はりぼて
2024-10-31 20:27:26
1495文字
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これもひとつの恋愛証明(紫氷)

古に書いたssのうち気に入ってるやつを再掲。
「同じタイトル」「片想いの自覚とキス」をベースに書いた記憶。

触れられたことに気がついたのは、触れていた体温が離れてしまってからであった。

「ねえ、どうして気がつかないの」

25センチ自分より高いところにいるはずの後輩の顔が、普段よりはわずかに低い位置から氷室を見下ろしていた。その身長差故に紫原から氷室との距離を詰めてくることは度々あったけれども、先ほどのそれは、これまでの理由とは明らかに異なっていた。
或いは、これまでもそういう意味を含んでいたのかもしれない。含んでいると明確な意思を示されたのが今であったというだけで。

紫色の澄んだ瞳が、不安げに揺れているのが見て取れた。その容貌からは考えられないほどに、目の前の後輩は普段穏やかでしかしどこか冷静な瞳を覗かせているというのに。怒りを覗かせることはあっても、不安や焦りからは遠い人物であるはずなのに。

「俺が、男だから気がつかなかったの?」

氷室に語りかけるその唇が僅かに震えている。氷室は、ただ紫原の瞳を見つめ返すことしか出来ずにいた。何か言葉を発しようとしても、その口は浅い呼吸をするだけで声帯が震えることはない。

「室ちん、女の子に対してはいつも予防線張ってるよね。室ちんのこと好きな子達に、希望持たせないように。……無意識かもしれないけど」

でも、と言いながら氷室の肩を掴む力を強めたのは、意識的だったのだろうか。痛いのは氷室の方であるのに、多分今より痛みを感じさせる表情をしているのは、紫原の方であった。

「なのに、俺に対しては、何でも許して。さっきだって。……室ちんが見た目と違って喧嘩っ早いの、俺知ってるから、逃げると思ったのに」

どうして。繰り返されたその言葉は、そのまま氷室の心が問う言葉でもあった。
昔から、そういう意味での好意を向けられる機会は決して少なくはなかったし、同性から受け取ることも、今日がはじめてというわけではなかった。だからこそ他人の好意には敏感で、それとなく予防線を張るのは最早意識するまでもなく当たり前のことであるのは、先ほど紫原に指摘された通りで。

気がつかなかったから。それを言い訳に使うには、今までの自分達の距離があまりに近すぎたことを、今更ながらに自覚する。
ならば、どうして。
そう自分に再び問いかけたのと、紫原の顔が再び近づいてくるのは同時だった。拗ねたようなその表情にはまだ不安も焦りも見て取れたけれども、どこか吹っ切れたようでもあった。

「もう一回、さっきと同じことするから。いやなら逃げてよ」

再び距離が詰められる意味を、宣言される前から今度ははっきりと理解していたけれども。同じことをする、と言った割に今度はえらく優しく落とされた口づけから、氷室は結局逃げはしなかった。

……どうして、室ちん」

普段より頬の赤みの増した後輩に、伝える言葉はもう決まっていた。

「同じことするって言ったのに、アツシは優しいな」

微笑んでそう言えば、そういうことじゃねーし!と怒りかけた後輩の制服のネクタイを引っ張って、今度は氷室から紫原に口付けた。紫原が最初に氷室にしてみせたような、激しい口付けを。

「好きなんだよ、多分。アツシのこと。アツシと同じ意味合いで」

最初に仕掛けたのは自分の方であるはずなのに、事態を飲み込めないのか呆然としている紫原にそう告げれば、何度かぱくぱくと魚のように口を動かしたかと思うと、やっぱり俺室ちんキライ、と呟いていたけれども、その表情が自身の言葉を否定していたから。

だからアツシも、ちゃんと言って。

近づいたままの距離でそう囁いて、今度は優しく紫原に口付けを落とした。