何か軽くつまめるものを。どちらかと言えば、今日は甘いものよりはしょっぱいものの口をしている。コンビニでふと手に取ったその菓子は、今日という日を考えると至極当然の選択だったかもしれない。
「一本もらってもいいかい?」
一人だったはずなのに、いつの間にやら王子も作戦室に来ていたらしい。タブレットから顔を上げれば、王子が菓子の袋を指差していた。中身はすでに半分以上減っている。いつの間にやら手が進んでいたらしい。集中できていたという意味では良いことだが、少し息を入れた方が良いタイミングかもしれない。
「一本でも二本でも」
「ありがとう」
タブレットを傍に置いて袋を王子に差し出せば、礼を言いながらするりと一本引き抜かれた。流れるように口に含まれ、ぽり、と軽快な音が鳴る。
「ん、おいしい」
「それは良かった」
一本はさくさく口の中に吸い込まれていく。もう一度袋の先を王子にむければ二本目も引き抜かれていった。ついでに自分も一本取り出してぽり、と咥える。ほどよい塩気は丁度求めていた味だ。
「しょっぱいのが欲しかったんだ」
「そうなのか」
「学校だと甘いのばっかりだったからね」
「……なるほど」
何気ない王子の一言で、ようやくコンビニで似たようなパッケージが並んでいたことに思い当たった。あまり意識はしていなかったが。二本目もさくさく食べ終えた王子が蔵内を見て小さく吹き出す。
「意識してなかったんだね?」
「……しょっぱくて軽めなものが食べたかっただけだな」
「たまに無性に食べたくなるよね」
袋を向けると王子は笑いながら三本目を手に取った。今度はすぐには口に咥えず、くるくると手の中で少し弄ぶ。ぴたり、と回転を止めると同時に王子は口を開いた。
「実は少し興味があるんだ」
王子が浮かべた笑顔はやたらと楽しげだ。いたずらっ子のそれに近い。
「……やってみない?」
何を、とは言わないのは蔵内が意図を汲み取るとわかっているからだろう。思わず苦笑した。
「あれ、だめかい?」
「今はな。二人がいつ来るかわからない」
「それもそうだ」
頷きながら王子は三本目を口に咥えた。さくさく、と小気味良い音が小さく響いて、王子の口の中に消えていく。
「……あとからなら、どうだろう?」
「……それならいいが、さすがに食べきっていると思うぞ」
蔵内も再び袋から一本取り出して食べ進める。今開いている分はそうもたないだろう。そうだよねえと王子は少し唸ってから、ふと動きを止めて蔵内をじいと見つめてきた。
「……しょっぱいもののあとって、甘いものが欲しくならないかな?」
ごくり、と食べていたものを飲み込んだ。
「……それは、確かにそうかもしれないな」
そう返せば、王子は再び楽しげに目を細めて口角を上げた。
「それなら、今のうちにしょっぱいものを食べておかないとね」
ふふ、と笑みをこぼしながら王子はするりと二本取り出してまとめて口に咥えた。蔵内も真似して二本同時に袋から取り出す。友人としての今の時間にはこのくらいのしょっぱさが丁度いいが、恋人としての時間には気持ち甘さを強めにして。
手の中の袋は直に質量を無くしてくしゃくしゃになるのだろう。ぽりりと口の中で二本を同時に咀嚼しながら、王子を見ていると、早くも甘いものが欲しくなったような気がした。
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