はこうして飲み物を共有することがある。ちなみに今日は元々賭けの景品にしていた。やはり悔しい。
ぷは、と一気にお茶を飲み切ったらしい藤堂くんの息は豪快だ。今このバッティングセンターには俺と藤堂くんしかいない。来た時には他の客もいたのだが数分前に帰っていて、新しい客はまだ入っていない。
「この後メシ行くか?」
「奢りませんよ」
念のため、釘を指す。
「わーってるよ」
「ラーメンは気分じゃないです」
「ならファミレスでも行くか」
「一応聞きますけど、テスト前の自覚ありますか?」
「結局今日ここについてきたお前に言われたくねーわ」
俺は揶揄うような笑みを浮かべて、藤堂くんは挑戦的な笑みを浮かべて。これで、もう少し二人の時間が続くことが決まった。
お互い同じタイミングで小さく吹き出して、くすくす笑いあって、それが止まった時、ふと目が合う。じじじ、と切れかかっているらしい蛍光灯が明滅しはじめた。
沈黙は、数秒。
藤堂くんの息を呑む音がやたらと響いて聞こえる。
「千早」
名前を呼ばれる。ただ、それだけ。側にある自動販売機がぶうんと何やら音を立てて稼働をはじめる。
口を開いて、そのまま閉じた。
何ですか、とかとりあえず返事をすればいいのに、上手く言葉が出てこない。
もう一度試して、やはり閉口する。
藤堂くんも二の句を告げようとして失敗している。
目が合ってから、視線だけは絡み合ったまま。
何かを、何を。
蛍光灯はじじじじじと明滅を続けている。
二人して見つめ合って、でもその次を選択できない。
それでも視線を逸らすことは出来そうもない。
「おーめっちゃ空いてねー!?」
唐突に聞こえた他人の声に二人して飛び上がる。新しい客が来たらしい。大学生だろうか、男ばかりの五人グループはテンションが上がっているのか全員声が大きいのか、バッティングセンター内はたちまち騒々しさに包まれた。蛍光灯の明滅も収まったのか、また一定の光で室内を照らし出した。
自らの足元に視線を落として息を吐く。それから再び藤堂くんを見上げると、少しばつの悪そうな表情をしていた。
「
……
ファミレスに移動します?」
「
……
おー、行くか」
空になっていたペットボトルをゴミ箱に捨ててから、五人グループとすれ違うような形でバッティングセンターを後にした。外を歩き出す頃にはもういつもの温度感で、ちなみに何食べるつもりですかなんて取り止めのない話をしながら目的のファミレスへと向かう。すっかりなくなってしまった違和感に安堵しつつ、ちゃり、とメガネを持ち上げる。
少し前から、時折二人の間に流れるようになった不思議な時間。視線だけは絡まって、そのくせ互いにその次の行動を上手く探せずに、結果沈黙だけが通り過ぎて。
藤堂くんは、俺に何かを求めている。
俺も、藤堂くんに何かを求めている。
恐らくその何かはきっと同じもので、だけどもその輪郭はまだ掴めそうにない。
「何なんですかね」
「あ?何か言ったか?」
「いえ何も。空耳じゃないですか?」
口からでた乾いた笑いは、どうでもいい軽口はすぐに口を付く自分に対して呆れていることを誤魔化すためだった。
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